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ブログとエッセイのような

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三題噺と小説以外はこちらです。ながさもばらばら。
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2020年4月の記事一覧

踵の高い靴とアベリア

踵の高い靴とアベリア

かかとの高い靴は大人の女性の証であり、かかとの高い靴を履く、それ即ち、大人になることだと幼い頃から思っていた。ハイヒールは、大人の女性の特権だった。

地元でハイヒールはあまり馴染みがなかった。車社会なのでかかとの無い靴を重宝する大人が多かったし、お金のない学生はどこまでも徒歩移動が基本だったので、やっぱりスニーカーやかかとの無い靴、せいぜいローファーくらいが基本だった。田舎の風景に凛としたハイヒ

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絶賛、通過待ち

絶賛、通過待ち

思っていた青春ではなかったな、と思う。残念ながら幼い頃描いていたよりもだいぶ、自分は根暗だったし、中学生の時に人間関係に懲りてしまったので、まず第1に友達がほとんど居なかった。次に制服が引くほどダサかった。そして、金髪の生徒なんてどこにもいなかった。そんな田舎の高校で3年間を過ごした。

部活、スクールラブ、成績。高校生にもなれば、勝手に恋人ができるものだと思っていたけれど、ぼうっとゲームをしてい

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パセリの天ぷら

パセリの天ぷら

パセリは大方彩りとして添えられる、ということを知ったほうが、もしかしたら遅いのかもしれない。我が家では、物心ついた時からパセリは天麩羅にされて、さつまいもや、椎茸や、魚肉ソーセージなんかと一緒に大皿に載っているものだった。そして、その大皿の中で、わたしが1番好いていたのが、パセリ、それだった。あまいお芋でも、みんな大好き魚肉ソーセージでもなく。

それを知っていたので、祖母は春になるとバカみたいに

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いいおとな

いいおとな

ホームシックになった。

故郷を離れて5年目になる。年齢としてはもう立派な大人で、働き始めてもう数年目になった。住み始めた頃はすべてが目新しく、やけに都会に見えたこの街にももう別段なんの感情も無いし、転職に失敗して少なかった給料がもっと減った。工場夜景が見えるから、5年間引っ越せずにいる。冷蔵庫は壊れた。忙しく働くことは全然苦では無かったし、暇なのは孤独な気がして嫌いだった。引っ越して3日目、部屋

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無機質の起点

無機質の起点

線路と高速道路が好きだ。

春の終わりから夏にかけて、決まって酷い逃避願望に襲われる。突き動かされるように、急かされるように。そうすると大抵格安の高速バスに乗って、6時間揺られて、首都東京へ向かう。昼便の高速道路は、本当にどこへだって行けると錯覚させて、時速80kmで、高架下の景色が流れていく。緑が灰色に変わって、高揚していくことに夏と、切なさを憶えるのが、本当に好きだ。JRの各駅停車に乗って、た

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橙と革命

橙と革命

2020年4月20日。わたしが心底愛してやまない太宰治の長女である津島園子さんが亡くなった。偶然かなにか、折しも数日前から猛烈に太宰が読みたかった。HUMAN LOSTがいっとう好きだ。人間失格が読みたい。太宰治は人間だった。どうしようもなかったとしても人間であり、確かに父であったのだと思った。

人間は恋と革命のために生れて 来たのだ。

「斜陽」のなかで、彼はこう云った。恋も満足に出来ないので

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しゃばだば

しゃばだば

先の見えないということは不安だ。あかりの消えた街、表情のないひと、職場の契約の更新、実家の家族、行き場の無い逃避願望、閉塞感、圧迫感。つい一年前に祖父の死を経験した。それでも死にたい気持ちは消えなかった。ままごとみたいなリストカット。ドライヤーのコードと、賃貸の安い物干し竿では首も吊れなかった。浪費癖。クレジットカードの金額に冷や汗をかいて、刃物を握って、倍々の量の錠剤を呷る最低な日々。あのひとの

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