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【掌編】ファミレスにて

昼下がりのファミリーレストラン。
満席ではないが、いくつかのボックス席は、ドリンクバーで粘るグループが占領している。

  ドリンクバーに一番近い席。
制服の女の子が4人。まだ学校の時間ではないのだろうか。コップも使い放題というわけではないのだろうに、人数の軽く倍は並んでいる。
「ちょ、イーライ始まる!」
「あー、わかったわかった、見たらいいじゃん」
「やばい、やっぱり可愛すぎる!Emiまる、今日もやばい!」
「あ、でも確かにめっちゃかわいい。フィルターかけてるとしてもやばい」
「でしょ!あー、質問思いつかない!とりあえず宝石送りまくってるけど!あー、これだけじゃ、ダメだし!なんかない?なんか!Emiまる、気づいてくれそうなやつ!あー、お願いだから……」

  少しだけ奥まった席に男女が1組。年の頃はお互い30代に入った頃だろうか。
女性の前にはハーブティーのティーバッグ。派手すぎないメイクがよく似合っている。ものすごい美人ではないが、好感の持てる容姿。わずかに腹部が膨らんでいるが、目立たないようにきちんとおしゃれをしている。
対する男の方は、前にコーヒーとコーラの飲み残し。やや若づくりと言えそうな細身のスーツに、ワックスでスタイリングした髪型。整った顔立ちに軽薄そうな笑みを浮かべ、まだ遊んでいたい空気を存分に纏っている。
「ねぇ、本当にあと半年で産まれるの。お願い」
「いや、そう言ったって、本当に俺のかわからないだろ」
「自分が遊び人だからって、そんな言い方ひどい。私はあなたと付き合っているつもりだったのに」
「んなこと言ったって、俺はお前に絞ったつもりはないし、する時はちゃんとしてた。これまで他の奴にもそんなこと言われたことはないし。俺のだなんて信じられないね。」
女は涙を堪えるように下を向き、溜息をつく。男はスマートフォンをいじり始める。
「じゃあ…じゃあせめて、生まれてからでもいいから、親子関係証明できたら……」

  さらに壁際のあたりに3人組。
年齢不詳。1人はどうかすると性別も不詳で漫画か何かから抜け出してきたような格好をしている。ドリンクバーのコップはちゃんと1人ひとつずつ。
「こないだのイベント、エモかったねー」
「まじでまじで。舞台と違って!演技じゃない感が!臨場感!推しが!」
「もはや降臨!」
「川中くんと一緒にいる時の!鶴田くんのメスみとか!」
「それそれ!!尊みがすぎる!」
「あー、思い出すだけで…語彙なくなる…。」
「わかる…言葉でない…またイベントあるんだよね?うちわ作る?」
「作る作る!もっと目立つようにする!」
「書く言葉はあれでしょ?こないだも目線くれたやつ!」
「そうそう、それ!」


「認知して!」


ーーーーー了



はい、久しぶりにお題抜きでの掌編です。


連れ合いが「最近はインスタライブとかで認知してって言うんだってよ」と私には驚愕の話をしてくれたことから、生まれた小話です。

いや、、言葉ってすごいな。

最後までご覧下さり、ありがとうございました。

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