アニメ「Kanon」第5話を5つの視点から分析する👀
引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第5話。第4話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!
分析対象
あらすじ
【ポイント①】複数のエピソードが同時並行的に描かれつつも、<1つの作品としてのまとまり>が感じられるのはなぜか?
<1>
本話の祐一は、これまで以上のハイペースで、ヒロインたちとエンカウントしていく。
そのエンカウント率はちょっと笑ってしまうほどのもので、まるでギャルゲーの主人公だ(いや、実際のところ本作の原作はギャルゲーなのだが)。
要するに、本話は<主人公と各ヒロインの物語(いわゆる「○○ルート」。例えば「名雪ルート」「あゆルート」)>が高頻度で入れ替わりつつ、同時並行的に描かれているのだが……これ、結構危ういやり方だと思うのだ。
というのも、一歩間違えると【いくつかのエピソードがバラバラに並んでいるだけ】になりかねない。
「いやぁ、1つ1つのエピソードは悪くないけど、これ、物語としてのまとまりがなくね?なんかバラバラじゃね?結局何が言いたいんだ?」と鑑賞者にそっぽを向かれかねないと思うのだ。
<2>
だが、そこはさすがの「Kanon」!本話は、<たくさんのエピソードがバラバラと同時並行的に描かれつつも、1つの物語としてのまとまりが感じられるストーリー>になっている。
はて、なぜそんなことが可能なのだろうか?
ここからはその秘密に迫っていこう。
<3>
そもそも、<名雪ルート><あゆルート>といったヒロインごとのルートは、これまでほとんど無関係に進行していた。バラバラだったのだ。
しかし、前話からつながり始めている。
そう、あゆと真琴だ。前話、2人が初めて出会った。
それまでバラバラに進行していた<あゆルート>と<真琴ルート>が、一時的につながったのだ。
<4>
で!
ご注目いただきたいのはここからである。
すなわち、<あゆルート>と<真琴ルート>がつながった時、相互に影響を及ぼし合ったのである。具体的に言うと、あゆと真琴が出会ったことでいくつかの新事実が明らかになったのだ。
・新事実①:真琴は極度の人見知り。その上、嫉妬心・独占欲を持っているようだ。換言すれば、祐一や秋子に強い安心感・信頼感を抱いているらしい(だからこそ、あゆに奪われたくないと感じてしまったのだ)
・新事実②:一方、あゆは真琴にたい焼きを分けてやったり、真琴に手を振ってやったりと、案外と大人だった
2人が出会ったからこそ(2つのルートがつながったからこそ)、私たち鑑賞者は両ヒロインのことをより深く理解できるようになった!
これが、【相互に影響を及ぼし合う】ということである。
<5>
私たち鑑賞者は、前話で<あゆルート>と<真琴ルート>がつながり、相互に影響し合うのを目撃した。その結果として、「いまはまだつながっていないヒロインたち(例えばあゆと舞)も、どこかでつながるのではないか?」「まだ描かれていないだけで、じつはもうつながっているのではないか?」と感じるようになったはずだ。
かくして私たちは、<主人公が続々とヒロインたちとエンカウントしていく>という展開にも関わらず、<1つの作品としてのまとまり>を感じ取れるようになったという次第である。
【ポイント②】<真琴を気遣うセリフ>が不吉
<1>
真琴は、明るく陽気なアホの子だ。
彼女が登場するエピソードの多くは、
・Step 1:真琴は知識がない上、考えも浅い。ゆえにアホなことをする
・Step 2:その結果として、祐一に叱られたり、からかわれたりする
・Step 3:真琴はカッとする。そして復讐を試みる
・Step 4:しかしメンタルもフィジカルも激弱なので、あっさり逆襲に遭う
・Step 5:かくして地団太を踏む「あう~」
……という流れをたどる。
まるで子どもである。というか、ペットである。小動物である。
じつにかわいい♥
<2>
第2話のエンディングで登場して以降、真琴はそのアホの子っぷりを遺憾なく発揮し、物語を盛り上げてきた。
ところが……ここにきて風向きが変わり始めた。
ご注目いただきたいのは、秋子と舞のセリフだ。
・1:秋子が言う「いたわってあげなくちゃ」
・2:舞も言う「優しくしてあげて」
真琴は明るく陽気なアホの子なのだ。特段いたわったり、優しくしてあげたりする理由はないように見える。それなのに……。
何とも不吉だ。
<3>
ところで……過去の記事でも申し上げてきた通り、「Kanon」では【繰り返し = 似たようなシーンを敢えて繰り返し描くことで、鑑賞者に何かを伝える】というテクニックが頻繁に使われている。
そして上述の通り、本話では「真琴を大事にすべし」というセリフが2度登場する。はて、一体何を意味しているのだろうか?
