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いつか王子様がやってくる……として、王子様は私を何から救ってくれるのだろう?|『未確認で進行形』(4)

 本記事は、アニメ「未確認で進行形」を徹底分析する特集の……第4回である★


第1回からご覧になることをオススメします!


今回のテーマ!


 ここまで、主役・小紅の「人となり」と「何事にも消極的な理由」第2回)、「キャラデザの特徴(胸も尻も大きいのに、なぜエッチな感じがしないのか?)」第3回)について詳述してきた。 


 そして今回もやっぱり……小紅!

 テーマは、彼女の「価値観」である。


※左:小紅。


【問①】小紅は「家事が得意な自分」をどう思っているのだろうか?


 第2回でご紹介した通り……小紅は家事が大得意である


 彼女は幼い頃から、仕事が忙しい母、家事だけは苦手な姉・紅緒に代わって、家事一切を取り仕切ってきた。

 その結果、いまでは料理にしても掃除にしても、高校生とは思えぬ腕前となっている。


 そして作中のキャラ(例えば紅緒、真白ら)も、私たち視聴者も、そんな彼女の「良妻賢母」的なところを大変魅力に感じているわけだが……はて。

 小紅自身は、「家事が得意な自分」をどう思っているのだろうか?


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 参考になるエピソードを2つご紹介しよう。


 まず、ふと将来に思いを馳せる小紅のモノローグ(第6話)。

小紅「本当に私……このまま白夜と結婚するのかな……。そりゃ他に好きな人とかいないけど……。母様はほとんど私たちのこと、女手1つで育ててくれたくらい仕事バリバリだし。姉様も優秀だから、将来もいろいろ選択肢があるんだろうなぁ。私は家事や料理が好きなくらいだし……ということは選択肢1つ……」

 小紅は自分の選択肢の少なさ、つまり専業主婦しかないことに苦笑する。


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 続いて、心身の疲労から体調を崩し、熱に冒された小紅が見た夢をご紹介する(第12話)。


 玄関。

 小学生の頃だろうか。幼い小紅が笑顔を浮かべている。

 小紅が、外出する母と、やはり小学生らしき紅緒を見送る場面だ。

紅緒「それじゃあ行ってくるわね、小紅」

「大人しく留守番してるのよ」

小紅「はい、行ってらっしゃい!」

 小紅は笑顔だが……拳を握った手にはギュッと力が入っている。

 母と紅緒が去り、小紅は1人ぼっちになる。

 次の場面では、小紅が1人キッチンで料理を作っている。

小紅のモノローグ「みんないなくなってしまう。私は母様や姉様みたいに勉強もできないし、運動神経もよくない。家事ぐらいしかできないから……」


※補足①:これは小紅の見た夢である。実際にあった出来事なのか、それとも小紅の抱える「孤独感」や「1人にしないでほしいという願望」の表出なのか定かではない。

※補足②:この夢に登場する玄関やキッチンは、現在の夜ノ森家のものとはデザインが異なっている。おそらくこのあと建替え、もしくはリフォームして、現在の姿になるのだろう。


【問②】小紅はなぜ「家事が得意な自分」を誇りに思わないのか?


 さて2つのエピソードをご覧いただいたが、ここから考えるに……どうやら小紅は「家事が得意な自分」を誇りには思っていないようだ

 一体なぜだろう?


 高1にしてあの腕前である。

 自慢できる特技だと思うのだが……?


 彼女が誇りを持てない理由、これは要するに「価値観の問題」だろう。

 「『スポーツができる男子はカッコいい!』という価値観が支配的な小学生の間では、どれだけ勉強ができたとしても自慢にはならない」というのと同じことだ。


 人は、自分が「価値がある」と認めた分野で活躍できなければ、誇りには感じないものだ。

 それ以外の分野でどれだけ活躍しようとも、胸を張るには至らないのだ。


 はて。

 それでは小紅の価値観とはどのようなものだろうか?

