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ライ麦畑の月蝕批判

ライ麦畑の月蝕批判

だからさ、普段月なんか見向きもしないで、ゾンビみたいにYouTubeを見ている連中がさ、スーパームーンだとか月蝕だとか、そういうときに限って墓石より重い尻を持ち上げてベランダに出てくるんだぜ。
そういうときはほんとにうんざりしちゃって、とんと落ち込んじゃうんだ。それで僕が連中に代わってゾンビみたいにYouTubeをみるってわけ。つまり連中のために墓守をしているわけでもあるんだよね。ほんとに。
結局

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無の姿、森の中

無の姿、森の中

涼しい森の朝を歩いている。森の中は真っ直ぐ石畳が続いていて、時々木と木の間を鳥が飛んでいくのが見える。苔はしっとりと濡れいている。

あまりにも静か過ぎて、まるでなにも存在していないみたいに思える。なんというか、これが無の姿のように思える。
もう少し歩いたところにある木造の小さな教会で、神様に聞いてみようか。僕は散歩をしながら存在を疑ってしまいました。信じることすらも不要な、ただ目の前にある事実を

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天狗坂

天狗坂

ふと顔を上げた時に、美しい景色が流れていると嬉しい。電車は大きな川を渡っている途中で、曇り空の低いところの裏に大きな夕陽。電車の音は記憶に残らなかった。

商業施設が連なる駅前を抜けて、小さな川を渡り、鬱蒼とした住宅街に入っていく。坂をのぼる途中で、横に長い白いマンションが見えた。一つ前の時代を感じる。マンションと道は2メートルぐらいある植木で仕切られ、その上の奥の方、木と木の間からオレンジ色の光

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青の夢

青の夢

すっぽりと暗い闇に包まれた田舎の駅。周りには田んぼがあるのだろうか。カエルの声が聞こえてくる。それと鈴虫がさらに遠くからリンリンと。
2時間に一本の3両編成の電車にて、その駅に降り立つ。真っ白い蛍光灯が今にも闇に消されそうに戦っている。ふといい香りが鼻に触れる。ホームの真ん中に蕎麦屋がある。弱い光の中でぽつんしている。カウンターがホームに突き出ている。
カウンターの前に行き、中を除く。中にはうつむ

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D 2 4 U / Dream Donuts For You

D 2 4 U / Dream Donuts For You

『D 2 4 U』

ロッテルダムの港にさっきついた。タバコをふかしている。
再開発により、店を閉めてから早5年。心に穴が開いているような気がして、7つの海を渡り、いくつもの国を巡った。

朝の静かな港を歩いているとドーナッツショップがあった。コーヒーの香りが寝起きみたいに漂っている。店内ではPrinceの『Starfish and Coffee』が薄く、甘く流れている。ソルティドーナッツと珈琲を

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