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異世界クソ野郎、がんばる!!|『シンデレラマン』(2)

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テーマ発表!!


 前回に引き続き、映画「シンデレラマン」をベースに新しい物語を妄想します。

※「シンデレラマン」のストーリーなどについては、前回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 それではまいりましょう!

三葉 はい。

嘉村 「シンデレラマン」は、貧困やケガに苦しみながらも、「家族」の生活費のために、そして「希望を失った人びと」を鼓舞するために戦い続けた男の物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……さて!どんな物語にしましょうか?


案①


三葉 まずは、「シンデレラマン」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて「案①」は……ズバリ!「『シンデレラマン』 ~『異世界クソ野郎』編」です。


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嘉村 異世界クソ野郎……?

三葉 「シンデレラマン」と比較すると以下のようになります。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は男子高校生です。ある日、彼はドスン!トラックに轢かれて……死にました。そして異世界に転生。

嘉村 つまり、「異世界転生もの」ですね。


三葉 ええ、その通りです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そして多くの「異世界転生もの」同様、この主人公も神からチート能力を授かりました。

嘉村 ほぉ。

三葉 「チート能力」と一口に言っても様々ですが……ここでは、「魔力量は無尽蔵で、7属性すべての魔法を使いこなすことができ、さらに属人性の高いユニーク魔法もバカバカ使いたい放題」という豪華バージョンをご想像ください。

嘉村 ははぁ……「異世界はスマートフォンとともに。」の主人公・望月冬夜みたいですね。


三葉 そうですね。そして望月冬夜同様、この主人公も元々は温厚な性格をした「いいヤツ」だったのですが……「金や権力を持つと人は変わってしまう」なんて言いますが、それはチート能力にも当てはまることでして。

嘉村 ふーむ。

三葉 すなわち、主人公は次第に嫌味な野郎になっていきます。確かに、彼は強いのです。前人未到の難関クエストをドシドシこなしていく。

嘉村 ええ。

三葉 しかし問題は……それを鼻にかけるところ!他の冒険者を小バカにする!ハーレムを築く!王宮をしのぐ豪邸で暮らし始める!タイコモチを傍に置く!ドンペリ!シャンパンタワー!純金のバスタブ!札束風呂!


嘉村 バブル期の中年オヤジみたいですねぇ……。

三葉 もう絶好調である!怖いものなぞ皆無!……ある日、主人公は満月を見つめて呟きました「まるでオレのようだ」。ハーレムの女が訊く「えっ、どういうこと?」「フフッ。見ろよ、あの見事なフルムーンを。三日月でもねぇ。弦月でもねぇ。一片たりとも欠けてねぇ。あの真ん丸な月のように、オレもパーフェクトだってことよ!」。

嘉村 「この世をば/わが世とぞ思ふ/望月の/欠けたることも/なしと思えば」か……藤原道長みたいなことを言いますね。


三葉 とまぁ、飲めや歌えの乱痴気騒ぎを繰り広げていたわけですが……いつまでもそんな生活が続く道理もない。「平家物語」風に言えば、「驕れる者久しからず。ただ春の夜の夢の如し」ってヤツですね。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公のやりたい放題っぷりを見て、神は眉をひそめていました「ったく人間ってヤツは、すぐに調子に乗る。困ったものよ」。かくしてある日を境に……主人公はすべての能力を取り上げられてしまった!

嘉村 おー!

三葉 世界は一変しました。主人公は世界最強のチート能力者から、グズでトンマな痴れ者に転落したのです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 こうなると、人間ってのは哀れなものです。ハーレムの女たちは、金目のモノを持って姿を消した。タイコモチもとんずらする。

嘉村 まさに、金の切れ目が縁の切れ目ってヤツですね。

三葉 主人公は怯える。ただただ恐ろしい。頭から布団をかぶり、神に謝罪する。しかし……神とは冷酷なもの。すべてを与え、すべてを奪うもの。主人公の前には2度と姿を現しませんでした。

嘉村 ふーむ。

三葉 主人公は悔いる。泣く。怒る「おい、神よ!後から奪い取るくらいなら、最初からチート能力なんて与えるなよ!お前が悪いんだ!お前がオレの人生を狂わせたんだ!」。

嘉村 まぁ、確かにねぇ……。

三葉 そして3日ほど経ち……主人公はようやく冷静さを取り戻しました。なるほど。確かにオレは調子に乗っていた。神に見放されるのもわかる。あー、オレって本当にバカ。バカすぎて笑っちゃうよ。フフッ。「オレは満月のようだ」って、一体どんな戯言だよ。フフフッ。彼は思う「死のう」。

嘉村 ふむ。

三葉 しかし結局のところ、彼は思いとどまります。

嘉村 ほぉ……何があったのでしょう?

