松下幸之助と『経営の技法』#34

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/20の金言
 誤解を解こうとするのは当然のことだが、それを自らの反省の機会にもしてみたい。

2.3/20の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。短いので、全文を引用しましょう。
 誤解ということはよくあることだが、誰しも誤解されることを好むものではない。だから、それを解こうとするのは当然といえば当然だろう。
 しかし、より大切なのは、誤解されたということについて自分自身反省してみることだと思う。というのは、本当に正しいことであれば、一部の人は誤解しても、より多くの人はそれを認めてくれる。それが世の中というものであろう。
 そう考えれば、誤解されたからといって、必要以上に心を煩わすよりも、これを自らの反省の機会としたほうがよいといえよう。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、経営者のあり方を述べているようですが、会社組織が経営者の思うとおりに機能することが当然の前提でしょうから、会社組織のあり方でもあるはずです。
 そうすると、経営者が会社から誤解された場合、会社が社会から誤解された場合、の2つの場合が含まれます(経営者が社会から誤解された場合は、会社が社会から誤解された場合に含まれます)。けれども、経営者が個人としてその誤解を受ける場合については、氏の言葉どおりなので、ここでは後者の問題を中心に検討しましょう。
 ここで、氏のコメントを整理します。
 まず、誤解された場合に取りがちな言動として、①誤解を解こうとし、心をわずらわすこと、が示されています。
 逆に、誤解された場合に取るべき言動として、②反省する(すると世の中が認めてくれる)こと、が示されています。
 これを、順番に見ていきましょう。
 まず、①誤解を解こうとし、心を煩わす点です。
 これは、組織として見た場合、特に広報部門が弁明の記者会見を開いたり、企業広告を打ったりすることが、典型的な行動になるでしょう。もちろん、沈黙すると変に勘繰られることが懸念されますから、会社の考えをきちんと説明することも大事です。松下幸之助氏も、そのことを全て否定するわけではありません。
 けれども、言い訳に終始するのではなく、(反省したうえで)積極的なアピールに努めた方が良いことは、説明するまでもなく明らかです。会社として、言い訳はほどほどにして本業に集中しよう、というメッセージとして評価することも可能です。
 次に、②反省する点ですが、何か誤解を招く問題があったことは明らかですから、今後、誤解すらされないように改善してしまえば、会社の事業はより強くなります。PDCAサイクルを回すことの方が、立ち止まることに比較して、リスク管理上も経営上も、ずっとましなのです。
 このように考えると、経営者個人が誤解を自分自身の問題として抱え込んで悩むよりも、会社組織で受け止めてPDCAを回すことの方が、受け入れやすいかもしれません。一人で悩むより、皆で話し合い、行動する方が、気持ちが軽くなるからです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家と経営者の関係から見ることになりますが、そこで、松下幸之助氏の言葉を経営者個人の資質の問題として見れば、社会の評価に一喜一憂せずにどっしりした経営者が好ましく、会社の在り方の問題として見れば、きちんとPDCAサイクルを回すことができる経営者、ということになるでしょう。
 あるいは、現在の経営者に対して、このような経営者になるように、株主総会や社外取締役(株主の代理人のはずです)を通して働きかけ、チェックすることも重要になります。

5.おわりに
 誤解されていても下手に騒がない、と言うは易しですが、実際は大変です。
 まずは、経営者自身がどっしりと構えなければ、組織全体が動揺し、通常の業務にまで影響が出てしまいます。逆に言うと、どっしり構えるためにも、そして組織全体が落ち着いた対応ができるためにも、言い訳に終始するよりは、PDCAを回せ、という言い方ができそうです。
 どう思いますか?


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