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三秒もどせる手持ち時計(1章1話:案内人)
#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 あらすじ 2024年5月、秋山秀次のもとに身に覚えのない荷物が届いていた。それは、『逆巻き時計』という不思議な手持ち時計であった…
三秒もどせる手持ち時計(1章1話:案内人)
#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門
あらすじ 2024年5月、秋山秀次のもとに身に覚えのない荷物が届いていた。それは、『逆巻き時計』という不思議な手持ち時計であった。そして、そこから柊なぎさという女性が現れる。
柊なぎさは、時計の能力を告げ、秀次に協力を求める。最初は戸惑う秀次だが、なぎさのある言葉に反応し、時計の使用権を借りることに同意。こうして、二人の奇妙な共同生活が始まった。
三秒もどせる手持ち時計(3章16話:幕引き)
16.幕引き
『強運の賽』は、部屋の中央で止まった。中では、三つのサイコロが目を決めようとしている。やがて、サイコロの動きが鈍くなり、一つ二つと目が決まる。
「…凶、凶。凶が三つ。これは、一体…」
冷泉の表情が、壊れていく。そして、冷泉の全身から力が抜けていき、両ひざが地面に付いた。秀次とあやめは、その様子を見守ることしかできなかった。
目の前では、冷泉が必死に『強運の賽』へと手を伸ばして
三秒もどせる手持ち時計(3章15話:勧誘)
15.勧誘
秀次は、あやめの前に立ち、一歩下がった。黒川は、無言で近づいてくる。すると、冷泉の姿が見えた。彼は秀次たちに背を向け、『強運の賽』を持ち直している。
「お帰りください」
黒川が、無表情で言う。
「まだ、話は終わってへん、言うてるやろ」
聡一郎が、叫ぶ。
「お帰りください」
黒川は、そう言いながら聡一郎の手首を持とうとする。すると、聡一郎がそれを手の甲で払い、少し間合いを取った
三秒もどせる手持ち時計(3章14話:論戦)
14.論戦
冷泉の部屋のインターホンを鳴らすと、すぐに扉が開かれた。すると、黒いスーツにサングラスを掛けた男が迎え入れてくれた。
中は、少し長い廊下の両横にいくつかの扉が設置されていた。また、正面の扉は一部ガラス張りになっており、白い光が透過している。
秀次たちは、ゆっくりと足を進めた。三人の表情は険しく、高級マンションの一室を鑑賞する余裕などは無かった。
黒スーツの男が、正面の扉を開け
三秒もどせる手持ち時計(3章13話:足りないピース)
13.足りないピース
冷泉の事務所は、川の向こうに見える背の高い建物の一室だそうだ。辺りは、遊歩道などもあり、ほどよく緑が生い茂る穏やか情景であった。
しかし、三人の表情は辺り雰囲気とは違って険しかった。あやめからは緊張と不安が、聡一郎からは冷静さを保持する気持ちが滲み出ている。
秀次たちは、まず冷泉の話を聞くことにした。後手に回っている点は否めないが、相手の出方を窺う以外に他はない。
(
三秒もどせる手持ち時計(3章12話:手紙)
12.手紙
秀次とあやめは、新大阪にある例の喫茶店に来ていた。向かいには、前回と同じく大竹聡一郎と柊なごみが座っている。今は、マスターが人数分のコーヒーを運び終え、新聞を広げていた。
秀次は、壁になぎさを映し出した。しかし、彼女は前回のような戯言は言わなかった。
先日、聡一郎からチャットが届いた。それによると、証言を集め終えた田村が、それを持って冷泉の事務所に押し掛けたらしい。しかし、もみ
三秒もどせる手持ち時計(3章11話:変化)
11.変化
「お前ら、ちゃんとやってるか?」
飯田が、戻ってきたようだ。しかし、あやめと水口の視線は冷たい。当然である。自分が引き起こしたトラブルをあたかも無かったかのように振る舞っているのだから。
すると、あやめが何かを言おうとした。しかし、秀次はそれを静止した。
「飯田さん。スペックの洗い出しが終わったので、送ります」
秀次が言った。そして、飯田は遅いという意味の言葉を述べ、自席につい
三秒もどせる手持ち時計(3章10話:改変)
10.改変
秀次は、会議室から出ると、すぐに一階の自販機へと向かった。一度、気持ちの整理が必要だからだ。すると、後ろから足音が聞こえた。あやめと水口である。
