- 運営しているクリエイター
記事一覧
三秒もどせる手持ち時計(1章1話:案内人)
#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門
あらすじ 2024年5月、秋山秀次のもとに身に覚えのない荷物が届いていた。それは、『逆巻き時計』という不思議な手持ち時計であった。そして、そこから柊なぎさという女性が現れる。
柊なぎさは、時計の能力を告げ、秀次に協力を求める。最初は戸惑う秀次だが、なぎさのある言葉に反応し、時計の使用権を借りることに同意。こうして、二人の奇妙な共同生活が始まった。
三秒もどせる手持ち時計(1章2話:野望とは)
2.野望とは
秀次の職場は、自宅から電車で20分ほどした場所にある。通勤をしていると、やはり昨夜の出来事が夢だったのではないかと思えてくる。
昨夜は、届け物を開いたら、光と共に柊なぎさなる人物の映像が飛び出してきた。そして、今もポケットの中にある『逆巻き時計』なる代物の使用者となったらしい。また、案内人・柊なぎさの話によると、『逆巻き時計』の使用者になると二十四時間に一度だけ時間を三秒遅らせ
三秒もどせる手持ち時計(1章3話:弱気)
3.弱気
昼前になると、秀次は今日の仕事の目処を大方つけていた。今日も、定時で帰れそうだ。そう思った矢先に、勝山課長が話しかけてきた。
「秋山。俺も、昼から出張だから。何かあったら頼むぞ」
「いや、飯田さんに…」
秀次は、そう言いながら飯田のデスクを見た。しかし、既に彼はいなかった。危険を察知したのかもしれない。
「秋山しか居ないだろう。頼んだぞ」
勝山課長は、そう言って、出入り口に向かっ
三秒もどせる手持ち時計(1章4話:微笑みの奥には)
4.微笑みの奥には
秀次は、都内にあるパーティー会場に来ている。そこは、東京の夜景を背景にさまざまな料理が堪能できるスペースだった。
秀次は、カウンターに置かれたシャンパングラスを手に取った。立食形式なので、所々に背の高いテーブルが置かれている。
(秀坊よ。今日は、何の催しじゃ?)
秀次は、シャンパングラスを傾けながら、柊なぎさに返答する。
(婚活パーティーだよ)
と言っても、なぎさには
三秒もどせる手持ち時計(1章5話:魅惑)
5.魅惑
パーティーは、中盤に差し掛かった。今、秀次は十分間の休憩を兼ねながら、カードに気になる女性の名前を記入している最中である。
小豆沢桜子と話した後、数人の女性と会話をした。その間、色々なタイプの女性と出会ったが、やはり小豆沢桜子が気にかかる。それに、柊なぎさの言葉も気になるところだ。
(なぜ、神具を持っていると思ったんだ?)
秀次は、先ほどのなぎさが口走った言葉の意味を聞いてみた。
三秒もどせる手持ち時計(1章6話:兄妹)
6.兄妹
アラームが鳴った。窓から差し込む日差しが、ややまぶしく感じる。昨夜、自宅に戻った秀次は、すぐにベッドに転がった。すると、瞬く間に眠りに落ちていたのだ。
秀次は、小豆沢桜子とのやり取りが忘れられなかった。彼女は、『魔性の香水』なる神具を使い、『逆巻き時計』を手にした。はずだった。
しかし、気づいた時には小豆沢桜子に手を握られ、その中には『逆巻き時計』があった。
そして、彼女は、
三秒もどせる手持ち時計(1章7話:乙女の秘密)
7.乙女の秘密
昼が過ぎた頃、秀次は近くのカフェで真田あやめを待っていた。このカフェは、自宅から徒歩数分の距離にある。道に面しているテラスからは、柔らかな日差しが差し込むオシャレな佇まいだ。
店内は、木製の家具が並べられ、緑の植物と調和している。秀次は、真田あやめとでなければ中に入ることは無かったかもしれないと思った。
「おまたせー。待った?」
柔らかな声が聞こえた。声の方に目を向けると、
三秒もどせる手持ち時計(1章8話:言葉の先)
8.言葉の先
富山駅の改札を出たところに、傘を差した千賀司が立っていた。
「お疲れ様です。早いですね」
秀次は、千賀に挨拶をする。千賀も、笑顔で応対する。千賀の姿は、いつもの作業着ではなく、スーツ姿であった。短く少しウェーブの掛かった髪型が爽やかな印象を与えている。
「折角だから少し早く来て、軽く観光してたんだ。…少し早いけど、もう行こうか」
(ほう。こやつが、千賀司なる人物か。なかなか、隙
三秒もどせる手持ち時計(1章9話:足りないもの)
9.足りないもの
二日目も、試験は順調だった。昨夜、システム設計部の斎藤良雄も到着し、朝から制御盤のシステムチェックが行われている。
斎藤は、千賀よりも五歳ほど上の先輩である。また、千賀は平社員時代からよく斎藤と仕事をしていたらしく、お互い信頼しあっているようにも見えた。
「斎藤さん、まだすか?時間、押してますよ」
千賀の鋭いコメントが響いた。秀次には、千賀が強い言葉を発する時に、目が笑っ
三秒もどせる手持ち時計(1章10話:俯瞰と違和感)
10.俯瞰と違和感
秀次は、自席で出張報告書をまとめていた。昨日までの出張では少しトラブルもあったが、三日目の打ち合わせまで、滞りなく終えることができた。
また、千賀は今日も出社していない。本日、彼は新規案件の打ち合わせのため富山から大阪に向かい、明日は有休を取っているようだ。
対する秀次は、今日は報告書をまとめ、明日は次週の準備をしながら、ゆったり仕事をする予定にしていた。
「秀次君。出
三秒もどせる手持ち時計(1章11話:小さな成長)
11.小さな成長
昼休みが終わり、しばらくすると飯田が悪びれもせず座席に着いた。すると、飯田が口を開いた。
「俺が間違ってったって?お前の資料がわかりにくいからじゃないのか」
飯田は、勝山が不在なことをいいことに悪態を垂れる。
「飯田さんが、案件の意図を理解していないからじゃないんですか?何なら全部ひとりでやってもらってもいいんですよ」
秀次も、怒気をぶつける。すると、顔を赤らめた飯田が何
三秒もどせる手持ち時計(1章12話:会合の行方)
12.会合の行方
秀次は、港に面した公園を抜け、待ち合わせ場所へと急いでいた。海からの潮風が心地よく、横浜ランドマークタワーが青空に映えている。彼の足元には、色とりどりの花々が咲き誇り、街は活気に満ちていた。
しかし、秀次の心情は複雑であった。小豆沢桜子との再会は、なぎさと柊ツクヨを引き合わせるために行われる作戦だったからだ。
なぎさの話によると、案内人たちが会話をするには、お互いの神具か
三秒もどせる手持ち時計(1章13話:水面が揺れて)
13.水面が揺れて
「何か御用ですか?お嬢さん」
小豆沢桜子は、動揺の欠片も感じさせぬほど堂々とした仕草で言った。
「秀次君。座って良い?」
そう言うと、真田あやめは秀次の隣に座った。真田は、平静を保とうと無表情に見えるが、桜子への敵意は隠しきれていない。
すると、桜子は真田を一瞥し、口を開いた。
「秀次さん。こちらのお嬢さんは、どういったご関係の方なのですか?」
その口調や仕草は、余裕