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海岸で、Lの女子とお付き合い



晴天の日、朗らかな空。元気な太陽があたたかい光を浴びさせる。海からは肌涼しい潮風が吹く。長くなってきた髪が飛んでいきそう。笑いながら岩石に足をおいて端まできをつけて近づく。下見ると10メートル落ちる岸、激しい波が石につぎつぎと打ち寄せて引き下がる。上見ると青空に切がない水平。海と空の青色が微妙に違う。この背景を生で見たかった。

「This is happiness」 

独り言が口から零れた。 

ここは横浜からバス・電車で1.5時間南の城ケ島。グーグルアースで遊んでたら、この場所を発見して「行きたい」と思った。

 隣に立っているのはMちゃん。一つ年下の天才的に頭がいい、しかし背が低くてかわいらしいキャリアウーマン。英語がペラペラというか、最上級レベルの英語を話せる。Exquisiteとかascensionとかな熟語を日常会話で使える人。わたしはオーストリアで育ったネイティブスピーカーなのに、彼女とは語彙力に負けると思うぐらい。

 Mちゃんは田舎育ちで、こういうところが好きなんだ。新鮮な魚を食べたり、市場で売り人と駆け引きしたり、これが彼女に対しては寛ぐ地域だ。 

いつも彼女と英語で話す。 訳した会話ー

「海を見れるのが久しぶりだ」 

「オーストラリアではよくビーチにいってたの?」 

「うん。めっちゃキレイだよ。イヌを飼ってて、ドッグビーチによくいってた」 

「私、イヌ大好きなんだ」 

城ケ島にはイヌはいなかったが、ネコの群れが道端に棲んでいた。人なつっこい茶色の一匹が砂辺にしゃがんでいたのを見つけ。Mちゃん、5分間は撫で撫でしてかわいがっていた。 


Mちゃんとの関係は出会い系アプリで始まった。実は、彼女の方が最初にメッセージを送った。 

「あなたも双極性なの?」 

メッセージ読んですぐ分かった。その「も」という字は、話し相手が一緒だということを指す。 わたしは診断されたことを隠すよりも、最初から明らかにした方がいいと考えて、障がい者っということプロフィールに載せた。まさか、これが引っ掛けになるとは覚悟してなかった。

 でも、バイポーラ―な方は他のバイポーラ―の人と掛かりたがる。これは自然なことなのか。私は同じ障がい者の知り合い3人いる。一緒に時間を過ごすときはすごくもり上がる。ただし、一人が軽躁状態になるともうひとりに軽躁の針金が引かれる恐れがある。だから、こういう関係は慎重にしないとダメなんだ。 つきまして、一言一句に気を付けてメールを書くようにする。

Mちゃんには、双極性の知り合いはわたしだけ。だから、相談するときはいろんな初発見があって、わたしが双極性の先輩になれる感じがする。 

マッチしてしばらくはメッセージのみ。彼女の方は、最近鬱状態に堕ちて大企業の仕事を休職中だと。わたしも似たような目に遭ったと伝えた。「どうやって生きるの?」危険性がある質問が訊かれた。まずパニック。「大丈夫、いまは自殺思考はないから」ーすぐ次の送信が入る。安堵のため息を晒した。 

「まぁ、ただ一日ずつ、ストレスがなるべく減らすようにしていけばいいんじゃない」ってカッコつける目的はないけど、そんな感じで説教した。

 初めての対面は最初のメッセージから1か月ぐらい経ってから。桜木町での「デート」というか、気楽な仲良くしようていう雰囲気で会おうとこっちは思ってた。しかし、Mちゃんはこれがほんまの「デート」だと思ってたのか、改札口で顔をあわせた際に、マスク着でも緊張な表情がみれた。

 こういうときには、男が落ち着いて可笑しい話ししてあげて、自分について喋ればばいいのだ。それが一般的なアドバイス。だが、わたしは気が乗ると話題が広がって、政治とジオポリティックとか西洋哲学者とかいろいろ変な話になちゃった。これは、デートの常識外れだ。言い換えればミスだった。

