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キミは悪魔/短編小説

僕は君が気にいらない。
どこに居ても声を掛けられ、静かに居たい僕の隣で大声で笑うものだから、周りからは「夫婦」だと言われている。
正直ぜんぜん嬉しくない。



「っでさ、ヨシキくんて甘いもの好き?チョコとかクレープとか」
今日も朝っぱらから騒がしい。挨拶も無しに急な質問。そしてなぜ君は、このクラスに居て、なぜ僕の椅子に座っているんだ。ったく。

「・・・べつに」
「え!なにその反応!低血圧過ぎない!?好きなの?嫌いなの?どっち?」
「・・・なんで君にそれを言わないといけないの?」
「そりゃぁ・・。てか私が質問したんだから。まずは私の質問に答えてよね!」

はい、きた。自己中心的発言。毎度毎度、迷惑だなぁほんと。他所でやって欲しい。

「・・・甘いのは食べるよ。苦いのより甘いのが好きで、アイスは冷たすぎるから苦手。これでいい?」

質問返しをされないように、なるべく詳しく伝えると、へへっと嬉しそうに笑い、嵐が去ったかのように僕の周りは静かになり、冷たい冬風が教室を包み込んだ。



「ほんと飽きないよな金井のやつ。よく根暗なお前に話しかけてくるよな」

そう貶しながら話しかけてきたのは、僕が唯一話す秀才な男友達である。
窓側の席で、たまたま前後になった僕たち「桃谷・森ノ宮ペア」として、学年で毎回1位2位の成績を争い合っている。だから仲が良い友達というよりかは勉強仲間。波長が合う、という言葉が一番合う気がする。
といっても今日も昼ごはんになるタイミングまで話さなかったけど。

「ほんとに。でもごめんね、いつもうるさくて」
「別に、賑やかでいいよ俺は」

根暗な僕と若干似ていて、森ノ宮くんは爽やかだが放送部という事で「闇」の人間で、闇属性の中でもリーダー的存在である。でも彼は友達が多いが群れる事をしない。だからいつも僕とランチタイムを過ごしてくれる。

「ところで金井ってなんで桃谷にちょっかい出してくるんだ?」

こっちが教えて欲しい。
まるで飼い主を見つけたかのように、後ろから抱きついてくるし、離れたところから大声で名前を叫ばれるし。

「いや、分からないけど、たしか1年の冬ごろからずっと続いてる」
「金井、隣のクラスなのにな。今朝も桃谷の席に居るから、びびった」

金井さんがやってくるのは1日に2回ほどで、今日は今朝と3時間目の休憩時間に数学の質問をしてきたから、今日はもう来ない。と思いたい。



金井さんも森ノ宮くんも僕も、もともとは同じクラスだった。
2年生になると金井さんだけがB組になり、僕たちはA組になった。

正直、なぜ彼女と話すようになったかは覚えていない。彼女はいわゆる「陽」のグループで、僕は「闇」のグループ。
そういうステージがいつの間にか学校中で出来上がっていて、基本的に闇と陽はお互いに接点を持たない。
・・・のはずが、彼女は僕に接点を毎日のように取ってきていた。

正直、1年生の頃は、同じクラスだから面白半分で話しかけてきていると思っていたが、そんなことは無かった。
「なんで金井さんが、お前みたいな闇側の根暗オタクと仲良くしてんだよ」
と、2年生になった頃の春、同級生にも上級生にも罵られた。


そう、金井さんは、人気者。モテまくるのだ。


金井さんの美貌は学校では有名な話だ。賑やかで、笑顔が絶えなくて、本当に人気者で。つまり、僕とは真反対にも程があるほど、違う人種の人間である。
だからこそ、目立った。陽と闇が話している姿を目撃されまくっていた頃は、軽いいじめもあった、と思う。思い出したくない。

でも1年も経てば、上級生は僕を眼中に居れず「金井さんのおもちゃ」という認識に変わり、同級生は異色の二人の漫才コンビ、つまり「夫婦」並みの間柄として呼ぶようになった。

うんざりである。



「今日、部活休みなんだよね」
そう楽しそうに話す金井さん。知ってるかな、そこは僕の席なんだが。
「そうなんだ。俺の放送部も休みにならねぇかなぁ」
「モリのん、休んじゃえ!」
「もりのんって呼ぶの金井しか居ねぇから新鮮だわー」
森ノ宮だからか・・・ってそうじゃない。
「ねぇ、なんで朝からまた、金井さんが僕の席に居・・・」
「あ、きたきた。ヨシキ君おはよー」
「っはよー桃谷」

話を聞いて欲しい。
そう思いながらも、冷静に僕の机に鞄をかけ、僕は立ちながら話す。

「おはよう」

そう目を見て話すと、二人とも幸せそうに笑っている。陽側の人間って、ほんと周りを明るくする能力があるよな。森ノ宮くんがこんなに笑うなんて事そうそう無い。感心する。

「でさ、今日さ、あのさ。あのー」

言っちゃえ言っちゃえと横で、あの森ノ宮君が女子みたいに陽側の人間と弾けている。なんなんだ、朝から。

「今日さ、バレンタインじゃん?チョコあげるから、放課後一緒に帰ろ?」

あぁ、今日バレンタインか。そうだったな。



え?


