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三秒もどせる手持ち時計(2章:出会い)

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秋山秀次、「逆巻き時計」の他にも幾つかの神具があることを知る。また、柊なぎさや他の案内人により、神具の詳細が明らかになる。同時に、同僚の真田あやめとの関係が深まり、物語の核心へと…
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三秒もどせる手持ち時計(2章1話:思惑)

三秒もどせる手持ち時計(2章1話:思惑)

2章 出会い

1.思惑

「何じゃこの美しい景色は。異国の地か?」
 柊なぎさが、真田あやめのパソコンを覗き込む。
「沖縄だよ。この前、友達と行ったんだ」
 あやめが、楽しそうに答える。秀次は、台所でコーヒーを淹れながら、二人の会話を聞いていた。
 小豆沢桜子との会合から二週間が経過した。あれ以降、桜子からの連絡はピッタリ途切れた。代わりに、あやめが頻繁に秀次の部屋を訪れるようになっていた。
 

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三秒もどせる手持ち時計(2章2話:視線を上げたら)

三秒もどせる手持ち時計(2章2話:視線を上げたら)

2.視線を上げたら

 『逆巻き時計』『魔性の香水』『隔絶の小箱』『空言の筆』『覆滅印』『強運の賽』。
 この六種の神具が、時代を超える転送を許される。その内、『逆巻き時計』『魔性の香水』の使用者は分かっており、柊なごみは誰かに『隔絶の小箱』を貸与しているという。
 そのため、柊ミコトは『空言の筆』『覆滅印』『強運の賽』のどれかを所有し、誰かに貸与していると予想される。
(ということで、いいのか?

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三秒もどせる手持ち時計(2章3話:緊張と緩和)

三秒もどせる手持ち時計(2章3話:緊張と緩和)

3.緊張と緩和

 門を潜り抜けると、そこは別世界であった。古き良き時代の面影を残す日本家屋。庭園には季節の花がいけられ、少し離れた場所には離れが佇んでいる。
 今、秀次とあやめは小豆沢邸を訪れている。二人は、桜子から兄夫婦の結婚記念日を祝うパーティーに招待されたのだった。
 二人が、小豆沢邸の豪華絢爛な佇まいに圧倒されていると、彼らを迎える声が聞こえた。小豆沢桜子である。彼女は、白い生地に赤い花

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三秒もどせる手持ち時計(2章4話:再会)

三秒もどせる手持ち時計(2章4話:再会)

4.再会

 少しの間があった。そして、真田あやめは大きく息を吸って、吐き出した。
「分かったわ。でも、その前に、あなたの目的をちゃんと話してちょうだい」
 あやめの表情は、まだ険しい。
「目的だなんて、大層なものはありませんわ。まぁ、パーティーまで少し時間もありますし、中に入って話しましょう。秀次さんも、どうぞ」
 そう言って桜子は、自室に二人を招き入れた。
「じゃあ、お邪魔します」
 秀次は、

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三秒もどせる手持ち時計(2章5話:宴の最中)

三秒もどせる手持ち時計(2章5話:宴の最中)

5.宴の最中

「そろそろパーティーの時間ですわね」
 桜子は、力の抜けた声で言った。しかし、秀次には桜子が肩ひじを張らず自然体になったように見えた。
「今のを聞いて、桜子ちゃんと何だか仲良くなれそうな気がしてきた」
 あやめが、元気よく言った。
「それは、どう言う意味かしら?まぁでも、わたくしもあやめさんとは仲良くなりたいと思っていたので、良かったですわ」
 桜子が、力なく言った。
「これは、女

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三秒もどせる手持ち時計(2章6話:宴が終わると)

三秒もどせる手持ち時計(2章6話:宴が終わると)

6.宴が終わると

 午後7時。小豆沢祥子が、『鶴と水面』を片付ける旨を説明し、神奈川凛が台車に載せて運んでいく。桜子によると、参加者の酔いが回らぬうちに片付けるのが習わしだそうだ。
 秀次は桜子の話を聞きながら、周囲を見渡した。高砂席では、京子と北村涼が会話をしており、その隣で、小豆沢蓮也は静かにお酒を飲んでいる。
 また、料理の近くでは、ビールを持ったあやめが揚げ物を摘まみながら、柚葉と話して

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三秒もどせる手持ち時計(2章7話:事象と疑念)

三秒もどせる手持ち時計(2章7話:事象と疑念)

7.事象と疑念

 神奈川凛の一報を受け、パーティールームにいた面々は離れへと向かった。離れは、玄関から庭に出た先にある。離れの扉を開けると、土間に陶器の破片が散らばっていた。
「心!心!いるなら出てきなさい!」
 小豆沢京子が叫ぶ。すると、足音が聞こえた。愛葉心が、階段から降りてくる。
 秀次は、小豆沢家の面々の後ろから、離れの様子を見た。一階には、奥にトイレと洗面台があるだけで、他には何も無か