 でも、Mちゃんはインテリジェントで話しに追いついてくる。日本の資本主義とかLGBTの問題についてなんでもディスカッションできる。流石、パイポーラーな2人の出会いだ。 そのあと、落ち着いて1日歩き回って、喫茶店で足を休める。服薬や通院ともっと内輪の話しもする。

Mちゃんのことをもっと知ると、なにもかもびっくりする。この田舎の子が海外留学して英語を身に付けて、上京して大企業の職に就けて、翻訳の仕事もできる、海外出勤もよくいってたと。こんな子がオレみたいなダサい男に付き合うべきではない、と言いたかった。

でも、言えない。なぜかというと、彼女といるのが楽しすぎるから。

2回目のデートはお正月で初詣した。神社参りに、彼女はガイドさん被りして先導し、歴史と宗教について説明してくれる。彼女を手を繋いで歩きたいと思ったけど、空気を読んで表情を読んだら、まだ肌関係には早いと捉えた。このデートの終わりにはお辞儀して別れた。辞儀するのは…失敗だったなと帰りの電車で瞑った。 

礼儀正しいひとがタイプなのか、分からないけど、Mちゃんは次の日にもメールした。忙しくてもっと会えないのが残念だといったけど、これは表面的なお世辞だけだという感じがした。

 絆は深めてきたが、これでもわたしは恋に落ちることはない。相手の気持ちも同じだと紛れもない。その理由は簡単なこと。Mちゃん、レズビアンなのだ。出会い系アプリのプロフィールにちゃんと書いてた。同性愛者だと。オレの方が身体の関係に進みたいっていうことでもない。ただ、わたしみたいな男、というか全ての男はあなたを幸せに出来ないんだよ。これをずっと前から言いたかったけど、この話しはまだしてない。 

じゃあ、なぜMちゃんは男とデートとかしてるの?それはいろいろ理由あると思う。田舎育ちで保守的な考えが残ってるかもしれない。彼女は社会人になって上京した。都市で初めて未結婚で30代の女性がこの世に存していることを知った。だから、彼女はナイーブなところもあるのだ。子どものころはレズビアンという言葉もしらなかったのだろう。それで、長い自分探しの限り、このことを知ったのか。

ただ、まだ「結婚→出産→家建て」という風な課せられた夢を手放しできない。そして、わたし(男)に出会い系アプリ使用して声掛けた。この「普通」という道をむりに素直らしく導いているのではないかと、これがわたしの仮説だ。

 でも、これは正しい道じゃないよと言わなきゃいけない。勇気ださないといけない。わたしは、Mちゃんが真の幸せになってほしい。色欲は全てじゃないけど、身体の欲望と反対方向いくのは幸せになれる訳がない。それを伝えることがわたしの正しい道だ。

そう信じても、今日だけはこの深刻の話しは控えたかった。 

城ケ島、この景色は最高だ。沙州に足をたてて、海と向きあって塩辛い風を浴びながら、岩に砕け散るナミの音を聴く。自然に囲まれること。うみの水面を眺めること。

「これが幸福だ」と言葉が唇から漏れる。

この日の顔合わせが3回目のデートっていうこと。でも、こんな綺麗な場所で、こんな平穏な時を越しながら「わたしとあなた」の話し合いをするなんて馬鹿馬鹿しい。

 いや、今日だけは楽しくしたい。至福で純粋な思い出にしたい。 

「夕食はどうしようか?」 

暗くなる前に戻ろう。でも、バスと電車ながいしな。いっぱい歩いたね。でも、いい写真いっぱい撮れたし。外の空気って気持ちよくない?じゃあ、行こうか。バス停は確かにあっちだったよね? 

電車中に日が暮れた。Mちゃんは疲れてたけど、頭を肩に乗せようとかしない。彼女、焼き鳥食べたいと突然な発言をする。 

次の駅で降りて、焼き鳥屋さんをスマホで捜査する。店に入り、嬉しそうに食べたり飲んだりした。この子、本当にかわいい。そして男性っぽいところも魅力的だと思う。早く、いい女を見つけてね、と言いたいけど言いずらい。


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