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【読書録】自主経営組織のはじめ方〜「ティール組織」を体現する1つの実践例を読み解く〜

2018年1月24日に英治出版より出版された「ティール組織」は、今、世界で広がりつつある新しい組織のあり方の潮流を、日本国内に紹介しました。その後、ビジネス書大賞等を多数受賞した他、その考え方に共感した経営者自ら組織の「ティール組織化」に踏み出す事例が出てくる等、注目を集めることになりました。

私は、「ティール組織」解説者である嘉村賢州が代表を務めるNPO法人にて、自団体内のホラクラシー(Holacracy)導入のプロセスに2017年から携わり、その実践から得た知見を企業・団体の皆さんに紹介させて頂いたり、「ティール組織」出版につながった国内外の実践者の皆さんとの探求・実践という形で、この「ティール組織」出版から生まれたムーブメントに携わってきました。

この「ティール組織」という本は、500ページを超える大著であることに加え、「ティール組織」に至るための3つのブレイクスルーポイントとして紹介された「自主経営(Self-management)」、「全体性(Wholeness)」、「存在目的(Evolutonary purpose)を如何に実践するか、という点で難しく捉えられることも多かったように見受けられました。

そういった状況の中、2020年2月20日に「自主経営組織のはじめ方」が英治出版から出版されました。「ティール組織」の中で実践事例として紹介されている訪問医療・看護組織「ビュートゾルフ」の自主経営組織作りに携わったコンサルタントである著書の邦訳版です。翻訳には、嘉村賢州と、弊団体のホラクラシー(Holacracy)導入を支援いただいた吉原史郎さんが参加し、「ビュートゾルフ」にも活かされた自主経営組織の実践法を簡潔に紹介してくれています。

多くの学びが得られた「自主経営組織のはじめ方」ですが、今回の読書録では特に気になったポイントを以下に書き留めておきたいと思います。

チーム主導型で運営される自主経営組織の実践法

まず第一に、「ティール組織」において「Self-management」が何を表しているかというと、個人のあり方ではなく組織構造である、と訳者は説明しています。「一人あるいはチーム単位の意思決定を中心に据えた組織構造になっている状態」を表しているのだ、と。

そして、「ティール組織」では、概ね二種類(個人主導型/チーム主導型)の自主経営組織の運営について解かれており、本書はチーム主導型に焦点が当たっています。

個人主導型とは、組織の一人ひとりが助言プロセス(Advice process:意思決定が組織の一人ひとりに委ねられているが、意思決定の際は関係する者、専門家に助言を求め、判断材料として十分な検討を行う方法)を行いながら意思決定を進めつつ全体としてまとまりのある活動を行っている形態です。アメリカ最大のトマト加工会社モーニングスターの運営方法、ホラクラシー(Holacracy)等が例示されています。

チーム主導型とは、現場のチーム単位で意思決定権を持っている組織運営形態であり、先述のビュートゾルフをはじめ、グローバルなエネルギー会社AESが紹介されています。

本書における自主経営組織の特徴(抜粋)

●現場のチームが中心となり、チームメンバー全員で業務遂行の責任が伴う

●ルール(厳密・詳細な規律)による組織運営から、フレームワーク(枠組みの中で、チームごとに最適な運営をできる)による組織運営へ

●チームメンバー自らが組織運営に必要な「チームタスク」を担う

●合意(コンセンサス:反対意見がない状態)による意思決定を行う

●マネジャーの役割は、業務管理からチームのファシリテーションへ

自主経営組織を構築する際の落とし穴

●他人の代わりに考えてしまう(メンバーへの敬意、本人のプロ意識を失ってしまう)

●チーム内に階層を生んでしまう(平等性が損なわれてしまう)

●管理しすぎてしまう(自ら判断する余地を奪ってしまう)

●環境整備が不十分(マネジャーのあり方、情報の透明性等の環境作り等)

解決志向の意思疎通法(SDMI)

SDMIは、Solution Driven Method of Interactionの略で、自主経営に役立つコミュニケーションの1つの方法として紹介されていますが、チーム運営のための「人間観」とも呼べるのではないか、と感じました。

自主経営組織においても、業務上何かしらの課題に行き当たることがあります。それは、業務上の滞りであったり、チームワークの不和であったり、クライアントからの苦情であったりと様々です。

…そんな時に、どういったコミュニケーションを行うことで、

クライアントと現場業務にとって最善の策を見つけ出せるのか?
組織のフレームワークに沿った策を選んでいけるのか?
組織の目的実現に近づいていけるのか?

