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合い鍵


それは、あなたと私を繋ぐ魔法の道具。

あなたから手渡された、まっさらな合い鍵。

私はそれを、握りしめる。

あなたと命の次に大事なもの。

いつでも、自由に部屋に入ってもいいよ

という、あなたからのパスポート。

私はあなたにとって特別な存在だと

認めてもらった。


高価なアクセサリーを扱うかのように

合い鍵を丁寧に大事に財布の奥にしまい込んだ。

毎日、合い鍵を失くしていないか、

ちゃんとあるかどうか確認した。

鍵を、まじまじと眺め、

愛おしむかのように

指先で表面をなぞる。

心が華やぐ、と同時に

あなたに会いたくなる。

ケンカをして、気まずくなっても

きっと、私達は大丈夫、と

合い鍵が精神安定剤にもなった。

あなたが忙しくて、なかなか会えなくても

合い鍵を見つめていると

寂しさが和らいだ。


でも、過ぎ行く時間が

蜜月の時を奪っていった。

あなたが、この町から去って行った。

合い鍵も、私の手もとから

永遠に消え去ってしまった。

残ったのは傷心と

抱えきれないほどの、あなたとの

切なくて、狂おしい過去。

 


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