- 運営しているクリエイター
#掌編小説
【掌編】 やさしさほどける “小さな口福”
梅雨が来ない。
そう思っていたら、とんでもない猛暑に襲われ、息も できないような暑さが続いた。
なんとかそれに身体が慣れてきたかと思ったら、今度は梅雨が戻ってきた。忘れ物をした気まずさか、しっとりとしたところのない乱暴な雨が続く。
こんな天気が続くと、湿気が体に染み込んで、ずっしりと重苦しくなってくる。頭はサイズの合わないヘルメットを被らされているようだし、肩や首の周りには鱗
【掌編】ファミレスにて
昼下がりのファミリーレストラン。
満席ではないが、いくつかのボックス席は、ドリンクバーで粘るグループが占領している。
ドリンクバーに一番近い席。
制服の女の子が4人。まだ学校の時間ではないのだろうか。コップも使い放題というわけではないのだろうに、人数の軽く倍は並んでいる。
「ちょ、イーライ始まる!」
「あー、わかったわかった、見たらいいじゃん」
「やばい、やっぱり可愛すぎる!Emiまる、今日
【掌編】夜に染み込む “小さな口福”
急な冷え込みに体がついていかない。
すっかり桜も散ったし、このまま夏になると思っていたのに、なぜかこのところひどく寒い。そのせいで衣替えも出来ずにいる。とはいえ、厚いコートはさすがに重苦しく、冬物の上にスプリングコートを羽織るというチグハグさ。
仕事は予定外のタスクが入り、何かとバタバタ忙しかったし、久しぶりに会った取引先の相手は、何だか妙に苛々していた。
焦りとか苛立ちとかは伝染する。
並
【掌編】魔法の水 “小さな口福”
ずらりと鶏の胸肉が並んでいる。
合計4枚。
皮はすでに剥ぎ取られていて、淡い桃色のツルリとした生々しい肌が露わになっている。
もも肉は2枚で1羽分というのはわかるけれど、胸肉はどうなのだろう。
右と左の乳房のように、これも2枚で1羽分なのだろうか。
いや、鶏は哺乳類じゃないから、いわゆる胸はなかったか。
すぐ横に計量カップ。
中には200ccの水に大体小さじ2杯ずつの塩と砂糖。
ブライン液