 第2回でご紹介した通り……彼女は、母や紅緒を尊敬している。外の世界でバリバリアクティブに活躍する姿に憧れている。

 つまり小紅は、「外の世界で活躍すること」に価値を見出しているのだ。


 そんな彼女にとって、家事とは「外の世界で活躍できない自分が、致し方なく担当するもの」にすぎない。

 当然、誇りなんて持てないというわけだ。


【中間整理】小紅は「男性的」なものに価値を見出し、「女性的」な自分を卑下する


 ここまで、小紅は「外の世界でバリバリアクティブに活躍すること」に価値を見出しているとご説明したが……ところで。

 伝統的な「性別役割分業」観に照らし合わせれば、この「外の世界でバリバリアクティブに活躍すること」は「男性的」と言えるだろう

 一方、「家の中で家事に取り組むこと」は「女性的」と言える。


※伝統的な「性別役割分業」観:ここでは、「『男は仕事、女は家事』、『男は妻子を養い、女は家庭を守る』ってのが当然だよね!理想だよね!」という考えのこと。


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 また、第2回第3回で繰り返しご指摘した通り……小紅は「良妻賢母」型のヒロインである。

 つまり、見た目も中身も、彼女はじつに「女性的」なのだ。


 ところが、である。

 上述の通り、小紅は「男性的」なものに価値を見出している。

 だから、「女性的」な自分を卑下してしまう。


【仮説】「未確認で進行形」の今後


 「女性的」でありながら、「男性的」なものに価値を見出す小紅……この先、彼女はどうなるのだろうか?


 「未確認で進行形」の今後を妄想してみよう。

 ごくごくシンプルに考えると……「未確認で進行形」は、「小紅が白夜と出会い、白夜と交流を重ねる中で、ありのままの自分を受け入れられるようになる物語」だ。


 つまり、「小紅が『女性的』な自分を受け入れていく物語」であり、さらに具体的に言えば、「『女は家事』?『女は家を守る』?……ハァ?いつの話?女性だって外に出て、バリバリアクティブに活躍するべきでしょ!」という価値観が広まり、「専業主婦になりたい」と大きな声ではいいづらいこの時代において、小紅が「専業主婦として生きるのもアリかも……ううん。私は専業主婦になりたかったんだ!」と考えるに至るまでの物語と思われる。


※小紅。


【考察】王子様は私を何から守ってくれるのだろう?


 本記事のタイトルは、ディズニー映画「白雪姫」の挿入歌として知られる「Someday My Prince Will Come」(邦題:「いつか王子様が」)から取っている。


 歌詞を一部引用してみよう。

Someday, my prince will come
Someday, We'll meet again
And away to his castle we'll go
Tobe happy forever, I know


 「いつか王子様がやってきて、私たちは彼のお城で永遠にハッピーに暮らすのよ!」という甘ったるい物語は、まさに「ガール・ミーツ・ボーイもの」の本質だと思うが……さて!

 「未確認で進行形」はこの使い古されたテンプレに、新たな息吹を吹き込んだ作品と解釈できるのではないだろうか。


 少なくとも80年代生まれの私にとって馴染み深いのは、「『女性的』ではない女の子が、ガール・ミーツ・ボーイを経てありのままの自分を受け入れられるようになる物語」である。

 「『女性的』ではない女の子」とは、例えば胸が小さくて悩んでいたり、勉強や運動はそこそこできても家事だけは苦手だったり(料理を作ると鍋が爆発!)、みんなが呆れるほどおてんばだったり……「姫ちゃんのリボン」の姫子なんて典型例だろう。


 そんな男勝りの女の子のもとに、白馬に乗った王子様がやってきて、「『女性的』ではないから悩んでる?……そんなの関係ないさ!きみはそのままでいいんだよ」と言ってくれる物語。

 ……これが、私たちのよく知る「ガール・ミーツ・ボーイもの」ではないだろうか。


 それに対して、「未確認で進行形」!

 本作の王子様・白夜のセリフはきっとこうだ……「『男性的』ではないから悩んでる?……そんなの関係ないさ!きみはそのままでいいんだよ」。


※お姫様と王子様。なお、以下のツイートの投稿主の「荒井チェリー」さんは、本作の原作者。


【補足】王子様がやってきた……ド田舎から


 ところで……白夜が生まれ育ったのは、信号が1つもない山奥の村だ。

 小紅にとっての王子様・白夜がド田舎出身というのは興味深い設定である。


 一般論として……都会と田舎を比べれば、「性別役割分業」観が根強く残っているのは後者の方だ。


 例えば、行動単位が「個人」や「家族」、「夫婦」ではなくて、「男衆/女衆」だったりする。

 「食事は男が先。女は台所でササッと済ませる」なんて習慣が残っていたりする。


 「未確認で進行形」は、そんな前時代的な世界からやってきた王子様が、「女性も『男性的』でなければならぬ!外の世界でバリバリアクティブに活躍しなければならぬ!」という価値観に苦しむ「『女性的』な女の子」を救う話……なのかもしれない。



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(担当:三葉)

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