「秀次君。今のどう思う?おかしくない?」
あやめは、鋭い口調で言う。すると、
「秋山さん。僕が言うのも何ですが、絶対上手くいかないと思うんですが…」
水口も気付いたようだ。秀次は、それを聞きながら缶コーヒーを買った。そして、肩を少し落
三秒もどせる手持ち時計(3章9話:不明な采配)
9.不明な采配
「秀坊よ。今日は、ちと催しがあっての。わらわは、通信が出来ないのじゃ。いと寂しくて、不安じゃろうが、何とか耐えてくれ」
なぎさが、またしても戯言を言っている。聞くと、今日なぎさの時代では、皇帝の誕生祭が執り行われるそうだ。また、今回から、そのイベントでは各派閥に関係なく一堂に会するように変わったらしい。
「じゃあ、ツクヨちゃんとかダリアちゃんとか、他の皇后派の兄妹とも直に会える
三秒もどせる手持ち時計(3章8話:相反する思想)
8.相反する思想
桜子がカフェを後にして数分後、彼女からチャットが届いた。どうやら、もうすぐ北村涼と別れるので近くのカラオケボックスに来て欲しいとの事だ。
「これって、なぎさちゃんたちとも話したいってことだよね」
あやめが言った。なぎさも、それに同意した。
秀次も、桜子とツクヨに話を聞きたかった。何より、涼の目の奥の僅かな濁りが気になって仕方なかった。
「あやめちゃんは、どう思った?」
三秒もどせる手持ち時計(3章7話:過去と現在)
7.過去と現在
秀次とあやめは、海岸沿いにあるカフェに来ていた。外では、帆船が相も変わらず汽笛を鳴らしている。
北海道に行った数日後、小豆沢桜子からチャットが届いた。どうやら、北村涼が冷泉和也について話したい事があるらしい。
「ここ、なんだか懐かしいねぇ。私にとっては、大切な場所になっちゃったから」
あやめが、笑顔で言う。それは、秀次にとっても同じであった。あの日、この場所での出来事が無け
三秒もどせる手持ち時計(3章6話:やりたい事)
6.やりたい事
最近の秀次は、以前にも増して効率的に仕事を終えることだけに集中するようになっていた。
少し前は、仕事に面白みを見つけようと試みたが、考えるほどに嫌な部分が浮かび上がってくる。そのため、以前と同じように戻したのだった。
(今日は、あやめはいないのじゃな。なんだか、さびしいのう)
なぎさが残念がる。それもそのはず、あやめは職場でも周囲に良い雰囲気を伝搬させていた。
そんな彼女
三秒もどせる手持ち時計(3章5話:将来)
5.将来
真夏の太陽が高く昇り、牧場全体に鮮やかな光を投げかける。草原の緑は一層濃くなり、風に揺れる姿は波打つ海のように見えた。
秀次たちは、札幌駅から車で三十分ほどの距離にある牧場に来ていた。この牧場では、乗馬体験やバーベキューが楽しめるのだそうだ。
「あー空気がおいしい。こんな場所にいつか住みたいなぁ」
あやめは、両手を大きく広げて深呼吸をしている。右手には、ごはんパックを入れた袋を下
三秒もどせる手持ち時計(3章4話:憧れの人)
4.憧れの人
美月の“メイクアップサロン”の奥には、従業員用の控室がある。そこは、棚やテーブルが無機質に置かれており、奥には小さめの冷蔵庫もあった。
「まぁ。少し散らかってるけど、適当に座って」
秀次たちは、美月の指示に従って、手前にあるパイプ椅子に座り、『逆巻き時計』を隣に置いた。すると、美月がグラスと適当なつまみをテーブルに置き、冷蔵庫に手を掛けた。
「ビールとハイボールどっちにする?」
三秒もどせる手持ち時計(3章3話:親友)
3.親友
「あやめちゃん。ちょっと待っててね。すぐ戻るから」
美月はそう言って、『空言の筆』を見た。
「これね。三角形の印に触れて想いを込めると、その部分が分かりにくくなるのよ」
美月は、笑顔で言った。
「あんた、なんかコンプレックスある?見たところ、そんなの無頓着そうだけど」
「バレているではないか。秀坊よ」
なぎさが、笑っている。
「俺にも、そのくらい…」
と言ったものの、あまり思い
三秒もどせる手持ち時計(3章2話:遭遇)
2.遭遇
秀次とあやめは、大通公園を歩いている。秀次は、木々の緑や花壇の彩りを眺め、額の汗を拭った。一方、あやめは噴水の水しぶきを写真に収めている。先ほど、少し遅い昼食に大盛りの海鮮丼を食べて、さぞかしご満悦の様子だ。
(ほう、ここが北海道という地か。なんだか、秀坊たちが住む街とは違った空気が感じられて好きじゃぞ)
どうやら、なぎさもご満悦のようだ。
それもそのはず、前方に伸びる風景には高