三葉 ええ。じつは……散り散りになったハーレムの女たちですが、まだ2人だけ残っていたのです。主人公は自嘲気味に笑う「オレのことは見捨てていいんだぜ。少しでも金になりそうなものがあれば、それをやる。さっさと出ていくんだな」。しかし2人は、首を横に振りました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 「私は、何があろうともご主人様にお仕えします」。そう言ったのは、純真で真面目、三つ編みにメガネの少女です。彼女は奴隷として酷使されていたところを主人公に救い出され、それ以来この邸宅で暮らしていました。「私は、この命をご主人様に捧げると誓いました。たとえ地獄の底だろうとお供いたします」。

嘉村 駒形由美みたいなことを言いますね。


三葉 もう1人の少女は、酸いも甘いも噛みわけたお姉さんタイプです。彼女は、主人公の鼻の頭をツンとつつくと、「フフッ。強がっちゃって。本当は心細いんでしょ?寂しいんでしょ?一緒にいてほしいんでしょ?大丈夫。私はあなたを見捨てたりしないわ」

嘉村 なるほど。「聖処女」タイプと、「グレートマザー」タイプって感じの2人ですね。

三葉 さて……主人公は、元々はごく普通の高校生。温厚な「いいヤツ」です。そんな彼が、女性からここまで言われたわけで、これはもうおめおめと死ぬことはできません。彼は腹をくくりました。やり直そう。かくして、主人公は変わりました。彼は、魔術を基礎から学び直す。これまで疎かにしていた体術や学問の習得にも精を出す。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そんな主人公を……街の人びとは嘲り、冷笑しました「ざまぁ見されせ。いい気味だ」。

嘉村 まぁ……無理もありませんよねぇ。

三葉 そうですね。下劣と言えばこれほど下劣なことはありませんが……実際のところ私たちは、嫌味な感じの芸能人や調子に乗っているIT企業の社長が落ちぶれる様を見るのが大好きですからね。

嘉村 ふむ。

三葉 したがって、街の人びとが主人公を嘲笑するのも無理ないでしょう。……が、主人公はそれを気にしませんでした「これまでの行いを振り返れば、そりゃ嫌われるのも無理ねぇわな」。彼は、自分を信じてくれた2人の女性のために黙々と修行に励み、少しずつ腕を上げていった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 やがて金が尽きる。働かねばならぬ。主人公は、クエスト案内所へ赴きました「金になる仕事を紹介してほしい」。しかし受付嬢は気まずそうに、曖昧な笑みを浮かべました。と言うのも、いまの主人公にこなせる仕事はごくごく限られているのです。ビギナー向けのじつに簡単な……つまりは微々たる報酬しか得られぬ案件です。

嘉村 ええ。

三葉 かつてはドラゴンだの、巨人族の王だのを討伐し、一夜にして莫大な報酬を得たものですが、いまは小銭稼ぎが精一杯。……かつての栄華を知る受付嬢は気まずさに耐えかねて呟きました「あの……何だかすみません」。しかし主人公は「いや、助かるよ。これで家族にメシを食わせてやれる」。

嘉村 うーむ……何だかかわいそうになってきましたね。

三葉 その後も……主人公は血のにじむような努力を重ね、腕を磨いた。そして毎日細々としたクエストをこなし、女たちにメシを食わせる。一方、女たちはどんな粗食にも文句を言うことなく、主人公を励まし続けた。

嘉村 ふむふむ。

三葉 やがて……街の人びとの主人公を見る目が変わっていきます「何つーか……アイツも根は悪いヤツじゃねぇのかもな」「まぁ……最近は頑張ってるよな」。

嘉村 ふむ。

三葉 そして、そんなある日……主人公がクエスト案内所の受付嬢に尋ねました「もう少し金になる仕事はないかな?」「あの……申し訳ありません。あなたのレベルですと……」「いや、わかっている。無理を言っていることは百も承知だ。しかし……じつは、家族の誕生日が近いんだ。たまには豪華なメシを食わせてやりたい。服の1枚も買ってやりたい」「……」「オレの稼ぎだけじゃ食っていくのもきつくてな。アイツら、服もアクセサリーも全部売り払っちまった。誕生日くらいはきれいな服を着せてやりたいんだよ」「……ええ」「何とかならねぇかなぁ」「しかし……」「頼むよ。なっ、一生の頼みだ」。

