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【小説版】暑中三行半
道の先に水のきらめきを見つけて、駆け寄ってから陽炎と気が付いた。ここ数日雨など降っていないのだ。手近な木陰へ駆け込むとひやりと首筋のあたりを風がさすっていく。木陰から見た土の道は一面湯をかけたようにゆらゆらとかすんで、とてもそこへ踏み出していく気がしない。金魚鉢片手に、帽子を持ってくればよかったといまさら後悔した。
「何やってんの」
どこからか降ってきた声がぼんやりした頭にやたら響く。
「なぁ」
晨のARIA
霞を食って文字を吐く
この文字が酸素になるならば人の役にも立てるのに
もったいない
散った文字を搔き集めて後生大事に飾っているけれど
人の肺を潤すには
やはり月桂樹になるしかないようで
しかしまだ挿絵の妖精たちが許してくれぬようで
私は色あせながら街を眺めている
目をあけて夢をみている
君に言ってんだぞ、ヘルマン・ヘッセ
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「眠る前にきいてください。僕は、煙草を吸うようになりました」
「先日ね、僕はついに訊かれたんだ。何になりたいんだ、未来のために今何をしているんだ、ってそういう具合に」
「僕は一言だって答えられなかったよ。何か気の利いた言葉があっただろうに」
「そこで思ったんだ、僕は乾ききって形を保っているんだよ。標本だ」
「僕はあの日の君によってピン止めされてしまったのだ。展翅針で