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【開催記録】「プロセスワーク入門」読書会

今回は、ジュリー・ダイアモンド&リー・スパーク・ジョーンズ著『プロセスワーク入門 歩くことで創られる道』を扱った読書会について、私自身の視点から振り返った開催記録です。


読書会開催のきっかけ

私自身の背景

私は読書が好きです。小説、絵本、漫画、専門書など、気になったものがあれば何でも手を出す雑食であり、本の虫と言えるかもしれません。

そして私は、生業として対話の場づくりファシリテーションといった方法を用いて、人と人の集まる場を目的の実現に向けて協力しあっていけるようにするお手伝いをしています。

私自身は現在、『世代を超えて豊かに育っていく関係性、組織・社会の仕組みづくり』というものをめざして日々、これらの知見を個人、組織、コミュニティで紹介したり実践を続けているのですが、その学びと探求の過程でさまざまな流派の知識体系、技術、哲学、事例に触れることとなりました。

そしてその中で、何年も語り継いでいきたい大切な知恵が詰まった本を、興味関心の合う仲間たちと時間をかけて丁寧に読み込み、対話することの重要性を感じるようになりました。

現在、毎月一回程度のペースで読書会を続けていますが、その中で大切にしていきたいことは以下の3つです。

少人数でじっくり1冊のテーマについて語り合う場をつくろう

本からの学びを、日々の実践につなげるための仕組みをつくろう

ゆるくしなやかな、種が芽吹いて育っていくような関係性を築いていこう

主催する私個人としては、読書会用に選書している(そしておそらくこれから選書するであろう別の)書籍は、一度サッと目を通して理解できたり、その叡智を実践することが難しいと感じられるものばかりです。

読書会の場は、次の世代に伝えたい大切な叡智を扱う場として、一冊一冊の知見が自分の子どもや孫世代まで伝わっていくような、そんな気の長い関わり方をできればと考えています。

語り継いでいきたい大切な知恵を、共感しあえる多くの人と分かち合う』そのための場としてこの読書会を設定し、参加者それぞれのタイミングで入れ替わりながらも豊かな関係性を紡ぎ、継続していきたい。

このような思いから、月に一度のこの指とまれ方式の読書会は始まりました。

さらに詳しくは以下の記事もご覧ください。

『対立の炎にとどまる』読書会開催

上記のような背景から以前、アーノルド・ミンデル(Arnold Mindell)著『対立の炎にとどまる(原題:Sitting in the fire)』を取り上げた読書会を開催したことがありました。

アーノルド・ミンデルは私にとって、企業・団体でのファシリテーションを実施する上での重要な学びを授けてくれた先人の1人です。

人の集団では表面的なやりとり以上に非言語の、明確化されていないメッセージのやりとりが行われており、そのような場をファシリテーションするとき、ファシリテーターはそのダイナミクスの構造を捉え、違和感やメッセージに対する自覚を高める必要がある、といったことを理解する上で、ミンデルの知見はとても重要なものです。

また、ミンデルはプロセスワーク(Process Work)およびプロセス指向心理学(Process Oriented Psychology)の創始者でもあります。

『対立の炎にとどまる』読書会ではプロセスワークを実際にトレーニングを受けながら理解を深めている方がいらっしゃり、読書会の場そのもののエネルギーもとても高かったことから、新たな取り組みを立ち上げようというエネルギーが高まっていました。

そして、新たにプロセスワークを探求していこう!という趣旨から、今回の読書会がまず開催されることとなったのです。

ありがたいことに、私はこの会にファシリテーターとしてお招きいただきました。

アーノルド・ミンデルとは?

