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【開催記録】「対立の炎にとどまる」読書会:本当の意味で「多様性を尊重する」とは?

今回は、アーノルド・ミンデル著『対立の炎にとどまる(原題:Sitting in the fire)』を扱った読書会の開催記録です。


読書会開催のきっかけ

少人数でじっくり1冊のテーマについて語り合う場をつくろう

今回の読書会開催は、SNSで呼びかけた以下のような投稿から始まりました。

近々、最近の投稿で反響のあった4冊の本のどれか1冊を選んで読書会をやろうかと思っているのですが、ご興味のある方はいらっしゃいますか?

いずれの本も出版されて少し経ちますが、改めて読み返してみよう、実は積読になっていた、つい最近になって読み始めたところ、別の読書会でご一緒してしばらく、などの方もいらっしゃるのかなと思います。

私自身、読書好きなのですが「これだ!」と感じた本は折に触れて学び直すタイミングをとりつつ、日々の実践に活かしていければと感じています。そして、それは1人よりも何人かで一緒に進めるのが良さそう(間違いなく!)。

そういうわけで、タイミングの合う皆さんとご一緒できれば嬉しいです。
1回あたり60分程度で、1冊丸々精読するというより、特に気になった箇所について扱って深めてみよう、というイメージ。

どれか1冊で数名程度集まりそうであれば、ゆるくゆったり語れるスタイルで始めようかと思います〜

気になる本やこういった試みについて、何かありましたらコメントいただけると嬉しいです。

SNSで読書会開催を呼びかけた私の投稿
選書した4冊
アダム・カヘン『共に変容するファシリテーション』
中田豊一『対話型ファシリテーションの手ほどき』
トム・ニクソン『すべては1人から始まる』
アーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる』

これらの本は私の人生にとって大きく影響を与えた本であり、これらの本の叡智は読書会の参加、著者との対話、組織開発の現場での実践、日々の暮らしでの活用など、私の人生のさまざまな場面で実践・探求が行われてきました。

そして、これまで読書記録や読書会記録としても、これらの本を扱った際の学びはまとめられています。

しかし、SNSでの呼びかけた通り、これらの書籍のテーマについて理解を深め、私たちの日々の生活で体現していくには、継続的な学びと実践、そして同じテーマに取り組む友人や仲間との対話が不可欠であると感じていました。

とても、一読しただけではその本質を理解し、実践するというのが難しい、訓練や成熟を必要とするテーマであると感じられたのです。

そのため、まずは少人数から始まる形でじっくり語り合える場を開くことを決め、先日は『対話型ファシリテーションの手ほどき』をテーマ本にした読書会を開催することができました。

本からの学びを、日々の実践につなげるための仕組みをつくろう

先述の通り、これら4冊の書籍にまとめられた知見は、日々の実践の中で体得されえるものです。

そのためただ読書会を開きたいのではなく、今回の場での学びが、参加されたみなさんそれぞれの現場や暮らしのなかで活かされうるような、そのような仕組みづくりも行っていきたいと考えていました。

もちろん、読書会参加の動機はみなさんそれぞれのものであり、一人ひとりの関わり方や参加の仕方はご本人に委ねられるものです。

ただ、そんな中でも初めのきっかけをつくった主催者としては、今回選書した本の読書会での学びが、みなさんそれぞれの生活の中で活かされ、より良い人間関係の構築や人生の旅路の歩みに貢献したい、という願いがありました。

こういった点から、今回の読書会は特別なプログラムのようなものは極力削ぎ落とし、シンプルな構成と互いの話を聴き合うことに重点を置いたものにしたいと考えていました。

ゆるくしなやかな、種が芽吹いて育っていくような関係性を築いていこう

もうひとつ、こうなったら良いなと感じていた点としては、今回の読書会が参加される方にとっての一つの節目のように機能すれば良いな、というものでした。

今回選書している(そしておそらくこれから選書するであろう別の)書籍は、一朝一夕の学びで実践したり、理解したり、体得できるものではありません。

長ければ何年も時間がかかる場合もあるかもしれません。

それでも、何かお互いのタイミングや興味関心が重なり、場をご一緒できるのであれば、その瞬間を大事にすることと、その後の時間がお互いにとって豊かなものになれば良いな、という願いがありました。

また、一度読書会に参加したらそれっきり、ではなく、一度結ばれたご縁を大切にしつつ、折に触れて同じ本での読書会で再会し、お互いの変化を確認し合えるような、そんな節目のような機会とできれば良いな……そんな風に考えていました。

主催する私個人としては、今回選書している(そしておそらくこれから選書するであろう別の)書籍は、次の世代に伝えたい大切な考え方や知見として、自分の子どもや孫世代まで伝わっていくような、そんな気の長い関わり方をできればと考えています。

そのため、今回の読書会をきっかけに豊かな関係性の種を蒔き、育てていくイメージを、次世代の森を育てていくようなビジョンとして妄想しています。

豊かな関係性や叡智のつながりが世代を超えても伝わっていく、森ようなイメージ

もちろん、一度結ばれたご縁によって今回の読書会以外の場でも何かご一緒するきっかけが生まれることもあるかもしれません。

そのような未来につながる種まきの場にもなってくれればな、というのが理想です。

アーノルド・ミンデルとは?

