アニメ「Kanon」第13話を5つの視点から分析する👀
引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第13話。第12話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!
分析対象
あらすじ
【ポイント①】なぜ3人組(トリオ)が多数登場するのか?
<1>
本話のタイトルは「あぶなげな三重奏(トリオ)」。
そしてこのタイトルの通り、本話には【あぶなげなトリオ】、つまり【どことなく不安定な3人組/見ていて違和感を覚える3人組】が多数登場する。
以下、主だったトリオを列挙してみよう。
▶トリオ1:祐一、舞、佐祐理
・前話から始まった<舞ルート(舞をヒロインに据えた専用ストーリー)>の主役トリオだ。
・本話では、祐一と舞がたびたび衝突する。もしも温和な佐祐理がいなければ、2人はもっと深刻に、決定的に対立していたのではあるまいか。見ていてハラハラする。じつに不安定である。
※祐一と舞の対立については後ほど詳しく分析する。
▶トリオ2:祐一、名雪、北川
・冒頭、祐一は名雪と共に登校する。そこに北川がやってきて、<久瀬が「舞を退学にする」と息巻いている>と祐一に知らせる。
・さて、祐一と名雪が揃って登校するのはいつものことだ。だが、そこに北川がやってくるのが珍しい。これ、いつもなら香里がやってくるであろう場面だ(例えば前話の終盤には、<祐一と名雪が登校中に香里と遭遇する>というシーンがある)。「ほぉ、ここで北川が登場か」と違和感を持った鑑賞者は少なくないだろう。
▶トリオ3:祐一、佐祐理、北川
・舞の退学を阻止すべく、生徒会メンバーに直談判するシーン。
・相手は久瀬ら生徒会メンバー。一方、こちらは祐一、佐祐理、北川……何とも珍しい3人組だ。特に、<舞の退学について丁々発止しているのに肝心の舞がいない>という点に違和感を覚えた鑑賞者は多いと思う。
▶トリオ4:祐一、栞、香里
・<いつも通り、裏庭で談笑する祐一と栞。それを校舎内からじっと見つめる香里>というシーン。
・「栞と香里はどのような関係なのだろうか?」「姉妹だとすれば、香里はなぜ嘘をついているのだろうか?」「過去に何かあったのだろうか?」などなど、様々な疑問が浮かぶ。じつに不安定なシーン、見ていてハラハラするトリオである。
▶トリオ5:香里、舞、佐祐理
・<祐一と栞をじっと見つめる香里>の後ろを舞と佐祐理が通過するというシーンがある。
・強い信頼関係で結ばれた舞と佐祐理に対して、姉妹ながら栞との間に何かがあるらしき香里……何とも落ち着きの悪いトリオである。
▶トリオ6:祐一、舞、あゆ
・夜、祐一はあゆを連れて学校に向かった。そして、舞とあゆが初めて顔を合わせる。
・祐一、舞、あゆ……これまた何とも珍しい、違和感溢れる組み合わせである。
▶トリオ7:祐一、名雪、あゆ
・祐一、名雪、あゆが自宅で朝食を食べるシーン。
・このシーン、なぜか秋子が登場しない(過去の朝食シーンには必ず秋子が同席していたはずなのだが)。その上、名雪とあゆは本話のメインヒロイン。いずれ祐一を巡って対立することになるであろう2人だ。一見和やかながら、どうにも落ち着かぬ雰囲気が漂っているように思わないだろうか。
<2>
とまぁこのように、本話には【あぶなげなトリオ(どことなく不安定な3人組/見ていて違和感を覚える3人組)】が多数登場する。
そして、これは意図的なものだろう。制作者は意図して【あぶなげなトリオ】を登場させまくったに違いない。
では、制作者の狙いは何か?
何のために【あぶなげなトリオ】を登場させまくったのか考えてみよう。
<3>
私は、制作者の狙いは2つに大別できると思う。
第1に……そもそも「Kanon」は複数の物語(舞ルート、名雪ルート、あゆルート、栞ルート etc.)を同時並行的に描く作品だ。
特定のヒロインにフォーカスしたエピソードならまだしも(例えば第7話~第10話は真琴にフォーカスしたエピソードだった)、本話のように入れ代わり立ち代わりヒロインが登場するタイプのエピソードでは、<複数の物語がバラバラに並んでいるだけで、ストーリーにまとまりがない>となりかねない。
で、ここで【あぶなげなトリオ】である!
