おうちにかえろ

川べりに子供が二人遊んでいた。
男の子は飛行機を振り回して走っていた。
女の子はしゃがんで丸い白い石を選んでは積んだ。
やがて男の子は飽きてしまって、走って行って女の子の積んだ石を端から崩してしまった。
「ねぇ帰ろうよ」
女の子は背伸びして川向こうの時計台を見た。
五時と三十分と二分だった。
「まだ、だめ」
男の子は石を蹴り上げてけらけら笑った。
「でっかい石が落ちてきたらぜんぶ燃えてさ、
溶けちまうんだってさ!」
「そんなこと学校で習ったの」
「うるさいなあ」
手ごろな石がなくなったので靴を蹴り上げて、けらけらと笑う。
女の子は黙ってまた石を積み始めた。
男の子はしばらく黙っていたが、急にその手元におもちゃの飛行機を投げ込んだ。
「なんで帰らないの」
「パパとママがだめっていったからよ」
「いないじゃんかそんなの」
石を拾う手を止め、女の子は首をかしげて男の子を見上げた。
肩で金髪がさらりと流れた。
男の子は残った片方の靴をいまにも川の方へ蹴り上げようとする。
「六時までだめってママが言ったの」
靴を爪先にひっかけてよろよろしながら男の子は時計を見た。
五時と二十分と四分だった。
歌うように、女の子は言った。
「パパが来てるからだめなのよ」
崩されても崩されても、白く丸い石はどんどん積み上げられていく。
女の子は三つ重ねては、一つ減らすのだった。
男の子は減らされた一つを拾って靴の代わりに川に投げた。
「パパ毎日違う顔してて嫌だ」
「六時になってパパが帰ったら、帰ってもいいんだわ。
ママは眠ってしまうからさびしいけれど」
「それまでずっと遊ぶの」
「そうよ六時までずっとよ」
「つまんないの」
ぱしんと音がして子供は二人とも川を見た。
魚が跳ねたのだった。
川向こうの時計は五時と四十分と七分だ。
「かえるときパパはきっとたばこを吸うのよ」
「そんでもってお金をおいてくの、なんでだろ」
女の子と男の子は手をつないで川をのぞいた。
「ママが明日からあたしは遊びに行かなくっていいって、そういうの」
さっき投げた白い石が深いところできらきら光っている。
細い魚がその上をくねりながら泳いでいった。
「きれいだからあそびにいかなくっていいんだって。
きれいなお洋服を着て六時までずっと家にいたらキャンディをくれるっていうのよ」
「変なの。いやだ」
男の子は手をほどいて、女の子の髪の毛を引っ張った。
「帰りたくないね」
川向こうに夕日が沈みかけて、時計台は赤く燃えたように見えた。

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