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私と時代とトマトジュース

ロンドン旅ご飯記事2本目です!
前回の記事はこちら、よろしければぜひ

と言いつつ今回もまだ現地に着く前の話だ。

あれもこれも何でもかんでも美味しく楽しくいただけるのが私の強みであり良いところなのだが、唯一全体的に食べられないものがある。

それは機内食だ。連れ合いに分けてもらって何か食べてみれば味は美味しいと思うのだが、気圧のせいかうっすら酔ってるのかとにかく飛行機の上では昔から固形物をどうにも受け付けられない。そのため配膳をいただくまえに断ってしまうか、可能であればそもそも事前にキャンセルしてしまう。食事は私にとって地上の贅沢なのだ。

そのため機内ではスープをよくいただいているのだが(本当にありがたいです)、先日ロンドンに向かう機内でドリンクメニューを見ていてふとトマトジュースが気になり、お願いしてみた。前の記事で書いたのだが、直前の空港で希少な野菜源としてサンドイッチを食べていたく感動しており、その名残だったかもしれない。

受け取ったトマトジュースは美味しかった、そしてなんというか不思議な味わいであった。「ジュース」というよりも「スープ」に近いというか、塩気をとても上手に織り込んだ香り高い仕上がりになっていたのだ。オリーブオイルは入っていたのかわからないが、なんだか近しい風味を感じた。ピザソースやミネストローネの美味しさに似て、トマトの旨味を味わうには最高の一杯であった。

こんな味わいのトマトジュースを、昔も飲んだなぁと思い出した。大学に入ってすぐに行った新歓ライブの、まだライブが始まる前のざわめきの中で飲んだのである。薄暗いライブハウス、チューニングの音、私以外全員知り合いみたいな話し声、オシャレな先輩、タバコの香り、そしてしょっぱくて美味しいトマトジュース。どんなライブだったかも、そのサークルになんで入らなかったかも思い出せない。とにかくトマトジュースが妙に美味しくて魅惑的だったのだけ、覚えてる。

それまで私にとってのトマトジュースは薬局で買っていた無塩のトマトジュースの味わいそれだけなのだ。もちろん美味しいのだが、塩気のあるトマトジュースを呑んだ記憶がなかっただけに衝撃的であった。だからってその記憶だけ生きているのは笑っちゃうけど、少なくともあの瞬間は大学生活の始まりのときで、トマトジュースはそんな瞬間に立ち会ってくれたのである。

そんなことを思い出しながら、こじつけだけどこれも旅の始まりよな…とちびちびその美味しいトマトジュースを啜り、じきに眠りについた。

夜中、目が覚めた。辺りを見回すと、非常口の付近に2〜3名の人がいる。正直怖かった。1月のはじまり頃に飛行機の事故があり、その記憶はあまりにも生々しく近い場所にあった。身を守るべく、と思い恐る恐る近づき客室乗務員さんに何が起こっているのか尋ねると、帰ってきた答えはこうであった。

「是非どうぞ、窓からオーロラが見えますよ」

そう、2024年1月・2月はまだロシアの上空を通ることができなかったため飛行機は北極の上を迂回して進むのだが、その時にオーロラが見えることがあるとTwitterで見た。そんな出来事が、私にも起きるなんて。

そう思いながら窓の外を覗き込むと、半透明の馬鹿でかい暖簾が2枚、ペロン。と垂れ下がっているような景色があった。ペロン…というか、ンンンッペロォォ〜〜〜ォァン………(余韻)という感じだろうか。地球に布をかけるとしたらあのくらいの大きさになるだろうなと思うようなサイズ感の、あんまり動かない2枚の暖簾。

CAさんにお聞きすると確かにあれこそがオーロラだという。緑やピンクのあこや貝みたいな光をオーロラだと思っていただけに、シンプルさ加減に笑った。オーロラにも色々あるんだね。

しょっぱいトマトジュースにびっくりしたあの頃とは地続きのまんま生きているが、それでもいろんなことが変わった。飛行機の座席はエコノミーでもグッと快適になり、座席のスクリーンはタッチパネルになり、AirPodsのノイキャンで飛行機の轟音も疲れづらくなり、飛行機の窓からオーロラが見えた。時代が進み、私が進む。大きな流れの中のひとしずくとして、飲んだり食べたり働いたり出かけたり買ったりして、時代の中に私は紛れ込んでいる。

トマトジュースもずっと美味しいけど、多分トマトジュースはトマトジュースでまた時代のひとしずくとしていろんなマイナーチェンジを重ねながら今日という時代を迎えたのであろう。偉大なる過去を抱くロンドンの街のいまを訪ねることが、また楽しみになった。

トマトジュース、大好き。


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