嘉村 なるほど。

三葉 受付嬢は悩む。……街の人びと同様、彼女も最近の主人公には好意を抱き、また同情していたのです。短い沈黙の後、彼女はうなずきました「ここに1つ、フリーの案件があります。レベルもスキルも不問です」「おー、いいじゃねぇか!」「難易度のわりに報酬が低いので、誰もがやりたがらず、条件がフリーになった案件です。難易度はA」「……A」「ええ。ランクEのあなたにオススメできるものではありません。しかし……」「助かるよ!やらせてもらおう」「……命の保証はありませんよ」「わかっているさ」。

嘉村 ふーむ。

三葉 受付嬢は嘆息する「私の仕事は、みなさんに適切な案件をご提案することです。私は受付嬢失格ですね」「いや、あんたは最高の受付嬢さ」。受付嬢は再びため息をつくと「わかりました。乗りかかった舟です。最後までお付き合いしましょう」。彼女は、大量の書類をテーブルに並べた。「何だい、これは?」「保険です。こっちは、クエストを失敗した時の保険。失敗しても報酬の1割がもらえます」「ほぉ」「それから、こっちは装備が破損した時の保険です。あと、ケガをした時の保険。それに……」「死亡保険も頼む」「……私、こう見えても保険のプランナーの資格を持っているんですよ。それに、保険屋には顔が利きます。最高の保険を組んでみせますよ」「やっぱりあなたは最高の受付嬢だよ」。

嘉村 ふーむ、じつにいい人ですね。

三葉 とまぁそんな具合に、主人公は分不相応のクエストに挑戦することになりました。厳しい戦いになることは目に見えています。主人公の家族……彼と共に生きることを選んだ2人の女性は、激しく動揺しました「やっ、止めてください!お金なんてどうにかなりますよ!」「なっ、何考えているのよ!あんた死ぬ気なの!?」。しかし主人公は、「オレはきみら2人を家族だと思っている。そして、家族を養うために危険を冒すのは当然のことさ。オレだけじゃない。みんなそうしている。山で猟をする者は、猛獣に襲われる危険と隣り合わせだ。漁業を生業とする者は、いつ嵐と遭遇するとも知れない。しかし彼らは働いている。家族のために。オレも一緒さ」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 街の人びとも心配する「ヤバかったらすぐに逃げてこいよ」「無理するな!」「たっぷり保険に入ったんだろ?一太刀浴びせたらそれで逃げちゃえよ!」。受付嬢も青ざめた顔で「あなたは、勇気と蛮勇の違いを理解しているはずです。ご武運を」。

嘉村 ふむ。

三葉 そして、いよいよその日がやってきました。主人公がクエストに臨む。いまの彼には、チート能力はありません。魔術レベルは小学生並みです。しかし彼には……経験があった!かつてチート能力者として化け物どもと渡り合ってきた経験!経験とは誠に宝です。彼は、大勢の予想を裏切って完全勝利を収めました。

嘉村 ほぉ!

三葉 多くの人が、主人公の無事と勝利を喜んだ。主人公は、転生以来初めて街の人びとと打ち解けました。そして彼の家族の誕生日には、多くの人が集まりました。主人公は幸せでした。女たちも幸せでした。もちろん、街の人びとだって幸せです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて、ずばりハッピーエンドという風ですが……物語はまだ終わりません。むしろここからが本番です。

嘉村 と言うと……?

三葉 ええ。あのクエストから数日後、主人公は再び難関クエストに申し込みました。彼の家族は仰天する「ちょっ……ちょっと!あんた、自殺願望でもあるの!?」「ご主人様!当面の生活費には困りません!どうかじっくり鍛錬に努めてください」。しかし主人公は、笑って首を横に振る。彼は危険を承知の上で戦い続けるのです。一体なぜか?それは……そう!彼が「家族」の生活費のためのみならず、「街の人びと」を鼓舞するためにも戦っているからです。

嘉村 ほぉ……。

三葉 ドラゴンやら巨人族やらが闊歩する世界ですからね。人間族の肩身は狭い。私たちの住むこの世界よりもずっと危険で、人びとは常に不安を抱えて生きている。そんな彼らには、ヒーローが必要だったのです。

嘉村 ヒーロー……。

三葉 ええ。ただし「ヒーロー」と言っても、完全無欠のチートキャラではいけません。それでは共感できぬし、応援しようという気にもならぬ。人びとが必要としているのは、「彼ら同様多くの困難を抱え、時には敗北しつつも、それでも立ち上がり、戦い続けるヒーロー」です。言わば、「敗者復活型のヒーロー」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 かくして主人公は今日も戦い続けるのでした。……というところで物語は幕を閉じます。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『シンデレラマン』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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