【掌編】助手席
いつの間にやら、隣から寝息が聞こえてきた。
「疲れてるだろうし、寝てていいよ」
そう言ったのは、さっきコンビニを過ぎたくらいだから、ほんの500m足らず、1分もしない内に、眠りに落ちたことになる。
幸い、私は運転は慣れているし、普段は一人で運転していることを思えば、苦にもならない。
むしろ気持ちよく眠れているのなら幸いだ。
ハンドルを右に切る。
気をつけてスピードを落としたつもりだが、助手席の体はぐらりと揺れた。
起きてしまうかな?
と、思いきや、目覚める気配もない。
信号で止まった隙に、ちらりと横を見た。ぐったりと垂れた首は、今にも窓ガラスにぶつかりそうだ。
信号が変わる前に、頭をまっすぐに立て直してやろうと、手を伸ばした。
しかし、そのずしりとした重さは、普段、肩に甘えるそれとは別物のようだ。
根が生えたように動かず、そしてなんとか立て直したら今度は支えきれないほどにその重さを委ねてくる。
人の頭の重さは3kg…いや、5kgだったっけ。
結局、立て直し切れず、なんとかガラスに額をぶつけない程度の角度に直すことしかできなかった。
5kgといえば、一抱えくらいある米の袋や、大きいウィルキンソンのペットボトル5本分だ。そんな重さがあるなんて、聞いてはいてもほとんど信じられなかったのだが、今はそれよりもさらに重く感じた。
頭の中が、私でいっぱいで、重いのかな。
そんなことを思い、少し笑った。
一度にやついた頬は、なかなか元に戻らず、対向車からの怪訝な視線を感じながら、私は今度こそ静かにハンドルを切った。
ーーーーー了
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