「まぁ良いけど、僕と金井さん、駅が逆だから一緒に帰れないよね」
「・・・え?あぁ、え?あー・・・確かに」

そっかー、と言いながらもどこか不服そうな彼女は、森ノ宮君に目の合図を送っていた。

「じゃぁ、大正本屋まで一緒に帰ったらいいんじゃね?桃谷、買いたい本があるって言ってなかったか?」
「そうなんだ!じゃぁ、そうしよう!」

良いよね?と言わんばかりの圧を掛けながら二人は僕を見上げていた。


「・・・別に良いけど」
なんで?そう言おうとしたとき、朝礼のチャイムが鳴り響いた。



「じゃ、俺部活だから。また来週な!ハッピーバレンタイン!」
勢いのある言葉で、珍しくテンションが高めで話してくる。どうやら嬉しい事か、楽しみにしている事があるみたいだ。
森ノ宮君は僕を置いて、早々と去っていった。

大正本屋、確かに今日発売の買いたい本があるからちょうどいいや。
そんな暢気なことを考えて、隣のクラスへ向かった。



たわいもない日常の会話をしていると、すぐに大正本屋までたどり着いた。今日は、バレンタインデー。
それは分かっていた。けれど正直そこはどうだっていい。今日は僕の17歳の誕生日、そっちの方が一大事である。


「はい、これ、バレンタインデーのチョコ!甘め!」

本屋の駐車場の脇で、丁度道路から死角になっているところで話し始めた。
そう言いながら手渡しされたのは、淡い青色の包装紙と茶色の紐でラッピングされたおしゃれな箱だった。

「あ、有難うございます。」

彼女も照れていたのか、いつも以上の早口で下を向いていて、顔を見ることが出来なかった。


正直、すごく嬉しい。
いつも話しかけてくるのに、こういうイベントの時だけ無視されるかと思って、ひやひやした。だから今朝、僕の机に相変わらず座っているのを見て安心したんだ。
よかった。今日も、金井さんは僕のところに来てくれいてる。彼女の瞳に僕は「闇」では無く、一人の男として映っているんだ。


「で、これ。欲しいやつでしょ」

そう手渡されたのは、今日発売の僕が後で買おうと思っていた小説だった。

「え・・・?」
「今日、ヨシキ君誕生日でしょ!だから!」


チョコレートを食べていないのに鼻血が出そうになる。
うそだろ。なんで知っているの?それに、誕生日なんて言ったことない。嬉しすぎる、どうしよう。今、僕絶対に気持ち悪いくらいニヤニヤしてる。
やばい、一旦冷静になろう。

「あの、いつも、騒がしくてごめんね。で、でね。大学もヨシキ君と一緒の学校に行きたくて、だから私これから受験勉強しようと思って・・・」

そう話し始めた金井さんは、いつもよりも声が小さく、未だにずっと下を向いていて、こんな姿初めて見る。なんだかそわそわする。

「だから、受験勉強するから、その、もっと一緒に居たほうが良い・・・と思うんだよね」

うわーここは相変わらずの自己中心的発言だなぁ。まぁ、この可愛さを許せるのは僕ぐらいしか居ないと思うけど。

「だから、だからね。その、うん・・とね」

「うん、だから?」

「・・・だからぁぁぁ」




「・・・僕と付き合いたいと?」



あ、僕、好きな子はいじめるタイプなんだ。ずっと好きだったんだな、金井さんの事。誰かを好きになった事無かったから分からなかった。
冷静に自己分析をして、付き合うなんて言葉をまさか僕から言うなんて、今まで想像もしていなかった。

僕が主導権を持った瞬間、彼女は下を向きながら赤らめていた顔を上げ、目を見開き、鼻息を荒くしながら

「お前は鬼か!」

そう強く言い放ってきた。

鬼・・・。そこは、好きですとか、付き合ってください、とか。そう言うタイミングじゃないかな?
面白い事を言う子だとは分かっているが、本当におかしい。なんだろうか、愛おしい。愛おしい。


「なら、きみは悪魔だね」


毎日僕を追いかけまわして、僕にばっかり嫌な想いをさせて。そう思いたいが、今はそれよりも思う事があった。
あー、拗ねてる姿もかわいい。金井さんって、こんなに可愛かったっけ?
そう思っていた矢先、彼女は僕に手渡したプレゼントを取り上げ、鼻息と前髪をを整えた後、違うもん、と一言小さく呟き、続けた。



「私は天満!あくまじゃなくて、てんま!

今、今ここで、て、天満ちゃんって呼ばないとプレゼントあげないんだから!」


いつも通りのよく通る声で、そう言い放つ金井さんは、若干の涙目で、でも「欲」があふれ出て落ちそうなほどに目を大きく、緊張が伝わってきていた。威勢がいい。あぁもう、可愛い。



「はいはい。天満ちゃんね」



そう、いつも通りの冷静さで受け答えをしてみたが、それでさえも彼女は嬉しそうに、へへっと笑った。

大きい声また出しちゃった、と照れながら独り言を言い「はい」と優しくプレゼントをもう一度手渡された。「ありがとう」と受け取る時に、ヨシキ君誕生日おめでとう、笑顔で伝えられた僕は一番幸せ者だと思う。



あれから何年経っても思うことがある。


やっぱりキミは悪魔だよ。
僕に「キミのためなら」と思わせてくる、その笑顔。

僕は、キミには一生敵う気がしない。




チョコレートに牛乳



バレンタインですね。2月は私の季節なんですよ。ほら、チョコレートだから。

今年はチョコレートの試食が出来なくて、悲しすぎるので、適当に買わずに、今まで食べた中で美味しいと思っているチョコレートだけを買い占めました。

もちろん、五感の「樹々」が一押しです。残念ながら、オンラインでは品切れですが。→五感HP
※五感側の人間ではありません※


バレンタインの季節にお付き合いをしていた記憶が無いので、
自分用に買い占めたことの記憶しかないです。
来年こそはって感じですが、出来ればバレンタインは貰う側が良いですね。
だって、ほら、チョコレート大好きなんで。


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