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サウナをもっと暮らしの側に |-非日常のサウナ体験よりも日常の中のサウナ利用-

サウナ発祥の地・フィンランドでは、サウナが生活の中に浸透しており、一家に一台サウナがあるほど身近な存在です。

サウナには「健康に良い」とフィンランドでは古来より認識されており、心身ともにサウナによってコンディションを調整するだけでなく、交流の場としてコミュニケーションの中心部にも「サウナ」が置かれています。

日本における「お風呂」と同じく「入浴すること」が当たり前であり、毎日「入浴すること」に対して疑問も違和感も抱かないほど生活に溶け込んでいるカルチャーです。

フィンランドではサウナの歴史は2000年もあり、長い年月の中で浸透していますが、日本においてサウナの歴史は60年程しか無く、近年におけるサウナカルチャーの盛り上がりも2021年時点で3年ほどと比較的最近の出来事になります。

つまり、サウナは現時点では生活に浸透したカルチャーではなく、ブームメントである可能性が高いもので、身近な存在とはまだまだ言えないものであると言えます。

「ととのう」という言葉の流行で爆発的に広まったサウナカルチャーですが、ただのブームメントで終わらさないためには「ととのうためにサウナへ入る」の先にある「生活の一部にサウナがある」状態へとシフトする必要があります。

サウナは「体験」を重視するようにシフトしている

昨今のサウナカルチャーにおいては「サウナ」の効果に加えて「特別感」「非日常さ」を売りにした特殊なサウナ体験に比率をおいたプロジェクトが多く見られ、ブーム黎明期にあった「サウナの価値観を変える」ための運動も、「サウナによって価値が変わった人を対象とした新しい価値の提供」へとシフトチェンジをしている風潮にあります。


「サウナ×プライベート」

2020年11月にオープンしたソロサウナ tuneはサウナにおける「貸切状態」に価値を見出し、一人で自由に好きなようにサウナに入れるという「体験」をセールスポイントとした施設です。

ターゲットは「サウナに慣れ親しんだ人」であることは言うまでもありません。


「サウナ×アート」

チームラボTikTokによるアートとサウナによる新しい体験を提供するコラボ企画もまた、サウナというブームメントの中で新しい刺激を求める人を対象としてコラボで、今までのサウナ室では決して経験できない刺激を得られる心感覚サウナです。

2021年3月 - 8月までの期間に六本木で開催され、サウナによる脳が研ぎ澄まされる「ととのう」感覚にスペクタルな視覚表現による幻想的で非現実な空間でのサウナは今までにない刺激を与えてくれることでしょう。


「サウナ×リラックス×音楽」

渋谷・東の老舗銭湯「改良湯」でもリラックスをテーマにした期間限定イベント「Neo Chillサウナ体験」が開催されました。(2021年1月26日〜2月9日まで)

これは「チル」な音楽を配信するサブミッションチャンネル「Tone by Gridge」の運営などを手掛けるグリッジ、日本コカ・コーラとI-neが共同出資し展開するリラクゼーションドリンク「CHILL OUT」とのトリプルコラボレーション企画で、「Tone by Gridge」がセレクトする音楽を同店のサウナで流し、サウナ利用者には「CHILL OUT」1缶をプレゼントをしてくれます。

寝落ちるサウナ体験をテーマにした新しいサウナ体験になります。


「サウナ×茶道」

茶室」をテーマにした伊勢茶を使った伊勢茶セルフロウリュを体験が2021年1月23日より四日市温泉 おふろcafe 湯守座にてオープンしました。

四日市市の指定無形文化財である萬古焼の手水鉢を設置し、郷土芸能や伝統文化とのコラボにより、今までのサウナにはない「日本」を感じるとともに、視覚だけでなく触覚や嗅覚にも刺激を与える新しい体験を行うことができます。



サウナは「体験」を重視するようになり、新しい価値との組み合わせによるコラボ企画や、上記では紹介し切れていないが「北欧式」のサウナ体験を売りにした企画が次々と生まれています。

カルチャーの発展の中で「サウナ体験」を売りにし、観光や地域創生などに「サウナ」を絡めることで人を呼び、非現実的なサウナ体験をしてもらうことはサウナを広めるという意味では良いことです。

サウナ=価値のある体験」となれば、サウナへ足を運ぶ人も増加することでしょう。しかし、この「体験」には限度があります。

「体験」を売りにすると「刺激」に対する耐性がどんどん上がっていき、サウナのコアにある効能が霞んでいき、ブームの終了とともにサウナ浴をやめてしまうことも考えられます。

現にブームメントとは提供する側の飽和状態により、得られる刺激が薄まり「飽きること」によって終焉していきます。

サウナも「体験」を売りにし続けているとブームとして終了する時がくる可能性があります。


「非日常」ではなく「日常の一部」に浸透させる取り組みも大切

「体験」の需要があるうちはサウナ体験を追求し、様々な遊び方ができるように幅を広げていくことは重要なことです。なぜなら、奥深さがあればあるほどカルチャーの深度は深くなり、定着した人が「極める」ことで離れるリスクを減らすことができるからです。

