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【読書記録】対話型ファシリテーションの手ほどき
今回の読書記録は、認定NPO法人ムラのミライ代表理事・中田豊一著『対話型ファシリテーションの手ほどき』です。
対話型ファシリテーションとは?
本書は、認定NPO法人ムラのミライ(旧団体名:ソムニード)が開発したメタファシリテーション®を学んだ際に紹介いただいた一冊です。
本書の紹介ページでは以下のように紹介されています。
対話型ファシリテーションとは、NPO法人ムラのミライが、国際協力の現場で使える実践的なファシリテーション手法として開発した課題発見・解決のための対話術です。
また、対話型ファシリテーションとはメタファシリテーション®︎の別名であり、ムラのミライでは以下のように紹介されています。
メタファシリテーション®とは
メタファシリテーション®(対話型ファシリテーション)はムラのミライ創始者である和田信明が途上国の援助の現場で生み出し、現代表の中田豊一が手法として使えるように体系化したものです。
私たちのすべての活動はメタファシリテーション®が核となっています。
このメタファシリテーション®︎を紹介している書籍として、『途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法』があります。
今回、読書記録に取り上げた『対話型ファシリテーションの手ほどき』は、メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)について身近な事例を交えた入門書と言えるものです。
「なぜ」「どうして」を使わない質問法
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)の特徴的な点に、「なぜ(why)」「どうして(how)」という質問を使わずに、「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」という5W1Hの内の4Wを活用しながら、相手に質問していく点があります。
ここには、私たちが誰かにものを尋ねられ、それに答える際のある種のパターンが関係しています。
相手に考えさせてしまう「なぜ」「どうして」という問い
「なぜ」「どうして」と尋ねられるとき、それも何かネガティブな問題に対して尋ねられると、どうしても人は自分を守るために言い訳を準備してしまうことがあります。
「どうして、今日は遅刻したの?」
「なぜ、そんなことをしたの?」
このように問われたとき、人は返答を返すものの、その質問によって心地よく尋ねられた側も改善に向かえるかは、わかりません。
遅刻の例で言えば、
「昨日は何時に寝たの?」
「寝る前まで何をしていたの?」
などの具体的なシチュエーションを尋ねていくことで、遅刻した本人も意識していなかったポイントが浮かび上がってくることがあるかもしれません。
「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」という問いは、「なぜ(why)」「どうして(how)」よりも誰もが簡単に答えやすく、解決したい課題について具体的な事実を浮かび上がらせることができる、パワフルな問いになり得るのです。
気持ち・感情、意見・考え、事実を区別する
「あなたはいつも朝食に何を食べますか?」
こう質問されたら、あなたは何と答えるでしょうか?
「ご飯です」「パンです」
など、さまざまな答えがあるかもしれませんね。
それでは、こう尋ねられたらどうでしょう?
「今朝は、朝食に何を食べましたか?」
「昨日は、朝食に何を食べましたか?」
「一昨日は、朝食に何を食べましたか?」
実は、「いつも食べている」と思ったものとは違った答えが浮かび上がってくるかもしれません。
また、朝食を尋ねる際に、以下のような質問を用意すると、それぞれどのような違いが見えるでしょうか?
