自己犠牲の危うさ

自己犠牲って、すごいことだ。
自分を後回しにして誰かのためを優先して。
自分を蔑ろにして誰かの役に立とうとして。
だけど美しいし目指したいと思っていたそれは、今は危ういものだと認識している。
自己犠牲って、無理を重ねることだから。

やさしい人は、誰かのために行動する。
あの人を想って気遣う言葉、窮地に置かれた誰かをかばって声をかけ、足の悪い誰かと横断歩道を一緒に渡る。
誰かのために動くことができる人は、傍から見たらとてもやさしい人として映る。

だけど例えば。
相手の意向を組んだら自分の願いが叶わないのに、それでも相手を優先して動くとき。
自分もとても忙しくて日々に追われているのに、それでも身を粉にして相手のために献身的に尽くすとき。
これは美しいこととして見えるけれど、同時に心も蝕んでいく。
一時的ならまだしも長期的にそれをやり続けることは、自分を騙して無視し続けることだから。
自分の悲鳴に耳を塞いで、自分より誰かを優先し続けて。
そうした先に残るのは、壊れていく自分や苦しくてたまらなくなった自分になってしまうんじゃないだろうか。

自己犠牲って美しく見えるけれど、それはきっと色々な物語の中でそれが美しく描かれれることが多いからなのだと思う。
自己犠牲と通常のやさしさは、多分どれだけ無理をしているかが差なのだと思う。
自分を蔑ろにして他人を優先する自己犠牲は、自分を後回しにしている分、苛立つことがどうしても多くなってしまう。
そうなってしまう人って根本的にやさしい人が多いから、そうして苛立つ自分を許せなくて、ますます苦しんでいってしまうことも多い。
せっかくのやさしさが、結果として自分を壊していってしまう。

"やさしさ"が自己犠牲に変わってしまうかどうかは、自分を満たせるかどうかにかかっていると思う。
自分を満たした上でやさしさを振り撒けたら、そこには無理は生じない。
多少生じるかもしれなくても、それがもたらすストレスは、自己犠牲と比べてずっと少なくて済む。
"私"の感情・考え・体調にもしっかり耳を傾けて、他人と同じように大切に扱う。
その１クッションがあることで、無理をし過ぎずにやさしい状態でいられる。

生きることには無理をしなくてはいけないシーンもあるけれど、それがずっと続くと破綻してしまうから。
自己犠牲は目指すようなものではないし、自分を壊してしまう危険と隣り合わせだ。
目指したいやさしさは、自分を大切にした上で心から無理せず他者にもやさしくできる、そんな状態であれることなのだと思う。

今、自分を後回しにしているように感じる人は、ひとまず今自分がどうしたいのかに意識を向けて、どんな些細なことでもそれを満たしていって欲しい。
帰り道に夕焼けを眺めることでも、自分のための時間を１時間確保することでも、寝る前にホットミルクを飲むことでも。
少しでも自分を満たすところから、心の余裕や安定は生まれていくから。
頑張っているその人自身が、壊れないでいられるように。
折角のやさしさが、悲しい結末に繋がらないでいられるように。