松下幸之助と『経営の技法』#79

5/4の金言
 需要家に、納品後も声をかける。奉仕をして、喜ばれ、頼りにされる。

5/4の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 商売にとってサービスは昔から大事だが、専門家向けの製品が増えれば、一層サービスが大事になってくる。
 実際、よく発展されるお店では、売ることだけでなく、それ以上にサービスに心を配っている。特に不足や湖沼のないときのサービスが大事。
 だんだん暑くなってきて、扇風機がそろそろ要るようになると、ちょっと立ち寄って、去年の扇風機の調子を聞く。納品した商品の具合を聞く。いわば、声のサービスである。
 これは全くの奉仕で、すぐにどうこうというものはないが、顧客にしたらどんなにうれしく、また頼りに思われるか。こういうところに、商売人の真の喜びを感じ、尊さを自覚しなければならない。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 組織として何に取り組むのか、を理解するためには、それがなぜビジネスにとって重要なのか、を明らかにする必要があります。
 ここでのヒントは、専門性の高い商品ではない、という点でしょう。差別化しにくい商品で差別化するには、サービスが大事、ということが言えるでしょう。次に、サービスの具体的な手法として、訪問と声がけを上げています。これは、営業の古典的で最も重要な手法であり、その効能と限界は特にここでは検討しません。
 そこで、この顧客訪問と声がけ、あるいはこれに代わる何らかの顧客サポートを、組織的に行う方法が問題になります。しかも重要なことは、これが思いついたときにだけ行われるのではなく、計画的継続的に行われるような組織作りをすることです。
 例えば、個別の訪問を好まない顧客が多い商品やサービスの場合には、訪問や声がけに代わるサポートの方がより好ましく、それをIT技術と組み合わせれば、人手をかけずに、より顧客にとって好ましいサポートが展開できます。しかも、IT技術は、所定の条件で自動的にサポートしますから、計画性継続性も確保できます。
 他方、この仕組みを応用すれば、個別の訪問を好む顧客が多い商品やサービスの計画性継続性を高め、より効率的で効果的なサポートが可能になるでしょう。
 全くの奉仕、と松下幸之助氏は言いますが、顧客サポートの費用対効果も指標化し、定量的統計的にサポートしながら、その効率を高めていく手法も、顧客と心を通わせるための補助的なツールとして上手に活用すべき時代、と考えられるのです。
 このように、なぜこのサービスが必要なのか、を常に自問自答しながら、サービスの在り方と、それを組織的にサポートできる体制づくりを考えながら、社内体制を考えていきます。
 ところで、この導入方法の問題です。
 結局のところ、伝統的で泥臭い訪問や声がけと、IT等を活用した効率的な顧客サービスの使い分けの問題です。新たなサービスでコストを下げ、それで失敗すれば違うモデルを実験すればよい、という方法を取るベンチャー企業が多く見受けられますが、それは、小回りが利く大きさだからこそできる手法でもあります。
 しかし、このように敢えて極端を狙う手法こそ、大きい会社が採用すべき手法かもしれません。
 というのも、大きな会社では既存のプロセスを前提に動いている業務が多く、多少変更を加えても、その効果が見えない(現場が変化を受け付けない)場合が見受けられます。ここで、敢えて最初から中庸を目指すのではなく、いくつかの施策を順番に実施し、会社全体でそれらを経験したうえで、数年かけて中庸を目指す、という振り子のようなプロセスが考えられるのです。これは、経営学でも「揺らぎ」「矛盾」の経営として、組織を変えていくうえで有効な手法とされています。
 このように、どのようなゴールを定め、そこに至るプロセスをどのように考えるか、と問題を整理しながら、会社の政策を考えていきましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者に求められる資質の問題として考えます。
 顧客満足度、という指標が重視されるようになり、松下幸之助氏が度々問題にする、顧客との心のつながりの意味が、かなり見えてきました。顧客満足度を測定するために、様々な指標やデータが開発されています。
 すなわち、これを無視するわけでも、逆にこれに縛られるわけでもなく、会社の製品やサービスの効能を最大化する方策を冷静に見極め、導入できる資質が、経営者に求められます。さらに、これが規模の大きな会社になるほど、これを自分自身で行うのではなく、会社自身に行わせることができることまで必要となってくるのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏の言葉を、ブランド戦略の一環と位置付けることも可能です。例えば、スターバックスのファンを作る、という戦略です。これは、経営学の冒頭で議論される、経営戦略の基本中の基本で、ここでは、アフターサービスによりファンをたくさん作りだす、という作戦です。
 このように整理すると、ブランドイメージ構築のために、ターゲットごとの最適な手法を、マーケティングの手法によって導き出すことが可能になるでしょう。けれども同時に、その限界も正しく理解し、仮説と検証を繰り返しながらブランディングを進める、ということが良く理解できるでしょう。
 突き詰めれば同じことですが、違うアプローチも可能なのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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