「あなたが好きな朝食は何ですか?」
「あなたはいつも朝食で何を食べますか?」
「今朝、あなたは朝食で何を食べましたか?」
「あなたが好きな朝食は何ですか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人はその人の気持ちや感情に基づいて返答しています。
「あなたはいつも朝食で何を食べますか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人は自分が普段こうしているだろうという意見・考えに基づいて返答しています。
「今朝、あなたは朝食で何を食べましたか?」と尋ねられた場合、尋ねられた人は今朝、具体的に何を食べたのかという事実に基づいて返答しています。
そのため、上記の3つの質問を整理すると以下のように表せます。
あなたが好きな朝食は何ですか?(気持ちや感情を尋ねる問い)
あなたはいつも朝食で何を食べますか?(意見・考えを尋ねる問い)
今朝、あなたは朝食で何を食べましたか?(事実を尋ねる問い)
尋ねる側は使いやすい「どうだった?」
「〇〇はどうだった?」は、私たちの日常の中ではとても多く使われる質問です。
「先日の旅行はどうだった?」
「話題のあの映画、実際どうだった?」
「今回の研修はどうだった?」
ところで、いざ「どうだった?」と問われたときに答える側は何について具体的に答えれば良いのかわかりません。
旅行であれば食べた料理、訪れた観光地、一緒に行った友人とのコミュニケーションなどさまざまな答えるポイントがあるのですが、尋ねた側にどんなことを伝えて良いのか判別できません。映画についても同様です。
このように、「どうだった?」は尋ねる側はとても気楽に使える問いであり、答える側に考えさせる問いです。
本人にそのような意図がなかったとしても「どうだった?」と尋ねることで、「一応は気にかけているんですよ」とメッセージを発し、次の瞬間別の話題に持っていくこともできてしまいます。
本書中では、開発途上国から対話型ファシリテーションを数週間から数ヶ月にわたって学びにきた公務員やNGO職員との以下のようなエピソードが紹介されていました。
●「自国に帰ったとき、あなたは誰に今回の学びを報告しますか?」
○「上司です」
●「上司は何と尋ねてくるでしょうか?」
○「『日本はどうだった?』『研修はどうだった?』でしょうね」
●「そう、それを受けてあなたが『日本はよかったです』『研修は素晴らしかったです』と答えると、上司は『それはよかった』と一言。そしてこう言うでしょう。『では、自分の部署での仕事に戻ってください。溜まった仕事が、君を待っているよ』。これであなたの訪日研修は終わりです。この、『どうだった?』『良かったです』というやりとりのパターンを破れるかどうかが、今回の研修を活かせるかどうかの鍵になるのです」
事実確認から気づきを促す
以上、「なぜ(why)」「どうして(how)」という質問を使わないポイントについて確認してきました。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)は、「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」を相手に質問することで具体的な事実を浮かび上がらせ、積み重ねていくことで相手への気づきを促します。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)が生まれた背景には、途上国における支援の中で、現地の人々と支援者である国際協力組織やNGOの職員とのコミュニケーションがありました。
本書中でも、著者・中田豊一氏と和田信明氏それぞれの質問の仕方について、エピソード事例も紹介されています。
質問の違いによってどのような変化が起こりうるか、まず中田氏の事例を紹介した後、和田氏の事例を簡潔にまとめた形ではありますが、紹介します。
中田氏の事例(事実を元にしたストーリー)
のどかな田園風景が広がる東南アジアの山間の村にて。国際協力団体に所属する中田さんと村人とのコミュニケーション。
○「この村の一番の困りごとは何ですか?」
●「子どもの下痢が多いことです」
○「子どもたちが下痢になるのはなぜですか?」
●「清潔な水がないからだと思います。森の泉にはきれいな水がありますが、重い水を運ぶのは大変です」
○「井戸はないのですか?あれば便利だとは思いませんか?」
●「思いますが、自分たちでは掘れません」
○「どうしてですか?」
●「技術も。資金もありません」
○「私たちが援助しますので、掘りませんか?」
●「ええ、それができればありがたいです」
○「私たちが支援するのは、技術と資金だけです。労働力を村から出してもらえますか?」
●「もちろんです」
○「掘った後、維持管理も自分たちでやれますね?それが約束できれば、援助します」
●「約束します」
○「これで決まりですね。皆さんの井戸を皆さんで掘りましょう。子どもたちも健康になるでしょう」
●「ありがとうございます。母親たちも喜ぶことでしょう」
こうして、村人は清潔な水を手に入れることができるようになった。半年後、様子を見に行った際、周囲は少し汚れているものの、井戸は使われていた。それから一年後、手押しポンプ井戸が壊れ、今はどう見ても使われていないようだと国際協力ボランティアの友人から聞くこととなった。