本書の著者アーノルド・ミンデル(Arnold Mindell)は、プロセス指向心理学(Process-Oriented Psychology)、また、それらを対人支援・対集団支援へ活かしたプロセスワーク(Process Work)の創始者として知られる人物です。

1940年1月1日にアメリカ・ニューヨーク州生まれのアーノルド・ミンデルは、アーニー(Arny)の愛称で呼ばれ、現在はパートナーのエイミー・ミンデル(Amy Mindell)と活動を共にしています。

幼少期の経験について、ミンデルは以下のように述べています。

第二次世界大戦が勃発したちょうどその頃、私はニューヨーク州北部の小さな町で生まれた。小学1年生になる頃には、自分を取り巻く世界全体が反ユダヤ主義であるように見えた。他の子どもたちが私のことを醜い反ユダヤ的な名前で呼び、寄ってたかって攻撃してきたとき、自分の家族がユダヤ系であることを初めて自覚した。

アーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる』p245

その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で工学と言語学、大学院では理論物理学を学んでいたミンデルは、留学先のスイス・チューリヒでユング心理学と出逢います。

1969年にユング派分析家の資格を取得したミンデルは、ユング派が得意とする個人が見る夢の解釈のあり方を広げ、それを身体、グループ、世界へと展開していきます。

その考えはユング心理学の枠組みを大きく超えたものであり、1991年にアメリカ・オレゴン州に拠点を移したミンデルは、プロセスワークセンターを設立します。(下記リンクは、現在の組織体であるProcess Work Insutitute)

これ以降、ミンデルはタオイズムや禅といった東洋思想、シャーマニズムの概念を援用しながら自身の考えを語るようになりました。

私とアーノルド・ミンデル氏の初めての出会いは、 廣水 乃生 さんが講師としてやってきた『場づくりカレッジ』という場づくり・ファシリテーションを学び、実践するプログラムでした。

2017年以降、私は組織・集団のプロジェクトや、ワークショップを運営するファシリテーターを生業としてきましたが、その中で、グループ内の葛藤や対立が深まる中で一触即発の場面や、暴力性が噴出するような場面にも遭遇してきました。

そのような時、ファシリテーターとしての私は文字通り炎に焼かれるような緊張感、緊迫感、存在を揺さぶられるような危機感に身を置かれます。

この場はどうなるのか…
不用意な一言が暴発を招いてしまうのではないか…
次に口火を切るのは誰か…
ここの場の人間関係も決定的な破局になってしまうのか…
ミーティングの残り時間で何かの形で決着させられるのか…
自分にできることは何か…

それでも、そんな中でも、対立を超えたその先に、より良い未来を描きたい…と願い、自分の存在を投げ出すような覚悟と決心を持って場に臨み、真摯にファシリテーターとしての役割を全うする。

こういった中で、アーノルド・ミンデル氏の知見は私の支えとなってくれていました。

初めての邂逅以来、アーノルド・ミンデル氏が創始したプロセス指向心理学、プロセスワークを実践するプロセスワーカーの方々とも出会い、対話を重ねてくる中で今ここに至りますが、改めて『プロセスワーク』とは何か?について向き合う機会を得ることができ、とても嬉しく感じました。

読書会を通じての気づき・学び

読書会の運営方法

読書会の運営方法は、今回の読書会の呼びかけにいち早く反応してくれた友人のアドバイスを参考にしながら進めることにしました。

極力、プログラム的な要素は削ぎ落としつつ、シンプルに対話を重視した構成を行おう、という方針を意識しつつ運営方法を考えることとなりました。

まず、以下のようなオンライン上のシートをJamboardで準備し、お名前、今回の参加のきっかけ、本を読んでみたところまでの感想といったテーマを参加者の皆さんにお話しいただきました。

読書会終了時のJamboard

その後、黄色の付箋で話してみたいテーマを書き出していきながら、その場の参加者の熱量やエネルギーの流れに任せて対話を進めていきました。

読書会の最後は、沈黙の時間を設けた後、1人ずつ今回の感想を話して終了となりました。

今回の開催時間は120分でしたが、有志による放課後時間はその後さらに90分ほど継続される濃密な時間となりました。

専門用語の多さと体験・体感の大切さ

今回の読書会で第一に取り上げられたのは、『そもそも、プロセスワークには専門用語が多くてとっつきづらくないか?』といったテーマでした。

参加者の皆さんもそれぞれ、自身の体験や体感をまず自覚し、その後で本書に当たることでその体験や体感に意味づけできるようになるといったことを異口同音に仰られていたのが印象的でした。

感情や葛藤をどのように捉えるか?

