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エッセイ:大ちゃんは○○である

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大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
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2020年10月の記事一覧

エッセイ:大ちゃんは○○である31

エッセイ:大ちゃんは○○である31

京都の下宿に戻り、両親への報告を電話でしたわけだが
この時が一番緊張した。
電話を持つ手も、話す声も震えていたと思う。
「もしもし。僕だけど…」
「はいはい。どうしたん?ん?なんか元気なさそうやけど、ちゃんと食べてんの?」
いつもと変わらぬ母の声に、なかなか言葉が出てこなかった。
「う、うん。いや、あの。」
「なによ~?どないしたんよ?具合でも悪いんちゃう?」
「いや、あのさ、ちょっと話したいこと

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エッセイ:大ちゃんは○○である30

エッセイ:大ちゃんは○○である30

声が震えていたかどうかは定かではないが
精一杯の自分をアピールし、持てる自分を出し切った。
詩の朗読でも、台本の読み合わせでも手応えを感じたし
『合格したな』とこれまた根拠のない確信を勝手に持っていた記憶がある。
退室し、ビルの外に出た時には夕方になっており
西陽を全身で浴びながら、東京の空気を身体いっぱいに吸い込んだ。
立ち並ぶビル群に目をやりながら、間違いなく夢の一歩を踏み出したんだという実感

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エッセイ:大ちゃんは○○である29

エッセイ:大ちゃんは○○である29

オーディションは順調に進んでいった。
「誰よりも大きな声が出せます。」と言って
いきなり大声を出す者。
自作の歌をアカペラで歌い出す者。
「特技は重いものを持ち上げることです。」と言って
「今僕はとても眠たいので重たい瞼を持ち上げます。」
と目をパッチリ開けて審査員を笑わせる者。
出てくるなりバク宙を披露しようとして失敗する者。
本当に様々な個性が暴れ回っていた。
詩の朗読や台本の読み合わせについ

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エッセイ:大ちゃんは○○である28

エッセイ:大ちゃんは○○である28

高橋一也は「はいっ!」と大きな声で返事をして前へ出た。
黒の皮ジャケットを羽織り、黒の皮パンツ。
全身が黒一色に包まれ、シルバーのアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた小柄な男だった。
「では、自己紹介、自己PRからお願いします。」
「高橋一也、24歳です。自衛隊に所属していたこともあり、体力・気力だけは誰にも負けません。
反骨精神を持って、ロックに生き抜いてやろうと思ってます。
好きな映画はバッ

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エッセイ:大ちゃんは○○である27

エッセイ:大ちゃんは○○である27

「おはようございます。本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
開始時間になり、扉が閉められ、スタッフの方の挨拶が始まった。
最終的に書類選考通過者50名程はいただろうか?
先にも書いたように根拠のない自信はみなぎっているのに、なぜだか周りにいる人間が皆すごい人達なんじゃないかと思えてくる。
何を見たわけでも、何を聞いたわけでもないのにだ。
僕は緊張の糸を切

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