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『写真で描写』シリーズ

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撮った写真から思いついた小説っぽい一節。想像できるような、できないような。いつかこの続きを書く。#写真で描写
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#物書き

山の途中

山の途中

 暇つぶしに故郷の田舎を散策していたら、いつの間にか山道に入ってしまった。
 舗装されていた道路もすっかり土と葉だけになって、なんなら木の根でできた段差で息が切れ始めている。

 しばらくして、景色が開けた。
 眺めがいいとは言えない。見渡せるわけでもない。ただの山の途中。
 こんなところなんかあったのか。いや、あってどうなるわけでもないか。まるで意味のないことをつぶやく。風が木を揺らす音と、鳥の

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透明

透明

 寒いね、と笑う。
 寒い寒いって、ふたりで言いあって。

 それは寒いのがおかしいんじゃなくて。
 冷たい空気はどうでもよくて。

 きみとの時間を感じたんだよ。

休まる場所

休まる場所

 旅行が好き。

 行ったことのない場所。はじめての景色。遠くでも近くでも、暮らしから抜け出して日常を切りはなすことができる。
 おいしいものを食べて、お風呂にも入って、いつもより少しお金も使って、それまでのあれやこれやだっていったん置いておく。

 それでもさ。あれだけ楽しかったのに。あんなに帰りたくないと思ったのに。
 なんだかんだ言っても、家の布団が一番安らぐんだよな。

 明日からのいつも

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見つける

見つける

 流れる川のところで見つけたとり。

「あ、いた」なんて思ってできるだけ近づいて、カメラなんか構えちゃったりもして。だけど動くから全然うまく撮れなくてもたもたする。

 そんなことをしていると、ひんやりした風を感じて、いつの間にか川の音に心を奪われている。

 これからの予定も「まぁいいか」とほったらかしにして、しばらくの時間をここで過ごしてしまうんだ。
 何かとせかせかするから、どこかでひと息つ

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雲の切れ間に

雲の切れ間に

 やまない雨はないけれど、今降る雨がわたしにとって大事な。
 そんなふうに言ったって、雨が好きになるわけでもない。

 何もすることがなく、ただ机に突っ伏している。言葉にならない考えごとを頭の中でぐるぐるまわしながら、はやく今のこの時間が過ぎてくれればなぁなんて思うだけ思う。
 一秒一秒進むだけでなんだか疲れる。楽しいこと一つでも降ってきたらいいのになぁ。

 この空はいつまでも、この空の下を濡ら

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写真で描写『通りすぎる』

写真で描写『通りすぎる』

 つい先日まで夏服を着ていた気がする。
 なんだか寒くなってきたな、と思っていたら、いつの間にかコートを着て町を歩くようになっている。

 そうやってあっけなく季節が過ぎていくんだよな。わたしは気づけずに、置いていかれる。
 毎日毎日、一日一日を過ごす。一生懸命になって、時々立ち止まって、そんなのを繰り返す。気を抜くと秋の風に吹かれて枯れてしまう。

 いつもそう。
 わたしは秋が過ぎるのに気づか

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写真で描写『隣の景色』

写真で描写『隣の景色』

 自転車の帰り道。

「先に行ってよ」って言われるから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。

 道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。

 君と横に並ぶのに必要なのは、道の幅か。それとも勇気か。

 景色はまだ、遠くて広い。

――――

 ちょこっと加筆して、もう少し小説っぽくしたやつ

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写真で描写『二人の物語』

写真で描写『二人の物語』

 コンビニでアイスコーヒーを買って、浜辺で海を見ながら過ごすのがわたしたちの定番になっていた。石段に並んで座って、なんでもないことばかり話す。コーヒーを飲み終えても、氷が溶け切っても、日が暮れるまでおしゃべりをした。ずっと座っていたせいで体がカチカチに痛くなって、二人して笑った。
 日が暮れると手をつないで家に帰る。暗くなった道で、誰もいないからとキスをした。ご飯を一緒につくって、お酒を飲みながら

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