体験、体感が伴わないと専門用語を身体化していくことが難しいと改めて確認でき、それぞれが各自の対立や葛藤などの経験もシェアされていくのですが、その中で感情や対立の取り扱いがテーマに挙がりました。

家族関係、職場関係、その他の人間関係の中で起こる葛藤、対立など、私たちが体験する人間関係でのトラブルはさまざまなシチュエーションがあります。

その中で、『私は職場内において上司、部下の両方に気を遣ってしまう。自分が自然と感じたものを表現すると、葛藤や対立が発生してしまう』というエピソードを紹介してくださった方がいました。

このエピソードを丁寧に参加者の皆さんで扱っていく中で、私にはふと以下のような幾つかのフレーズが浮かんできて、それを場に共有したくなりました。

プロセス指向心理学のもっとも大切な前提は、心理的、精神的、感情的混乱や運動の過程は、それ自体知恵を内包しているということだ。内的過程だけではない。外部の状況として現れてくる出来事も同じだ。変化と成長を促す兆しとして、内外の出来事の全体は起こってくる。そのプロセスの全体を尊重することが重要だとミンデルは考える。

アーノルド・ミンデル『紛争の心理学』p9

市民フォーラム、ギャング、コミュニティ、企業、大学などの問題に取り組むと、様々な立場から圧力を受けることになる。とても驚くべき状況や、自分とは全く違う人々と直面しなければならないので、はじめはただ驚き、絶望し、ショックを受けるだけで終わってしまうかもしれない。

けれども、このワークに没頭し、自分自身が引き裂かれることに身を委ねると、何かが起こることがある。そのとき、極めて困難な状況そのものが、素晴らしい教師になりうるのだと認識し始めるだろう。

その瞬間こそが、重要なのだ。

アーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる』p77

これらを私なりの解釈で考えてみると、以下のような仮説が生まれました。

葛藤や対立はそれ自体は良いも悪いもなく、人と人の持つエネルギー同士の衝突であり、現象である。

そして、そのエネルギーの発露そのものは素晴らしいことで、この衝突しているエネルギーをより良い関係性のために方向付けることができれば、対立はまさに知恵を内包していると言えるのではないか?

時に、怒り、憎しみ、苛立ちといった「悪い」とされる感情も生まれるかもしれないが、感情もまた自然に生じるものであり、良い・悪いの判断は内面化された文化・価値規範であることが多い。

私自身も、対話の中で生まれたこの仮説については新鮮な驚きや納得感といったものを感じながら、まさにプロセスに沿う形で生まれてきたように感じていました。

私たちが生きていく上で避けられない対立とはどのようなものか?

今回の読書会の最後に取り上げられてきたテーマは、私たちが日々生きていく中でも避けては通れない対立についてでした。

参加者の多くは今回、20〜30代であったこともあり、キャリア、結婚、家族の介護・死など人生においてもさまざまなライフイベントやテーマが立ち上がってくる年代でもありました。

また、現代を生きる私たちは令和5年の日本で、ロシアとウクライナの軍事衝突や中国と台湾の外交問題、Chat GPTをはじめとするAI技術の台頭やといったさまざまな特有の条件下、文脈(コンテクスト)のもとで生活しています。

その中で立ち現れてくる対立、葛藤はどのようなものか?

私たちはそれらにどのように向き合っているか・どのように向き合っていきたいか?

私たちが意識的・無意識に避けている、世界や時代、社会から引き受けるべきものは何か?

このような問いが最後に残り、放課後時間も閉じていきました。

始まりは『対立の炎にとどまる』の読書会でしたが、そこから新たな取り組みとして今回の『プロセスワーク入門』の読書会が生まれ、そこでもとても豊かな時間を過ごすことができました。

次回、開催の際はどのような対話が展開されていくのか、今から楽しみです。

関連リンク

最後に、今回の読書会中に出てきたキーワードの関連リンクを改めてまとめておきたいと思います。

アーノルド・ミンデル博士によるワールドワーク(プロセスワーク)の解説

エイミー・ミンデルのアニメーションから学ぶワールドワーク by 日本プロセスワークセンター

日本プロセスワークセンター

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