本書の著者アーノルド・ミンデル(Arnold Mindell)は、プロセス指向心理学(Process-Oriented Psychology)、また、それらを対人支援・対集団支援へ活かしたプロセスワーク(Process Work)の創始者として知られる人物です。

1940年1月1日にアメリカ・ニューヨーク州生まれのアーノルド・ミンデルは、アーニー(Arny)の愛称で呼ばれ、現在はパートナーのエイミー・ミンデル(Amy Mindell)と活動を共にしています。

幼少期の経験について、ミンデルは以下のように述べています。

第二次世界大戦が勃発したちょうどその頃、私はニューヨーク州北部の小さな町で生まれた。小学1年生になる頃には、自分を取り巻く世界全体が反ユダヤ主義であるように見えた。他の子どもたちが私のことを醜い反ユダヤ的な名前で呼び、寄ってたかって攻撃してきたとき、自分の家族がユダヤ系であることを初めて自覚した。

アーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる』p245

その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で工学と言語学、大学院では理論物理学を学んでいたミンデルは、留学先のスイス・チューリヒでユング心理学と出逢います。
1969年にユング派分析家の資格を取得したミンデルは、ユング派が得意とする個人が見る夢の解釈のあり方を広げ、それを身体、グループ、世界へと展開していきます。
その考えはユング心理学の枠組みを大きく超えたものであり、1991年にアメリカ・オレゴン州に拠点を移したミンデルは、プロセスワークセンターを設立します。(下記リンクは、現在の組織体であるProcess Work Insutitute)

これ以降、ミンデルはタオイズムや禅といった東洋思想、シャーマニズムの概念を援用しながら自身の考えを語るようになりました。

アーノルド・ミンデルの思想との出会い

私とアーノルド・ミンデル氏の初めての出会いは、 廣水 乃生 さんが講師としてやってきた『場づくりカレッジ』という場づくり・ファシリテーションを学び、実践するプログラムでした。

その際に初めて私は、人の集団では表面的なやりとり以上に非言語の、明確化されていないメッセージのやりとりが行われていること、そのような場をファシリテーションするとき、ファシリテーターはそのダイナミクスの構造を捉え、違和感やメッセージに対する自覚を高める必要がある、といったことを体系的に学んだと記憶しています。

その学びに何か確信的なものを感じたのか、以降私は『紛争の心理学』『ディープ・デモクラシーと、どんどん日本語訳されたミンデルの書籍を手に取り、それらの原著も取り寄せるまでに至ります。
ところで、どうして原題は『Sitting in the Fire(炎の中に座る)』なのでしょうか?

そのような問いを持ってみると、同じようなタイトルの本も見つかるではありませんか。ラリー・ドレスラー著『Standing in the Fire(邦題:『プロフェッショナル・ファシリテーター』)』です。

2017年以降、私は組織・集団のプロジェクトや、ワークショップを運営するファシリテーターを生業としてきました。
その中で、グループ内の葛藤や対立が深まる中で一触即発の場面や、暴力性が噴出するような場面にも遭遇してきました。

そのような時、ファシリテーターとしての私は文字通り炎に焼かれるような緊張感、緊迫感、存在を揺さぶられるような危機感に身を置かれます。

この場はどうなるのか…
不用意な一言が暴発を招いてしまうのではないか…
次に口火を切るのは誰か…
ここの場の人間関係も決定的な破局になってしまうのか…
ミーティングの残り時間で何かの形で決着させられるのか…
自分にできることは何か…

それでも、そんな中でも、対立を超えたその先に、より良い未来を描きたい…と願い、自分の存在を投げ出すような覚悟と決心を持って場に臨み、真摯にファシリテーターとしての役割を全うする。

そのような体験で感じていたものが、『』ではなかろうか、というのが私の仮説です。

初めての邂逅以来、アーノルド・ミンデル氏が創始したプロセス指向心理学、プロセスワークを実践するプロセスワーカーの方々とも出会い、対話を重ねてくる中で今ここに至りますが、『紛争の心理学』は2022年12月に『対立の炎にとどまる』として復刊され、再び本書と縁が結ばれました。

そして、今回の読書会を思い立つ前に、本書の出版直後、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)という読書会が連続企画として開催され、私もその場にも参加しておりました。

※全3回シリーズの『対立の炎にとどまる』ABD読書会の第1回第2回第3回の参加記録はリンクを、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)については以下も参考までにご覧ください。

