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この世の果て(短編小説 7)


《《 今までのあらすじ →幽体離脱をした真希は、観光船の沈没事故で亡くなった女性の亡霊と知り合い、一時の友情を育んだ。その後、亡き両親や愛犬と、束の間の再会を果たした。そして、これで最後にしようと、3回目の幽体離脱をした 》》



真希は祈った。心を込めて。
女性と、沈没事故で亡くなった死者と行方不明者達の魂に向けて。
海に散った、尊い命。もっと生きたかった命。
強制的に人生が終了させられ、無念だったに違いない。
一見、穏やかに見えるこの海が、数多の命を飲み込んだとは信じられない。


その時、電話のベル? のような音が聞こえた、ような気がした。
真希は立ち上がり、耳を澄ます。

(誰もいないのに、いったいどこから?)

一定の間隔を置いて、それは鳴り続ける。
スマホではなく、固定電話の音に似ていた。
周辺を探してみる。
すると、松林の陰に電話ボックスが設置されているのが見えた。

(こんな所に、電話ボックス?)

真希は近づき、中に入ってみる。
公衆電話にも電話番号はあるから、誰かが間違ってかけてきたのだろう。
電話は執拗に鳴り続けている。
ふと、電話に出てみたい衝動に駆られた。
そしてなぜか次第に、この電話は自分に向けて鳴っている。そう思えてくるのだった。

幽体離脱をした体のせいか、受話器を外すのに手間取ってしまった。
やっと外すと、耳に当てる。
何も、聞こえない。
でも、どこかに繋がっているような気配を感じる。

「もしもし……」

突如、男性の声がした。

「もしもし、どこにかけてますか? ここは電話ボックスなんですよ」

真希が答える。

「その声は、真希?」

自分の名を呼ばれ、真希は驚く。

「えっ!?」

真希は動揺した。

(この声は、裕二?)

「もしかして、裕二? 裕二なの?」

「そうだよ」



かつて、裕二は真希の恋人だった。
5年前、東北の太平洋沖を震源とする、千年に一度と言われる大地震が発生した。
地震発生当日、恋人であった裕二は沿岸部へ出張で出かけていた。恐らく津波から逃げ遅れ、流されてしまったのだろう。未だに行方不明だ。
あれから5年、裕二の生存への期待は消え失せていた。
でも、裕二への愛情は真希の胸の奥に、ずっと残っている。

「裕二、生きてたの? もう死んでると思ってたわ」

「うん、もしかしたら、死んでるのかもしれない。 自分でもよく分からないんだ」

「えっ? どういうこと?」

「あの日、津波に流され、そこで記憶が途切れた。
もう終わりだ、僕は死ぬんだなと思った。だけど、しばらくしてから意識が蘇ったような感覚があって、本当に死んだのかどうか、分からなくなって……」

裕二が生きてると喜んだのも束の間、やはり死んでる可能性が強いのかもしれない。

「じゃあもし、死んでるとしても、幽霊でもいいから裕二に会いたいわ!」

「あぁ、真希、僕も会いたいよ。とても……」

「裕二、今どこにいるの?」

「ここは、どこだろう。いろいろ彷徨っているうちに、分からなくなった。たまたま電話ボックスを見つけて、そしたら何だか無性に引き付けられて、中に入ったんだ。受話器が外れていて、呼び出し音が鳴っているのが聞こえていた。不思議に思ったけど、どこに繋がっているのか気になって、耳に当てた」

「そうだったの……。何だか不思議な話しだね。
じゃあ、とにかく、今すぐ会いに行くわ。近くに何か目印になるようなものはある?」

真希が尋ねる。

「それが、特に何もないんだ。海に囲まれてるみたいで、まるで無人島みたいだよ」

(無人島……)

「そうなんだ。分かった。じゃあ、裕二、そこで待ってて。必ず会いに行くわ」


     つづく









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