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#日記

くちなしの欠伸

くちなしの欠伸

平日の昼下がりはいつも青写真を無理矢理引き伸ばしたみたいに間延びしている。わたしはくちのない生き物に向かってえんえんと話し続けている。風が吹いてそれは答える。その答に堪えて耐えて耐えて耐えて耐えていつか絶えるところまで目に見えている。それでもわたしはこうしてえんえんと話し続けている。それが届くかどうかではなく放ち続けることがわたしの意味で、だけどそういう掬い方をしているうちは結局わたしはわたしのな

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蒼き花束

蒼き花束

何度雨に降られようとも、何度運命に見放されようとも、それでもずっと音楽は続いた、それでもずっと、私たちの生活は続いてきた。

さよならの数だけ出会いがあった。
サヨナラだけが人生だけど、そこにはそれだけの出逢いがあった、サヨナラだけが、出逢いだけが、それでも音楽は続いてゆく、私たちの生活は続いてゆく、もう逢えない人、逢わない人、その数だけ私は年を重ねてきた、その数を数えている時間だけが私の今に意味

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揺らぎの狭間で

揺らぎの狭間で

“きみ”と“彼”とでは解像度が違う、その揺らぎの狭間で恋をしていたい。空気は冷たいのに春の匂いがするし、北風も心なしか少しだけやわらかくなった気がする。2月の冷たい春風、明日までの払込票、どれだけ探しても片方しか見つからないイヤリングと靴下、結局いつもお気に入りのセーターしか着ないからずっとクローゼットの奥に仕舞われたままの冬服たち、折り合い、妥協、いつまでも出しっぱなしの扇風機、30℃の冷房、蠢

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中央線は朝の色

中央線は朝の色

深夜2時半まで売れ残っていたおでんの大根は痩せなきゃ、と思いながら頬張るチョコバナナクレープと同じくらい美味しい。朝焼けと中央線のオレンジのグラデーションがあまりにも綺麗で、ああ中央線のその色は夕焼けじゃなくて朝の色だったんだ、と思った。夜明けを知らせる鳥の声に希望を見たことなんて一度もない。朝焼けと夕焼けはちゃんとピントを合わせないと今自分がどっちに生きているのか見失いそうになる。だから飛び込ん

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この一歩を証明したくて

この一歩を証明したくて

東京なのに磯の匂いがした。空飛ぶモノレールは宙を切って、労働の光を切り裂いてゆく。空から見下ろすイルミネーションはあまりにもちっぽけで安っぽくて泣きたくなった。ずっと私たちが必死に守っていた煌めきもあんなもんだったんだろうね。WHO IS BABY、今ランダム再生で流れているこの曲を聴くたびに、きっと私はこの夜のことを思い出すんだと思う。開演10分前に発券したチケットを握りしめて冬の空気を切り裂い

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