<舞メインのシーン>にも、<名雪メインのシーン>にも、<あゆメインのシーン>にも、<栞メインのシーン>にも、さらには祐一や北川、香里、佐祐理が登場するシーンにも、【あぶなげなトリオ】という共通の演出を施してやるのだ。
これにより、ストーリーにまとまりが生まれるという次第である(正確には、私たち鑑賞者がまとまりを感じられるようになる)。
※補足:第2話には、<キャラが走るシーン>や<キャラがぶつかるシーン>が繰り返し描かれている。また、第3話では各キャラとも記憶を失っていることが明かされる。これらも本話の【あぶなげなトリオ】同様、同時並行的に描かれるエピソードを束ね、鑑賞者がまとまりを感じられるようにするのに貢献している。
<4>
制作者が【あぶなげなトリオ】を登場させまくったもう1つの理由は……とあるトリオに注目を集めるためだと思う。
先ほど、私は7つのトリオをご紹介した。しかし本話には、もう1組重要なトリオが登場する。
すなわち、
▶トリオ8:祐一、舞、魔物
……である。
本話は、一見すると<舞と魔物が戦っている → 祐一が助太刀する>という物語に見えるのだが、最後の最後にじつはそうではないと明かされた。
そう、舞の「魔物は、私ではなくて祐一を狙っていた。……祐一、あなたは誰?」というセリフだ。
つまり、この3人の関係は<舞と魔物が戦っている → 祐一が助太刀する>なんて単純なものではない。
もっと複雑で、もっとあぶない関係なのだ。
はて、どのような関係か?それは次話以降で明かされるが……じつはこの3人の関係こそが<舞ルート>の核心部である。
制作者は【あぶなげなトリオ】を登場させまくることで、【祐一、舞、魔物というトリオにご注目ください!この3人の関係は<舞と魔物が戦っている → 祐一が助太刀する>なんて単純なものではありませんよ。次話以降、お楽しみに!】というメッセージを私たち鑑賞者に送っているのだと思われる。
【ポイント②】本当に身勝手なのは誰か?
<1>
本話の祐一はイライラしている。
彼は、「舞は他人(自分や佐祐理)の気持ちに鈍感だ!」と繰り返しイラついているのだ。
なるほど、確かに舞は普通とはちょっと違う。いや、だいぶ違う。感情表現に乏しく、言葉も少なすぎる。
祐一が困惑し、イラつくのもわからないではない。
<2>
だが……どうだろう。
よくよく考えてみると祐一も、というか、じつは祐一にこそ問題があるのではなかろうか?
・【例1】第5話~本話:差し入れを持ってたびたび夜の学校を訪問する……舞に頼まれたわけでもないのに!
・【例2】前話:舞のイメージアップ作戦を敢行する……舞がイメージアップしたいかどうか確かめることもせずに!
・【例3】本話:舞の退学を防ごうと生徒会室に駆け込む……舞の意思を確認することもなしに!
・【例4】本話:「舞の助太刀をして魔物と戦おう」と決意する……舞から助力を求められたわけでもないのに!
そう、 祐一は舞の意思や感情を確認することなく、自分で勝手に判断し、突き進んでいるのだ。
それなのに、
・【例5】本話:舞が祐一の提案・作戦に乗り気でなかったり、協力的でなかったりすると、「お前のためにやっているのに、何だよその言い草は!」「お前は俺や佐祐理さんの気持ちがわかっていない」とイラつき、そして「俺は明日もここに来るぞ!」「だって、俺も佐祐理さんもお前のことが大好きなんだから!」と叫ぶ
要するに、善意の強要だ。
これではまるで、<自身の理想像を子どもに押し付ける抑圧的な親>か、あるいは<カノジョを自分の思い通りにコントロールしようとするDVカレシ>ではないか!
<3>
こうした<祐一の身勝手さ>は、舞以外の人物に対しても発揮されている。
例えば……
・【例6】本話:冒頭。名雪が心配しているのに、祐一は「何でもない」と言葉を濁すばかり(名雪は余計心配になる!)
・【例7】本話:夜の学校にあゆを連れていったかと思えば、1人で先に帰らせる……あゆは怖がりだというのに!(一緒に帰ってやれよ!)
<4>
いかがだろうか?
「まったくとんでもない男だ!舞や名雪、あゆがかわいそうじゃないか!」とイライラしてこないだろうか?
そう、つまり本話は【<舞にイラつく祐一>を見て、私たち鑑賞者がイラつくエピソード】なのだ。【<祐一、舞、鑑賞者>というあぶなげなトリオを描いた物語】と言ってもいいだろう。
ただし……さらに考えを進めると、こうも言えそうだ。
<舞にイラつく祐一>がじつは身勝手に怒っているだけだったのと同様に、<祐一にイラつく私たち鑑賞者>の怒りも身勝手なものではあるまいか。私たちは祐一の意思・感情をちっとも理解せず、身勝手にイライラしているだけなのかもしれない、と。
【ポイント③】祐一はヒロインたちをどう思っているのか?
