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消費される若さと性

恋愛なんてものは、思春期の子どもが生み出した幻想に過ぎなくて、大人になってしまえばただの欲を満たすためのツールになった。恋愛を語る資格のない大人の方が、上手く社会に溶け込んでいる。いつまでもラブソングを歌っているバンドマンも、一途がゆえに叶わない恋ばかりしている親友も、胸のドキドキを記録するわたしも、抱きしめてくれる人なんていなくて、バカみたい。「しょーもない」世の中。いつまでも夢見ること、そんなに悪いことだった?

少し気合を入れて準備した。なんでこんなことしているんだっけ、って考えるのはやめた。髪を丁寧に巻いたり、体の隅々までケアしたり、鏡の前でファッションショーをしたり。あなただから、というよりは、礼儀として、というか、もしかしたら、を考えて。不毛な時間。この時間だけが楽しいの、知ってる。

今日、もう一人来るけどいい?はい、終了。いいですよ、は嘘だよ。わたしの期待が儚く散る。一人だけ期待してバカみたいだ、って何度も聞いた言葉を脳内で再生する。またこのパターン。少し肩を落として店に入る。ここ、前に別の男の子と来た。けど、初めてのフリをした。誰と来るか、で本当に初めての空間になってしまうの、なんて言っても、理解してもらえないんだろうなあ。

話しすぎないように、飲みすぎないように、慎重にお酒を口に運ぶ。楽しいけれど覚えていない、空っぽの時間。初めまして、が増える。美容師さん、また噂の3Bですか。もういいよ、って言いたくなったけど、結構タイプだった。

お店を変えるとまた人が増えた。さすがに、いつものバーテンダーさんに知らないフリは出来なかった。テキーラがどんどん目の前に運ばれてくる。距離が近くなる。あ、なんかもういいやって思う。みんなと手をつなぐ。横に座ったお姉さんが叫んでいる。キスするなら舌も入れてくれよ!みんなが笑う。わたしも、もうどうでもよくなって笑った。なにも面白くないのに笑った。お姉さんのことを嫌いになれなくて笑った。笑った理由も、なんでもよかった。

お家に行った。二人ではなかった。しばらくボーっとして、知らない香りのするお布団に潜りこんだ。部屋にいるのは、今日最初に会う約束をした26歳のお兄さんと、30歳のお姉さんと、その彼氏。潰れた彼氏を心配する、26歳と30歳の距離が近くなる。わたしは2人に背を向けた。眠っているフリをして、二人の会話をなんとなく聞いていた。お姉さんは、世の中の承認欲求を固めて作られたような人だった。こいつが彼氏じゃなかったらチューしたのになあ。26歳のタバコの香りが、ベッドに近づいた。26歳は、ベッドに潜り込んできた。若いという理由で触れてくれるのも、今だけなのかな、なんて思った。

朝になって、お姉さんとその彼氏が帰っても、セックスはしなかった。する気になれなかった。「またわたしがここに来れたら、次はセックスをするかもしれないし、二度とそんなことはないかもしれない。簡単に消費できない方が、面白いでしょ?」適当な言い訳、感情のない言葉。それでまあいっか、ってなるぐらいの関係、ね。キスの仕方は普通だった。最近開けた耳の穴にかかる息はくすぐったかった。髪の長い男性が好きだと気づいた。この人のタバコの匂いは、癖にならなかった。

朝帰りの正しいタイミングが分からないから、わたしは次の日の午後に予定を入れるようにしている。帰らないといけない時間になって、後ろから抱きしめてくれた。人肌が恋しいという感情だけは、共有できてよかった。

お酒が抜けていないまま電車に揺られる、最悪。毎回、タクシーに乗ればよかったと後悔する。髪も、服も、昨日のまま。今日もわたし、つけっぱなしのコンタクトに嫌われる。勝った気になりたいのに、結局、わたしのなにかが消費されたように感じる朝。誰か、わたしのこと、指をさして笑ってほしかった。

わたしはフットワークが軽いらしい。人脈形成が上手らしい。女の子のわりにはお酒を飲むらしい。よく喋り、よく笑うらしい。特別可愛くはないけれど、愛嬌があって、おじさんにはちょうどいいらしい。簡単な女らしい。すぐについてくる女らしい。なんとなくヤれそうらしい。お酒を飲むとエロくなるらしい。見た目よりも胸が大きいらしい。セックスに慣れているらしい。わたし、都合のいい女、らしい。

午後、年下の男の子と「花束みたいな恋をした」を観た。愛がなくてもセックスはできること、カラオケのあるカラオケ屋さんではない場所がとてもくだらなくて最高の場所であること、男女は誰でも抱き合えること、数時間前のわたしと重ねてしまった。恋愛なんてものを語れるのは、中学生までのわたしだけ。ますます、愛とはなにか分からなくなって、馬鹿馬鹿しくなった。

26歳。今度30歳のお姉さんと二人で飲みに行くらしい。3月に恋人と別れてから、何人かの女性とセックスをしたらしい。お互いを消費するためにお酒を飲む、わたしの26歳も、そんな毎日なんだろうか。たった一人を愛する資格をもらえないまま、快楽とほんの少しの優しさに騙されて、わたしを消費し続けるのだろうか。

男が女を消費しているようで、本当は逆、なんてことが大半。「女性」として上手く生きること、若さを武器にすることが、正解らしい。おじさんにニコニコするのすごく苦手、と言うと、「そう?むしろそういうの得意だと思ったんだけど。」って。社会に歯向かって下手に生きたい、なんて言っているわたし自身が、一番上手に社会に紛れ込んで生きている。変なの。自称サバサバ系女子?パパ活女子?snsで馬鹿にされている女の子、他の人から見たら、わたしのこと、か。わたし、とってもカッコ悪い。

愛なんてものを語るには早すぎた、って言葉は本当?わたし、歳を重ねれば重ねるほど、愛が分からなくなる。だれか、めちゃくちゃに愛してくれないかな、って思うけど、それはそれで合わなくて、またどこか満たされなくなる。

「若いうちに遊んでおけ」なんていう大人には、なりたくない。「女は若いうちだけ価値がある」なんて言葉に屈したくない。わたしの楽しみや価値を、だれかに決められたくない。ずっと、ドキドキしていたい。なにかを諦めたくない。心からそう思っているのに、胸の内を隠したまま、大人になっていく。そんなわたしだから、一緒に現実を見てくれる相手のこと、いつまでも大切にできない。

消費されるおんな。消費されたがるおんな。好きになれない、わたしのはなし。



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