私はこれ、<終わりの時が近づいていること>を示唆しているのだと感じた。
そう、真琴はいつまでも明るく陽気なアホの子ではいられないのだ。真琴自身もまだ気づいていないことだが、彼女の生命は終わりの時を迎えつつあるのだから……。
【ポイント③】真琴に花束を
<1>
本話は、【真琴の人間らしさが強調されているエピソード】だと思う。
そもそも、真琴は突飛なキャラだった。道端で祐一を襲撃するし(第2話)、自分の名前すら覚えていない記憶喪失者だし(第3話)、常人離れして身軽なくせに、パワーや体力は著しく劣っているし(第2話、第3話、第4話)……。
いろいろな意味で人間離れしていたのだ。
<2>
ところが前話、真琴の嫉妬心・独占欲が描かれた。
そう、彼女は単なるアホの子ではなかったのだ!ごく普通の人間、繊細な心を持つ少女だったのだ。
<3>
そして本話では……
・1:入浴する
・2:祐一に裸を見られて恥ずかしがる
・3:風邪を引く
・4:肉まんやマンガに関心を示す
・5:肉まんとマンガを満喫する(祐一そっくりのポーズで肉まんを食べ、マンガを読む場面がある)
・6:「自分も肉まんやマンガを試してみたい」という欲望に従い、秋子から預かった金を無断で使ってしまう。かくして祐一に叱られる。この時、真琴は秋子にすがりつく(まるで母と娘だ)
嗚呼、メチャクチャ人間くさいではないか!!
<4>
要するに、
・第2話、第3話:真琴の<人間らしくない面>が強調されている
・第4話、第5話(本話):真琴の<人間らしい面>が強調されている
……と言えると思うのだ。
<5>
では、真琴の<人間らしい面>が強調されるようになったのはなぜだろうか?
私はこれ、【やがてくる<終わり>をより悲劇的にするため】だと思う。
「アルジャーノンに花束を」を思い出していただければ明白だろう。
【一度<人間>になった者が、その後<人間>でなくなっていく】というストーリーは、私たちの涙腺を刺激するものだ。
つまり、真琴の<終わり>が近づきつつあるからこそ、彼女の<人間らしい面>が強調され始めたというわけだ。
【ポイント④】栞のチグハグさ
<1>
本話の中盤、祐一が栞に会い、言葉を交わすシーンがある。
で、このシーンなのだが、どうにも奇妙な点があるのだ。
ご説明しよう。
▶ 奇妙①
栞は「雪が好き」と言って、雪だるまを作ろうとする。しかし祐一は「風邪が治ったらな」。そこで栞は雪だるま作りを止める。かくして栞が去った後、裏庭には雪玉が残された。
ご注目いただきたいのは、残された雪玉が3つだということだ。
なぜ3つなのか?2つでもなく、4つでもない。3つである。奇数個では雪だるまは作れないはずだが……。
▶ 奇妙②
栞は、「今日は祐一に会いにきた」と言う。恋愛感情があるか否かは別として、少なくとも好意を持っていることは間違いないだろう。
ところが帰り際、栞は一度も振り向くことなく、背中を向けたまま手だけ振って去っていくのだ。まるでニヒルなクールキャラである。
<2>
雪だるまを作るといって雪玉を3つ用意したり、「会いにきた」というわりには去り際は妙にクールだったり……そう、栞の言動にはどこかチグハグな印象があるのだ。
考えてみれば、体調不良で学校を休んでいるはずなのに、たびたび学校に現れるというのもチグハグな感じだ。
<3>
はて、なぜ栞はチグハグなのか?
それは彼女の<病気>や、彼女の抱える<問題>に関わってくる話であり、詳しくは別記事で改めて検討したい。
しかし少なくとも、このチグハグさこそが栞というキャラの特徴だということは間違いないだろう。
【ポイント⑤】<照れ>の破壊力
<1>
引き続き、栞について考えてみよう。
祐一と栞は、裏庭を散歩しながら言葉を交わす。その中にこんなやりとりがある。
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栞は、自分のことを「栞」と呼んでほしいと言った。
それに対して祐一は、「わかった。俺のことも遠慮なく『お兄ちゃん』って呼んでいいぞ」。いつもの軽口だ。
すると栞は「うん!そうするね、お兄ちゃん♥」。
祐一が立ち止まる「……やっぱりなかったことにしてくれ」。彼は照れている。
一方、栞も俯いて「わっ、私も言った瞬間恥ずかしかったです……」。
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嗚呼、この照れよ!
<2>
少しだけ、私の個人的な話をさせていただきたい。
私には、<「お兄ちゃん」と呼ばれたい>という願望はない。実妹がいるせいだろう。
だから当初、油断していたのだ。「ふーん。『お兄ちゃん♥』、ねぇ。全国の妹愛好家はグッと来たことだろう。しかし、俺には関係ないや。俺はこれからもあゆと真琴を推すぜ!!」と。
ところが、である。
照れる栞!!
油断していたからこそ、私は大ダメージを負った。私はここで、栞に恋をしてしまった。嗚呼、少女が照れるシーンはなぜこれほど胸に迫るのか!
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