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機内で飲むのはスプライトって決めてるけどこの日だけは水をガブ飲みした
ニューヨークひとり旅、最終日の話です。
前回記事はこちら、よかったらご覧ください
ニューヨーク最終日。
お金がなかった。
そもそもが今の年齢でも躊躇するくらいの華やかな旅程だった。最初はいわゆる若い頃にありがちな安宿で体力勝負! なつもりでいたが…9.11のテロの記憶が未だ生々しく思い起こされるような頃合いだったことや、女性の一人歩きも夜は怖い場所で言葉も達者でない私が何かに巻き込まれるリスクはなるべく低減したかった。
それならばせっかくなので、となるのが私の良いところであり悪いところだが、なんとAce Hotelに宿泊した。
一番安かった部屋を選んだがそれでもなかなかのお値段で、でもさすがにアクセスや雰囲気、部屋のデザイン、サービスはとても良かった。
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加えてこれもせっかくなのでシリーズで、毎日のようにミュージカルを、それもなるべく良い席で観ていた。美術館にも足を運んだ。メトロポリタンなんて順路も確認せず次から次に部屋を訪れてはめくるめくアートの渦に飲まれるみたいな体験をした。長距離列車にも乗って、おやつもご飯も食べて、その時々でビビッドで強烈な喜びの記憶を一つ一つ焼き付けるみたいな体験をした。
贅沢な、インプット三昧…!
そして、そして、ノーマネー…。
学生の貯金、学生のクレカ、脆弱っ。
最後のディナーは手持ちの現金で買えてそれなりに美味しいものということで、デリのお惣菜。アジア系のチャーハンと硬いチキンは、それはそれでちゃんとおいしくて良い感じだったことを覚えている。水を買って、翌日の帰路に備えた。
最終日の朝は、飛行機に乗る前の時間すらも惜しくてハイラインを散歩した。
鼻で息をするとフワッと冷たい空気が体の中に入ってきて、あたたまっていくのがわかるくらい。冬の朝の光の中で歩く空中庭園みたいな遊歩道は、とても気持ちが良かった。ふだんは豊かな緑だという景色は綺麗に整えられたドライフラワーの園みたいになっていた
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そして私はいよいよ、焦っていた。
空港までの交通費を除くと、もう水も買えないくらいの値段の小銭しかなかったのだ。昨夜デリで買った手持ちの水が底を尽きて、大都会の真ん中でひとり、喉が渇いていた。
そこで、腹を括った。
飛行機ではお水をもらえる。そこまで頑張って、空の上で喉を潤そう、と思った。というかそれしか道がなかったので覚悟を決めたと言う方が正しい。楽しかった旅行の、跡だ。
しかしよくよく考えたら、誰かに水をもらえる未来を確信できることの凄みたるや。ありがたい。し、人類が培ってきたおもてなしの文化よ…と普段だったら全く思わない水への想いをヴェールみたいに纏って歩いた。
最後に撮った写真は空港のファンデーションだった。
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多様性、とかじゃなくて存在、だった。
生きて暮らす人々の、それぞれの美しさや物語。
私はこんなふうに心が動くたび、あぁ、全然見えてなかったな、知らなかったんだなとあらゆるものに気付かされた旅だった。
クリスマスはきっとお店も閉まるだろう、とクリスマスイブの前日にニューヨークを発った。
喉がガラガラなのに飛行機は雪で遅延。いよいよ厳しかったがなんとか搭乗した、あれほど水平飛行を心待ちにしたことは後にも先にもなかった。
お水をもらって、それも二杯もらって、一口飲んだ時のあの喜び。生きてる。からだが、こころが、生き延びようと水を欲している。そんなお水を分けてくれる場所がある。ありがたいな…と機内で背中を丸めて水を味わった。
長らく乗り物酔いに弱くて、実は今も機内食は苦手だったりするくらい。私が飛行機に乗る時はスプライトが何故かどんな便にもあって、乗ってる間中それを飲んでいるのが常だったけど、この時ばかりはずっと、水を味わって飲んでいた。
色んなものを食べて、最後にしみじみ感動したのが一杯の水だったなんてちょっと笑っちゃうんだけど、きっとそれすらもあの旅からのメッセージだったんだと思う。
後にも先にもない「今」を生きて、人に会って、色んなものを見て聞いて触って、よく食べて、たくさん歩いて。時々誰かを頼って、時々誰かを助けて。そうやって、さも当たり前みたいな顔をして人生は続くけど、ひとつひとつに意味がある。
プラスチックのコップの水に揺らめく読書灯の光は、あたたかい色だった。
お水、大好き。
って言うとなんだか最終回みたいだけど、これからも『たべもののはなし』は続きます。
旅の思い出にお付き合いくださり、ありがとうございました。またいつか、行きたいな。
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