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【#1-6.b】 リポソームとかトランス脂肪酸とかオメガ3とか。

#1-6.aの続きです。

こちらの記事は、#1-5.aに比べると、話題性のある内容かなと思います。
身体に悪いって聞くけど、トランス脂肪酸って何?逆に身体にいいオメガ3とかオメガ6とか何?今話題のリポソームって何?って話を例によって少しの専門性と、話題性を含めて化学ベースの視点から解説します!DHAやEPAにも少し触れますね。。
この記事はそれら成分の摂取に関して否定したり肯定したりの立場をとるものではなく、あくまで説明という主旨ですので気楽に読んでください。

ではいきましょう!


1. 脂肪酸について

脂質の構造は#1-6.aで触れた通り、脂肪酸とグリセリンでできています。
で、このうち、脂肪酸には飽和脂肪酸不飽和脂肪酸という種類があります。そして、不飽和脂肪酸の種類の中に、トランス脂肪酸があります。
おいおいいきなり難しいぜって方、安心してください。ほぐして解説します。まずはこうなんだと、知るだけで大丈夫です。

ネットでは解説が端折られてる部分も多いところから説明していきますね。

Fig.1 脂肪酸の種類

飽和、不飽和って何?

順番に見ていきましょう。
まず、飽和、不飽和とは分子の構造からきた言葉で、「これ以上他の原子が結合できないですよ」という状態を飽和、「まだ他の原子結合できますよ」という状態を不飽和、と呼んでいます。
実は不飽和というのは「二重結合を持っている」という意味と同じです。
そして、二重結合というのは、二重のうち一つを切って、別の原子との結合に使えますよ。という結合です。

向かい合って2人で両手を繋いでいるとき(二重結合)、片方の手を離せば別の人とも手を繋ぐことできますよね?そんなイメージです。

Fig.2 二重結合


2. 脂肪酸の構造を理解しよう

なぜ構造を理解する必要があるのか、原子とか分子とか、結合とか難しいって思うかもしれませんが、これを理解することで身近な話題がぐんと専門レベルまでわかるようになりますよん。
少し勉強して覚えてるよって方も、ここを理解すれば、常温で固体なのは飽和脂肪酸だったっけ不飽和の方だっけ?とか暗記から解放されますよ!


3. ファンデルワールス力という力

脂肪酸を説明してる内容で、ファンデルワールス力(ふぁんでるわーるすりょく)から説明している記事はあまり見かけません。これを理解している人としていない人で、暗記か理解かの違いが分かれます。

ファンデルワールス力とは、分子同士が引き合う弱い引力のことです。
ほにゃらら結合よりは弱い力ですが、お互いに引き合う力があります。(ファンデルワールス結合という場合もあります。)
このファンデルワールス力は分子の間の引力なので、当然それが強い方がお互いに引きつけ合うわけです。

パートナーの方に「少し距離を置こう」って言われた時は、「それでもファンデルワールス力で引き合ってるね」って言ってみてください。そのまま振られます。

このファンデルワールス力は、
同じ大きさの脂肪酸ならば飽和脂肪酸>不飽和脂肪酸となっています。
そして、飽和脂肪酸からできたものは常温で固体のものが多いです。一方、不飽和脂肪酸からできたものは常温で液体のものが多いです。これが何を意味するかわかりますか?

ファンデルワールス力が強く、分子がお互いに強く引き合っている方がぎゅっと密になって固体になりやすいということです。そして、大切なことは、このファンデルワールス力は分子の表面積に比例します。

分子の表面積が大きいほどファンデルワールス力は強くなり固体になりやすいのがポイントです。

Fig.3 ファンデルワールス力の大きさは分子の表面積に比例する

4. 二つの構造:シス、トランス

二重結合を持つ分子(不飽和脂肪酸)がとる構造として、シス型トランス型という構造があります。(幾何異性体と言います。)

Fig.4 シス型とトランス型

トランス脂肪酸というワードにぐんと近づいてきました。

脂肪酸の屋台骨となる炭素原子(Fig.4の中の「C」)が次の炭素原子とどういうふうに手を繋ぐかによって決まる構造の違いです。

このシス、トランス型ずっと繰り返して繋がっていくとどうなると思いますか?
シス型が続くと分子は丸まっていき、トランス型が続くと分子は直線状になっていきます。

では、ここでイメージしてください。
ある四角い板に、別の四角い板を面同士でくっつけるのと、四角い板にボールをくっつけるのではどちらがしっかりくっつくと思いますか?