現地に赴くと、やはり間違いないようだ。私と一緒に井戸の計画をした村人の1人がこう言った。
「手押しポンプの修理代を援助してほしいのだが」と。
和田氏の事例:ラオスでのエピソード
続いては、和田信明氏のストーリーです。これは、著者の中田氏が和田氏の事実確認インタビューを初めて目撃した際のエピソードとのことです。
2000年2月。ラオスの首都ビエンチャン近くの農村にて。ラオス政府農林局はJICAの支援を受けながら荒廃林の植林活動を村人と行っていました。整地・植林に必要な資材費をJICAが、労働力と森林の管理を村人が行い、計画的な伐採で木材を販売し、売上の一部を政府農林局、残りは村人の利益となる、と言うモデルを導入しようとしていました。
和田氏は村人がその活動のために作った委員会の委員長に質問を投げかけ始めました。「これは何ですか?」から始まり、徐々に樹林へ話を移していき、「いつ植えたのか?」「樹種は何か?」「どんな作業を誰がしたのか?」について詳細を尋ねていきました。そして、和田氏がこう尋ねました。
○「この木は何年後に売るのですか?」
●「15から20年後くらいかな」
○「誰が売るのですか?」
●「その頃は自分は老人だろうから、子どもたちかな」
○「誰に売るのですか?」
●「えっ?JICAが買ってくれるんじゃなかったの?」
この答えが出たところで、和田は丁重に委員長にお礼を言い、インタビューを打ち切りました。周りで聞いていた調査団のメンバー、政府農林局の職員、JICAのスタッフも委員長の言葉に唖然としていました。
メタファシリテーション®︎の定義
以上のような事例を見比べてみると、「なぜ(why)」「どうして(how)」を使うことは尋ねる側、尋ねられた側の思い込みや意見に焦点が当たってしまい、本来手をつけたいはずの課題に届かず会話が上滑りになっているような印象を受けます。
一方で、和田氏の質問はどれも相手が答えやすい事実を尋ねる質問ですが、尋ねた相手の盲点を浮かび上がらせるように働いていることが確認できます。
「いつ(when)」「what(何が)」「where(どこで)」「who(誰が)」を用いた事実確認の質問は、尋ねる側・尋ねられる側双方に解釈の違いや幅を発生させず、私たちが今ある現実を認識することを助けてくれるものだと感じられます。
上記のような気づきも振り返ってみると、以下のような和田氏・中田氏によるメタファシリテーション®︎の定義もより理解が深まるように感じました。
メタファシリテーション®の定義
ファシリテートする側が当事者に対して事実のみを質問していくことによって、当事者が思い込みに囚われることなく自分の状態を正確に捉え、そのことによって自分の経験知から課題の解決につながる示唆を主体的に得る過程を創り出す手法である。また、この手法はファシリテートする側が事実のみを訊くことによって自分が現在何を訊いているのか正確に認知すること、すなわちファシリテートする側のメタ認知(meta cognition)を促し、ファシリテーションの過程そのものの客観性とファシリテートする側と当事者とのコミュニケーションの効果を最大限に担保する。
開発秘話:純粋な興味を持って尋ねる
本書『対話型ファシリテーションの手ほどき』を読み進める中で印象に残ったのは、このメタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)を国際協力の現場で実践しながら体系化してきた和田氏の気づきに関するエピソードでした。
1990年代半ば、インドのある村で和田氏はこう考えたそうです。
『自分は村のことを何も知らないのだから、相手に教えてもらうように、子どものように丹念に事実を聞いていこう』
そして、山岳少数民族の村の家々を巡りながら、家計事情をインタビューしていったとのこと。
結果として、尋ねた先のご主人は借金の状態なども包み隠さずどんどん話はじめ、家々の家計は丸裸状態に。和田氏としてはかなり執拗に家計について尋ねていたと恐縮し、「立ち入ったことをあれこれ細かく聞いて申し訳ありませんでした」と謝りました。
すると、当のご主人は「いやいや、いろいろ聞いてもらって楽しかった。改めてわかったこともある。話を聞いてくれてありがとう」と話され、近くでやりとりを聞いていたご近所さんも「で、俺のところにはいつきてくれるんだ?」と話されたそうです。
この時、和田氏はこんなふうに感じられたそうです。
『相手のことに関心を持ってさえいれば、こちらが考えるほどには嫌がらず、むしろそれを喜ぶものなんだ』
これに勇気を得て、和田氏は迷いなく実践訓練を積み重ねることができ、結果として手法が確立してされたそうです。
目の前の相手に純粋に興味や関心を持って尋ねること。これは、あらゆる対人関係を築く上でも最も基本的なことです。
メタファシリテーション®︎(対話型ファシリテーション)とは、その上で磨かれ、体系化された方法論であるのだな、と再認識できました。
参考リンク
以下、さらに学びを深めるための参考リンクです。
認定NPO法人ムラのミライYouTube
ムラのミライ【初級】メタファシリテーション講座
『途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法』
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