読書会を通じての気づき・学び

読書会の運営方法

読書会の運営方法は、今回の読書会の呼びかけにいち早く反応してくれた友人のアドバイスを参考にしながら進めることにしました。

極力、プログラム的な要素は削ぎ落としつつ、シンプルに対話を重視した構成を行おう、という方針を意識しつつ運営方法を考えることとなりました。

まず、以下のようなオンライン上のシートをJamboardで準備しました。

読書会が始まる前のJamboard

読書会を始める前の準備として、初めの一言を1人ずつ話した後、上記のピンク、オレンジ、黄緑のテーマについて再び1人ずつ話してもらいます。

その後、水色の付箋の書き出しの時間を設けた後は、その水色の付箋について対話・探求を進めていくことにしました。

読書会の最後は、沈黙の時間を設けた後、1人ずつ今回の感想を話して終了となりました。

この間の開催時間は90分。予想以上に対話が盛り上がり、参加された皆さんからは「あっという間だった」という感想が聞かれました。

自身の特権・ランクに対する自覚

まず、対話のテーマとしては自身の持っている特権・ランクについての対話が取り上げられていたように思います。

ランクとは、その人が意識する・しないに関わらず備わっている属性であり、その属性は集団内においてパワーの差を発揮することがあります。

会社組織内においては、上司と部下というランク差によって無意識に部下が萎縮してしまうようなコミュニケーションを上司が取ってしまうことがあります。

このほか、人種、国籍、性別・性自認、言語、学歴、年齢、職業などもランクとして数えられます。

対話の中では、他人のストーリーを聴くことで自身のランクに自覚的になることができる、といった話や、ランクの違いを認めた上で互いに尊重しあえることの大切さ等について話が繰り広げられました。

このほか、

『自覚的にランクを使うとは、どういうことか?』

『ランク差を感じて萎縮してしまったり、相手にとって都合よく賢く振る舞ってしまうことがあるが、どうすればこのエッジを超えていけるか?』

といった問いかけも生まれました。

本当の意味で多様性を尊重するってどういうこと?

近年では、『多様性の尊重』や『ダイバーシティの推進』といったスローガンが企業において、社会において標榜されることも増えてきました。

そういった状況を鑑みた時に参加者の中から出てきた問いが『本当の意味で多様性を尊重するってどういうこと?』という問いでした。

私自身、問われた時にふと考えてみたのですが、やはり鍵は『対立の炎にとどまる』でも扱われている『自覚』『アウェアネス』であるように感じました。

まず、一人ひとりが『私にとって過ごしやすい環境・状況とは?』という問いに対して一人ひとりのイメージや感覚を自覚することの大切さが挙げられます。

そして、多様性やダイバーシティを尊重・推進しようとしている、その人が所属している組織・コミュニティがどのような意図で『多様性』『ダイバーシティ』を捉えているのか?に対する自覚。

もし、所属している組織・コミュニティの意図と自身の望む状態に齟齬があった場合、自身はどのような選択をしたいのか?に対する自覚。この時、その組織・コミュニティに対して積極的に働きかけていく、やむをえず適応する、あるいは離脱する等の選択肢が考えられます。

これに加えて、自身の所属する組織・コミュニティを超えて、広く地域、自治体、社会へとメッセージを発信していったり、意識を変革していきたいという場合もあるかもしれませんが、自身の望みはどの範囲に収まるのか?に対する自覚なども考えることができるかもしれません。

この『自覚』とは、異なる文脈や階層に対する意識の言語化・構造化とも呼べるかもしれない、とも感じられました。

さらに、意識を自分の日常生活、普段いる組織・コミュニティ、地域、社会と広げていく中で、『この人とは分かり合えないかもしれない』『この人は苦手だ。向き合うのが難しい』と感じる人もイメージできるかもしれません。

この時、あなたはどんな選択をするのか?という問いに向き合う必要も、出てくるかもしれません。妥協するのか、対話を続けるのか、それともその人から離れていくのか……。

一人ひとりの望む形は違うかもしれませんが、まず私自身について考えてみます。

私自身はまず、場をご一緒する皆さんに対して、『私にとって過ごしやすい環境・状況とは?』『あなたにとって過ごしやすい状況・環境とは?』について意識し、互いの過ごしやすさや自身のめざしたい状態の双方を尊重しあっていける場を模索しながらつくっていければと感じます。

もしかしたら、何よりもまず、ここから始まるのかもしれないですね。

今回の読書会を終えてみて

今回の読書会は、90分という時間の中で参加された一人ひとりがまさに直面している現場があり、それらの共有と対話をしている中で一気に時間が流れていった印象がありました。

あいにく、今回急用によって参加できなくなった方もいたのですが、早くも参加者スレッドの中では次回以降や、また別の展開に関するメッセージも飛び交っています。

今回の参加者は同年代が集ったということもあり、これからをつくっていく世代として本書にあった知恵をどのようにより多くの方へ届けていこうか?というエネルギーも高まりました。

改めて、このような場をご一緒できて、本当に良かったと感じています。

今後も定期的な読書会の実施による、興味関心で集い・深めあえる関係性づくりに加え、参加者の皆さんとの新たなコラボレーションにも積極的に取り組んでいければと思います。

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