同じ接着剤とかを使っていれば、板を面同士でくっつける方がよくくっつくのはイメージできると思います。なぜでしょう。
それは接地面積(表面積)が大きいからですよね?

つまり、シス型の二重結合を持っている不飽脂肪酸が多い方が、他の分子と関与する部分の表面積は小さくなり、ファンデルワールス力も小さくなります。
したがって、不飽和脂肪酸、特にシス型の脂肪酸を多く含むものは常温でゆるゆると液体の状態で存在し、直線状になってビシッと整列するような飽和脂肪酸は常温で固体となります。

Fig.5 不飽和脂肪酸:二重結合が多くなるほど隣り合う分子に関わる表面積が小さくなる

引用:The University of Texas at Austin  Molecule of the Day: Trans fatty acids

5. 利便性の追求で生まれた産物:トランス脂肪酸

ここまで読んでくださったかたは、不飽和脂肪酸は、切れば結合に使える結合を持っていて(二重結合)、基本は液体なんだな。ということがわかるかと思います。
液体って不便ですよね??持ち運びとか、実用的には。

そこで考え出されたのが、工業的な水素付加(水素化とも言います)という手法です。
これは、液体の不飽和脂肪酸(植物油など)に人工的に水素を付加(二重結合を切って空いたところに無理やり水素原子を結合させる)する方法です。
二重結合を失うと、液体だった油が、固体のマーガリンやファットスプレッドとなり、使用されています。(無理やり飽和脂肪酸を作るようなイメージ)

これに関してはそういう手法か、で済むのですが、厄介なのがその時に副産物としてできるトランス脂肪酸です。
シス型の脂肪酸に水素を無理やりくっつける時に、形が一部変化してトランス型の脂肪酸ができてしまいます。
すでにイメージできる方もいるかもしれませんが、トランス脂肪酸は常温で固体です。なぜなら、不飽和脂肪酸ではあるものの、トランス型なので脂肪酸の形は直線となり、トランス脂肪酸間のファンデルワールス力がシス型よりも強くなり、固形化するからです。


Fig.6 同じ大きさ(炭素の数)なのに構造は全く異なる

引用:食品総合研究所:トランス脂肪酸


このトランス脂肪酸は研究で、悪玉コレステロールの増加を招くことや心疾患のリスクを増加させることが報告されています。

そもそもですが、飽和脂肪酸や、不飽和脂肪酸のうちシス型のものは天然に存在しますが、トランス型の不飽和脂肪酸は天然にはあまり存在しません。

人間を含む生き物は、現在の進化論をもとに考えると、生存に有利なものを取捨選択して進化してきたと考えられています。つまり、現在の考え方をベースに考えると、天然に多く存在しないもの=不要なもの、と考えることができます。
そう考えると、身体に良くないことは頷けるのではないかと思います。

一方で、その摂取量についてはcontroversial topic つまり賛否が分かれています。(なぜ英語を入れた。)
実際に健康被害リスクがあることが報告されているため、摂取は推奨されていませんが、日常での摂取量は非常に少ないと考えられて、特に気にする必要はない。とする考え方もあれば、法律で禁止している国もあります。
(輸入菓子などでは栄養成分表記にFatがありますが、分けてトランス脂肪酸の含有量を明記していたりします。)

マーガリンなどは低価格で美味しいものとして入手可能ですので、ご自身の判断で有効活用してゆくのがいいのかなと考えます。


6. オメガ3とかDHAとか

ここまで、不飽和脂肪酸について、シス、トランス型の観点で説明してきました。
不飽和脂肪酸とは二重結合を持った脂肪酸と説明しましたが、ここからは脂肪酸の構造内での二重結合の数、そして位置に着目します。

二重結合の数を表すとき、「〜価」という表現を使います。例えば、脂肪酸の分子の中に二重結合が一つだった場合、それは一価不飽和脂肪酸と呼びます。
この一価不飽和脂肪酸にはオメガ9系脂肪酸が含まれます。