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三秒もどせる手持ち時計(2章8話:演劇)

三秒もどせる手持ち時計(2章8話:演劇)

8.演劇

 桜子は、先ほどまで見せていた砕けた雰囲気から一変して、毅然とした姿を見せていた。おそらく、北村涼の前だからであろう。
(私が言うのも何ですけれど、桜子さんは白ですよ)
(同感だよ)
 すると、桜子は秀次の前にある椅子に座った。そして、桜子は秀次ではなく涼の顔を見た。パーティーでは常に共に過ごしたうえに、ツクヨが付いているからであろう。
「では、桜子さんは19時から21時の間、どこで何

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三秒もどせる手持ち時計(2章9話:事実の先)

三秒もどせる手持ち時計(2章9話:事実の先)

9.事実の先

 柚葉は、小さなポーチを持って部屋に入って来た。そして、大きく呼吸をし、秀次の前に腰を掛けた。その表情は、神妙や不安ではなく、緊張の一種のような気がした。
「では、柚葉さん。今日の19時から21時はどこで何をしていましたか?」
 北村涼が問う。
「今日は、花火が始まる七時半までは、桜子姉さんとか、こちらの秋山さんや真田さんと一緒にいました」
 秀次も、概ねそうだろうと思った。
「そ

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三秒もどせる手持ち時計(2章10話:疑惑の種)

三秒もどせる手持ち時計(2章10話:疑惑の種)

10.疑惑の種

 秀次は二階へと上がり、桜子の部屋をノックした。すると、桜子の声で「どうぞ」と聞こえた。
 中に入ると、風呂にでも入ったのだろう、スッピンの二人が菓子を囲んでいる。あやめは、白いTシャツに青い短パン、桜子は全身ピンク色のジャージを着ていた。しかし、化粧を解いても大きく見た目が変わらないことに少し驚いた。
「秀次君。どうだった?」
 あやめが、聞いてくる。
「いや、まぁ…」
 秀次

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三秒もどせる手持ち時計(2章11話:動機)

三秒もどせる手持ち時計(2章11話:動機)

11.動機

 パーティールームには、人数分の椅子が一列に円弧状に並べられていた。また、高砂席の後ろには、大きなスクリーンが設置されている。柚葉の動画を流すのだろう。
 秀次たちが、部屋に入ると、既に北村涼と小豆沢祥子がいた。涼の表情は明るく、祥子の表情と対照的であった。
 すると、涼は秀次を席へと案内した。場所は、いわゆる観覧側の最前列だ。あくまでも、聴衆者として出席して欲しいのであろう。
「自

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三秒もどせる手持ち時計(2章12話:女優)

三秒もどせる手持ち時計(2章12話:女優)

12.女優

 立ち上がった桜子からは、憂いを帯びた気迫が感じられた。部屋着とは違い、白いワンピースを着た姿も、憂いや可憐さを演出している。
「ビデオを見る限り『鶴と水面』を壊したのは、京子義姉様なのでしょう」
 桜子は、京子を見た。
「どうですか?京子さん」
 涼が、桜子に続く。すると、京子は険しい顔をしながら、小さく頷いた。言い逃れの術を思いつかなかったのだろう。すると、桜子はそれを見て、続け

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三秒もどせる手持ち時計(2章13話:縺れた糸)

三秒もどせる手持ち時計(2章13話:縺れた糸)

13.縺れた糸

 祥子の荘厳な雰囲気は、部屋の空気を一変させた。皆が、祥子の発言に耳を傾けているように見える。
「これは、小豆沢家の心の縺れ。挙句、京子さんにこのような事をさせてしまうなんて…」
「お義母様…」
 京子が、力なく言った。
「本当に申し訳ない事をさせてしまいました。これは…わたくしが師匠として、母親として蓮也や柚葉との対話を怠ったことが遠因です」
 祥子は、悄然とした面持ちで言った

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三秒もどせる手持ち時計(2章14話:宴のあと)

三秒もどせる手持ち時計(2章14話:宴のあと)

14.宴のあと

 翌朝。秀次は、朝食をいただくためにダイニングルームに向かっていた。昨夜、皆の話を聞いた祥子は、京子、柚葉、凛、そして涼を不問とすると決めた。そして、蓮也には、家元としてではなく純粋に作品作りに専念してほしいという願いの言葉を告げた。
 秀次は、神具を使いたくなかった理由が分かった気がした。それは、当初から小豆沢家にうごめく違和感は、神具を用いて無理やり解決してはいけない気がした

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