ただし、「非日常」を売りにした「体験」は注意が必要です。

非日常さに慣れ親しみ、非日常さを味わうために「サウナへ通う」となると「非日常が日常になる時」にサウナ離れを引き起こす可能性があるからです。

サウナに入ることは「非日常」ではなく「日常」として習慣化されるような取り組みも「体験」と同じように進めていかなければ、やがてブームの衰退とともにカルチャーそのものが斜陽化し、崩れてしまう可能性があります。

その衝撃に耐えるには今提供している様々な「サウナ体験」を「日常レベル」まで落とし込むか、「サウナ体験」と「サウナ利用」の2軸のうち「利用」に特化した発信を行い、土台のレベルを強固にすることが重要です。

「観光地でサウナ体験」という企画をよく見かけますが、仮にブームが過ぎ去り、サウナ体験には飽きた人が溢れかえったら施設は大赤字です。

しかし、「サウナを利用すること」がブームを離れた人に対しても「当たり前のこと」として浸透していれば、「サウナ目当て」で人が来ることはなくとも、観光地に寄った際に「サウナがあるから利用しよう」という風に副次的に効果を発揮します。

つまり、「体験」重視に加えて「利用すること」をいかに日常の中に落とし込むかが重要となり、日常の中のサウナ利用という「サウナがあれば入浴をする」という状態を増やせば増やすほど、サウナカルチャーはブームによって衰退するものから脱却できると考えます。


サウナ利用を浸透させるサウナ体験

利用することを定着させるには「サウナ」を自分ゴト化することが良いでしょう。

サウナにはいることで「身体に得られたメリット」という体験を提供することが重要で、サウナによって自分の生活がプラス方向に動くという体験をすることで「自分ゴト」となり、サウナが生活の中に溶け込んでいきます。

昨今のサウナブームが起き始めた2016年あたりでは「利用」によって得られた効能に関する発信が多く、多くのサウナ未経験者たちを突き動かしました。

「サウナ効果」によってサウナへとハマり、サウナに通い続けている人はおそらくブーム衰退後もサウナへは入り続けると思われます。

なぜなら、ブームとは関係なしに「サウナで得られるメリット」を自身で体験しており、経験則としてサウナに入ることの効果を知っているからです。

しかし、「ととのう」という言葉からサウナによる「トリップ体験」や「サウナ体験という非日常性」などでサウナにハマっている人はもしかするとブームの衰退とともにサウナから離れるかもしれません。

少なくとも「サウナ体験」を売りにした施設には足を運ばなくなるでしょう。

「体験」が提供するのは「非日常」で非日常も慣れれば「日常」です。

また、現代社会は「消費」に関するサイクルが早く、サウナ問わずクリエイティブな事柄は新作として発表した直後に消化されて次へ次へと意識が移動します。

「追求」や「探究」が起こるのは稀で「表面上の刺激」が人間を突き動かす原動力です。

製品ライフサイクルが加速する現代において、「体験」の消費は進んでいき、ブームに参入する人が増えれば増えるほど体験の持つ希少性は薄れていき、大衆化した「体験」から離脱する人が増えていきます。

これはあらゆるカルチャーに言えることで、ブームメントが起こることで全体の母数が増え、特別感が薄れていく現象は避けては通れません。

バブルが弾けた後にカルチャーを守ためには「ブーム」では変えることができない個人の体験が重要になってくるのです。

個人にとってサウナの利用は「非日常な体験」だけではなく「日常の中にあるもの」として価値観が向くことでやがて訪れるブームの衰退後に備えることができます。

そのため「体験」として提供するのであれば「日常」に近い効能も同時に行うことが重要となります。


まとめ:「非日常性」だけではカルチャーは成り立たない

サウナは日常生活の中に溶け込むこともできれば、非日常さを演出するエンターテイメントとしての一面もあり、高い汎用性の広さがあります。

健康や美容と言った自身の体に現れる効能だけでなく、瞑想やトリップによる娯楽体験、感性が鋭くなることによる芸術体験、様々な要素と組みわせることができる非日常性など多くの顔を持つカルチャーで、北欧では生活の一部として浸透した部分もあれば、非日常性の代名詞としても扱われ、幅広い領域に「サウナ」があります。

日本におけるサウナカルチャーを独自に発展させるには「日本ならではのサウナの浸透」が必要不可欠で、そのためにはサウナに入ることが日常生活の中に溶け込んでもらう必要があります。

「体験」を売りにサウナ体験の神秘性に惹かれている人たちが「サウナの持つ日常性」にも価値を見いだせるように楽しみ方やサウナの一面、考え方、入力方法、サウナ効果などを様々な角度から発信する必要があります。

そう言った意味で、サウナ専門誌の発刊のような運動は日常の中に浸透させる発信媒体として有効かもしれません。


体験だけでなく、サウナの利用に対しても発信を続けていくことで土台を築き、サウナブーム自体が終焉してもサウナカルチャーは残り続け、発展していけるようにすることが2021年以降の課題になると、私は思っています。


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