おいおいオメガがわからんぞという方、少しお待ちください。

二重結合の数が、2個、3個の場合、それぞれ二価、三価と呼びます。二価以上を持つ脂肪酸をまとめて、多価不飽和脂肪酸といいます。
そしてこの多価不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸とも呼ばれ、身体に必要だが、体内では作ることのできない(食事から摂取する必要のある)脂肪酸です。

Fig.7  一価、多価不飽和脂肪酸


*補足
身体に必要なのに、自身で作ることができないっていうのは、それこそ進化の考え方に基づくと不思議です。まだまだ進化の途中なのでしょうか、それとも簡単に摂取できるから作れるようになる進化が必要がなかったのでしょうか。うーん奥が深い。皆さんも考えてみてください。

そして、この多価不飽和脂肪酸の中にオメガ3やオメガ6系の脂肪酸が含まれます。つまり、オメガ3やオメガ6系の不飽和脂肪酸は食事から摂取しなければならないということです。
*補足
オメガ3はn-3系、オメガ6はn-6系とも言います。

さらにこのオメガ3の代表的な脂肪酸がDHADocosahexaenoic Acid:ドコサヘキサエン酸)やEPAEicosapentaenoic Acid:エイコサペンタエン酸)、エゴマやアマニ油に含まれるα-リノレン酸です。これらの脂肪酸は新鮮な魚の油に多く含まれ、減量中で脂質カットしている人たちでも、中性脂肪を減らす効果があることから脂質源として摂取する人が多いようです。
最近コンビニでも手に入る、ベースフードなんかは、この必須脂肪酸の記載がありました。

Fig.8 必須脂肪酸やトランス脂肪酸の表記は増えてきている

*補足
ググれば簡単に出ることを書きすぎるのもアレですが、DHAやEPAは免疫反応の調節や、血液をサラサラにする効果、脳神経の情報伝達を良くすることが報告されています。ここまで読んでいただいてこそ面白いと感じるかもしれませんが、中性脂肪を構成していた脂肪酸の仲間にもかかわらず、DHAやEPAは中性脂肪を減少させる効果も報告されています。

ではオメガ3とかオメガ6ってどういう意味か。

それは二重結合の位置に関係したネーミングです。
脂肪酸の構造は炭素(C)がつながった構造で、末端にはカルボキシル基(COOH)と、その逆側にメチル基(CH3)というのがついています。最初の二重結合がCH3側から数えて3番目のCにあるのがオメガ3、6番目にあるのがオメガ6と呼ばれます
ギリシャ文字の最後の文字であるオメガを脂肪酸の端と考えてそう数えるようになったとされています。

7. リポソーム

最後に、今話題のリポソームって何?って話をしますが、ここまで読んでいただいた方なら、理解は早いと思います。
リポソームは端的に言えば脂質の粒です。
近い言い方で、Lipid droplet(脂肪滴)という近いものもあります。

じゃあ何に使ってるの?誰が発明したの?って話ですが、元々生物学用語です。「〜ソーム」というのは膜で囲まれたものを指す生物学用語で、他にも「リソソーム」「エンドソーム」「ペルオキシソーム」などなどがあります。

リポソームは脂質膜でできた囲まれたもの、ということでリポソームと呼ばれます。Lipid(脂質)からとってLiposome(リポソーム)と名前がついています。
何に使ってるの?という話ですが、美容液やビタミンを肌に届けるために使っています。実はリポソームは、#1-6.aの3.脂肪の種類で簡単に紹介した、リン脂質でできています。このリン脂質は、脂質二重層という層を作って、ヒトの肌を形成する脂質でもあります。

つまり、人の肌を構成する成分にビタミンなどを包んで届けてあげれば、肌に届きやすいよね、という原理です。


いかがでしたか?少し難しかったかもしれませんが、ここまで理解できれば一般人よりは知ってるよ、程度にはなるはずです。
知的好奇心は人間が生まれながらにして持っている最大の武器です。
これからも気軽に、かつ、しっかりと学んでいきましょう!!

ではでは!


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