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#花

金魚の鰭

金魚の鰭

私は、花も恥じらう乙女として恥ずかしいくらいの汗をかく。あがりやすく、赤面症もあって、顔が赤くなりやすい。
友人に言わせると、この時期少しでも体を動かした後の私の顔は、砂浜に打ち上げられて、情けなく口をぱくぱくするだけの、体は濡れているが、生命は干からびかけている魚らしい。
それで、あの時はたまたま部活の走り込みで、子供でもないというのに盛大に転んでしまい、私は教師と先輩方に許可を貰って、誰もいな

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絢爛たる華々

絢爛たる華々

「花遊虫舞」

揺籃花(ようらんか)の少し開いた蕾に、いそいそと蜜蜂が花粉を集めにやってきました。
ぶんぶん、大きいお尻を振りながら、女王様とまだ小さく白いおくるみに包まれた兄弟たちのために急いで、蜜も頂戴していきます。
とても甘い蜜が、ゆっくりゆっくり自分の口の管を伝っていくのを味わっていると、少しばかり失敬する気持ちを起こしても、仕方がないように思われました。
だって、もうここのところずっと休

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小鳥の啄み帳

小鳥の啄み帳

南天・・・これは毒消し、そのため味はよろしくない。渋いものが大変多い。実も小ぶりで、果実というよりは粒である。食べ過ぎや、胃もたれの時に、食しても良い。

優莉(すぐり)・・・森のルビィとも称される、とても美しく輝く小ぶりな赤い実。
食事を楽しむ事を提唱する側の身としては、舌だけではなく、目でも楽しめる食材の魅力に、取り憑かれる者が多くなるのは嬉しい限りなのだが、なにぶん、木の実はかなりの低木で食

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禽帝(とりみかど)

禽帝(とりみかど)

この世の全ての色を溶かしきったような、広く美しい牡丹畑の真ん中に、一羽の白い孔雀がいる。
白孔雀は、優雅な動きで脚を動かし、鋭い爪先を揃えて牡丹畑を歩き回る。
足の鱗に、陽の光が当たる度に、なめした革のような輝きが、牡丹畑の中を動いていく。
白孔雀は、明るい土の上に落ちている、花びらを見つけると、三日月の子供のような嘴でそろりと捉え、自身の羽の中に大切にしまい込む。
白銀の綿が降り積もった台地の体

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滑稽蜂

滑稽蜂

俺は、批評家という職業―と世間は言うが俺にはそれが一つの考え方の違いからなる人種のように思える。―引いては、それを糧に生きている生き物、存在自体が嫌だ。
自分たちは何も生み出さないくせに、人が出した作品、可愛い我が子に、自分の物差しを取り出して、
やれこの子は少し身長が足りないだの、太りすぎているだの、肌が脂っこくて、与える食べ物に注意せよだの、そんな煩わしい言い方をしながら、自分は正当な評価を下

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匂菫

匂菫

彼女は、通り名と同じ、その花の色と香りをいつも身にまとっていた。
縦に幾重ものプリーツが折り重なった、高級感の塊のような、紫色のドレス。
その色は紫根でも、葡萄でもなく、紫色の菫の花びらを一枚一枚溶かして染めたようだ。
彼女の胸元で大きく煌めく、見事なアメジストのブローチは、水に溶かせば、酒神バッカスが涎を垂らして欲しがる程の極上の葡萄酒が出来上がりそうな代物。
ひっそりとした木陰に咲いている菫

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花の王

花の王

とある大陸では、牡丹という獅子の鉤爪ような強さと、鬣の華やかさ、毛並みの美しさを併せ持つ花を、その威風堂々とした佇まいから、花の王と呼ぶようになりました。
また、その牡丹に似ているけれど、どことなく僕のような佇まいの芍薬という花は、宰相と呼ばれるようになりました。これは、その芍薬が、まだ生まれ落ちたばかりの、柔い淡雪のような色しか、持ち得なかった頃から始まるお話です。
皆さんは、花が喋るなど、ただ

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