<1>
中盤、祐一は舞に言った「お前は、俺や佐祐理さんの気持ちがわかっていない!」「俺は明日もここに来るぞ!」「だって、俺も佐祐理さんもお前のことが大好きなんだから!」。
さて、ご注目いただきたいのは<大好き>という部分である。
<2>
本話には、複数のヒロインが登場する。すなわち、名雪、あゆ、真琴、栞、そして舞などなど。
で、祐一は彼女らをどう思っているのだろうか?
私たち鑑賞者から見ると、彼の行動はどうにもジゴロ臭い。ヒロインたちを片っ端から口説き落とそうとしているように見える。
まぁ、原作がギャルゲーなのでこれは仕方ないことだと思うが……しかし。上述の通り、祐一は「俺も佐祐理さんもお前のことが大好き」と言う。
そう、自分の感情を佐祐理の感情に並置しているのだ。
ということは、だ。祐一が舞に抱いているのは<友情>だと言えるのではないだろうか。
<3>
考えてみれば……祐一と真琴の間には間違いなく<愛>が存在したが、それは<異性愛>というよりも<家族愛>であった(例えば第7話参照)。
また、栞は祐一を「お兄ちゃんみたい」と言っている(第5話)。つまり、この2人の間にあるのは<(疑似的な)兄妹愛>と言えそうだ。
<4>
以上を整理すると、
・祐一と舞の関係:友情
・祐一と真琴の関係:家族愛
・祐一と栞の関係:兄妹愛
……となる。
どうやら、<祐一 = ジゴロ>というのは偏見、誤った見方だったようだ。
※補足:名雪とあゆについては、現時点では情報が不足しているため割愛。ただし少なくとも表面的には、名雪には<親戚としての感情(≒ 家族愛)>、あゆには<友情>しか抱いていないように見える。
【ポイント④】なぜ舞は左の魔物と戦うのか?そして、なぜ祐一は右の魔物と戦うのか?
<1>
続いて、<舞と祐一が魔物2匹と戦うシーン>にご注目いただきたい。
この時、2人は剣を構え、背中合わせに立つ。そして……
・舞:左を向いている(左側にいる魔物を相手にするのだ)
・祐一:右を向いている(右側にいる魔物を相手にするのだ)
<2>
ところで、アニメや映画、絵画などにおいては、<左は過去/右は未来>を意味するとされる。
これをあてはめると、
・舞:過去を向き、過去に剣を向けている
・祐一:未来を向き、未来に剣を向けている
……となる。
そしてこれは、以下のことを示唆していると考えられるだろう。
・示唆1:祐一は、<舞が剣を振るう必要のない未来>を実現するために戦う(だから、舞は未来には剣を向けないのだ)
・示唆2:舞は<過去(に生み出された魔物)>と戦っている(だから、舞は過去に剣を向けるのだ)
※補足:魔物の正体は次話以降で明かされる。
・示唆3:祐一は<過去>をすっかり忘れている(だから、祐一は過去に背を向けている)
※補足:じつは祐一と舞には共に過ごした過去があるのだが、祐一はこれをまったく覚えていない。この辺りの事情は次話以降で明かされる。
【ポイント⑤】栞の自己犠牲精神
<1>
本話の主役は舞だ。しかし、栞からも目を離せない。
例えば以下のシーン。
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祐一が「うちのクラスに美坂香里って奴がいるんだけど……」と切り出した時、栞は嬉しそうに微笑んだ。そして声を弾ませた「相沢さん、お姉ちゃんと同じクラスだったんですね!」。
だが、祐一は首を横に振る「香里は一人っ子だって言うんだよ」。
直後、栞の表情が固まった。
その後、一瞬だけ「そっかぁ」という感じの寂しそうな顔を経由して、すぐにいつもの微笑みを浮かべる。そして言った「それは、お姉ちゃんと同姓同名の人ですね」。
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<2>
次話以降で明かされることだが……栞は香里の実妹である。そして、香里のことが大好きだ。
だから祐一と香里がクラスメイトだと知った時、栞は声を弾ませたのだ。だが、香里は「妹なんていない。私は一人っ子」と言った(つまり、香里は嘘をついている。理由は次話以降で明かされる)。
嗚呼、この時の栞の悲しみよ!落胆よ!推して知るべし。
しかし、栞は取り乱したりはしない。すぐにいつもの調子に戻って、嘘をつく。香里をかばう嘘だ。
嗚呼、この自己犠牲精神よ!自分の感情よりも姉を優先する態度よ!
これぞ栞というキャラの特徴である。
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