といった問いに答えていくための、1つのアイデアとも言えるかもしれません。

SDMIの3つの原則

意識的な選択と責任

私たちには、<意識的な選択>を行う能力があり、したがって自らの行動に対して<責任を負うことができる>」という前提です。

自主経営を行うためには、メンバーの一人ひとりの意識的な選択に基づく決定と、仕事に対して責任を負う姿勢が必要になってくる。そして、そのためには業務遂行上の必要な情報が揃っていること、権限移譲が行われていることもまた、必要になります。それなしに、自主経営は成り立ちません。

敬意

ここでは「一人ひとりの違いを心から受け入れる」と表現されています。

自主経営チームがうまくいくかどうかについては、メンバーが業務上の意見の対立や部門、それぞれの生い立ち・性格・得意/不得意・教育・宗教の違いといった違いを受け入れた上で、「妥協点を独創的に形成」できたり、「妥協または譲歩する心構え」があるかどうかによって変わってくると著者はいいます。

エネルギーの方向性

不快だと感じる状況に直面したとき、人は行動を起こす」という前提です。

できるだけ早く不快な状況から脱け出したいと思うと、人はどうしてそうなったかを考えるのではなく、自動的にその問題を解決しようとする、という前提です。人は未来に向かって行動を起こす、という前提に立っての、SDMIの運用だという意図で読み取りました。

SDMIを実践する5つのポイント

自主経営組織において、SDMIを活用したコミュニケーションおよびミーティングを行う上での5つのポイントです。

個人的な感想としては、ホラクラシー(Holacracy)におけるテンション(業務上発生する、組織の目的実現と現状のギャップ:困りごとや滞りといった形で感じることが多い)を処理する際に心がけることや、処理する際のコミュニケーションで気を付けるポイントと重なる部分が多く感じました。

目標
何を達成したいのか?

立場
自分/他のメンバーは、何に対して責任を負っているのか?(何を行う役割であるのか?)
自分で意思決定できること/できないことは何か?
自分には、どんなスキルがあるか?

進め方
どうやって目標を達成するのか?

コミュニケーションの手法
敬意を持ち、直接的かつ明確な方法でコミュニケーションを撮るにはどうするか?

時間
目標を達成するまでにどれほどの時間があるか?
期限はあるか?
どのくらいの時間が必要か?

この記事の結びに:一周目を終えてみて

著者は、自主経営組織を構築していく上で起こりうる、経営陣やマネージャー、従業員の態度や戸惑い、自主経営組織に移行してからも起こりうる様々な課題や対処のアイデア等、極めて冷静かつ構造的、具体的な視点で捉え、包括的に紹介してくれているように感じました。

もし、この本を手に取られた方が「自分の組織も自主経営組織的にしていきたい!」と思われた時に、実用的なハンドブックとして、とても有用な書籍だと思えます。

他方で、何より重視されていたのが、組織の一人ひとりの自主経営に対する捉え方や向き合い方、あり方のように思いました。

自主経営組織構築の落とし穴で挙げられていた「他人の代わりにアイデアを出したり、解決策を提示してしまう」ことは、「自分でやった方が早いし、良いアウトプットが出せる」という、「相手への信頼を損なってしまう態度」にもなり得ます。

自主経営組織の実践は、一人ひとりが自分の仕事に誇りと責任を持ち、判断し、実践・実行していけるという前提に立ち、時に立ち止まりながら、時に戻りながらも歩みを進めていく、そんな旅路ではなかろうか。そんな風に感じられました。

上記に挙げたもの以外でも、多くの学び・気づきが得られましたが、あくまで、一読者として印象的なものを挙げたに過ぎません。何より、個人的な解釈が入っているかもしれませんし、「言うは易し」。頭で理解したとしても、実践に繋ぐとしたら、また別の話です。

既にこの本を手に取られ、読み進められている方はどんな感想を抱かれるのか、とても気になるところです。

実は、今回、この書籍の出版が決定した際に、読書会企画を準備しておりました。2/26(水)の夜、京都での開催となりますが、ぜひまだまだ出版間もない熱のあるうちに、関心のある皆さんと場をご一緒できれば幸いです。


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NPO法人場とつながりラボhome's viファシリテーター/研究員。ティール組織、ホラクラシーの探求と、それらの研究を元に東京、関西での企業内組織変革プロジェクトに取り組んでいます。一般社団法人くじら雲理事(放課後等デイサービス)