マガジンのカバー画像

ふしぎな隣人たち

24
短編小説、児童文学つめあわせ
運営しているクリエイター

記事一覧

12人のイカレたおばけたち 7・8(終)

12人のイカレたおばけたち 7・8(終)

第七場  最終評決

化猫  決を採る。被告は有罪だと思う者。

  誰も手を挙げない。

化猫  被告は無罪だと思う者。

  サンタ以外手を挙げる。

サンタ 河童さん、あんたも無罪だと思っとるのか?

河童  物的証拠が無罪の証明になっちまったからな。

化猫  (サンタに)さっき無罪に手を挙げていたじゃないか。何か迷うことがあるのか。

  サンタ、人間をじっと見る。

サンタ わしは有罪

もっとみる
12人のイカレたおばけたち 5・6

12人のイカレたおばけたち 5・6

第五場  矛盾証言

雪男  だが、被告が妖精を殺す言葉を言ったのを聞いた証人がいるんだぞ。

河童  ぶ、ぶら、ぶらなんとかの証言は無視できないぞ!

人間  ぼくはあの証言も怪しいと思います。

河童  なんだと! (人間につかみかかろうとする)

かど  かどとりっ!

  かどとり、河童に向かって力をこめる。河童、へにゃへにゃと椅子に座り込む。

かど  かどとった!

小豆  えらいわ、

もっとみる
12人のイカレたおばけたち 3・4

12人のイカレたおばけたち 3・4

第三場  再度挙手

化猫  挙手を取る。被告は有罪だと思う者!

  人間以外が挙手をする。

河童  (人間に)この期に及んで……。

人間  被告は子どもだし、罰も重いし、あなたたちも消えるなんて……いけないでしょ。ダメでしょ。

サンタ 子どもはかわいそうかもしれないのう。

魔女  妖精を殺したことに変わりはないわ。

人間  あなたたちは人間に失望して消滅しようとしてるのに、一人の妖精

もっとみる
12人のイカレたおばけたち 1・2

12人のイカレたおばけたち 1・2

第一場  陪審開始

  舞台には『12人のイカレたおばけたち』のタイトル。陪審員が席についている。

化猫  さて、今回は陪審員1号であり、化け猫の王、我輩ケットシーが陪審員長を務めさせていただこう。

  一同、拍手。

化猫  この残虐かつ無慈悲極まりない事件について、おばけ界から選ばれた我々が陪審員として、想像力の正義の名の下に被告が有罪であるか無罪であるか決定する評議に入ろう。

魔女 

もっとみる
12人のイカレたおばけたち 序

12人のイカレたおばけたち 序

※創作戯曲です。

登場人物  

人間    陪審員8号。本名・佐々木太郎。童話作家。召喚状を受け取り、普通の裁判だと思って裁判所へ行くが、おばけの裁判所だった。

ケットシー 陪審員1号。化猫。化け猫たちの王であり、尊大な性格。仕切り屋。

狼男    陪審員2号。満月の夜に狼に変身する。他の日は人間同様なので人間に親近感を持つ。

サンタ   陪審員3号。サンタクロース。メタボが気になる。子

もっとみる
りゅうの空わたり

りゅうの空わたり

① とおい、とおい 山のむこうのおはなしです。

山のふもとの村で ふゆごもりの おまつりが はじまりました。

ゆきがたくさんふる この村は ふゆになると、 みんな はるまで いえにこもるのです。

ふゆごもりの おまつりのよるは ちょうちんに あたたかな光が ぽっぽっと ともって、 ごちそうも たくさんあります。

村人も にこにこしながら あいさつを かわします。

「うさぎは もう なきま

もっとみる
黄昏商店街の秘密

黄昏商店街の秘密

 草木も眠る丑三つ時とはよく言ったものだ、とケンゾウは一人ほくそ笑んだ。街灯の明かりも消えた黄昏商店街には、ただでさえ痩せているケンゾウの細く伸びる影と、裏道を走り去るネズミ以外に動くものはない。アスファルトに張り付くその影も月に雲がかかっているせいか、ぼんやりとしか見えない。

 こういう夜は絶好の泥棒日和だ。

(それにしても不用心な商店街だぜ)

 ケンゾウはここ数日の調査で分かったことを思

もっとみる
ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~最終話 黒い犬とディスコを

ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~最終話 黒い犬とディスコを

5・黒い犬とディスコを

 さて、そこからの一週間はみんな大忙しでした。ドンちゃんは新しい住人のことを記事に書き、ワラシとキヌタは「頼まれごと」の練習に熱を入れていました。ロシーさんはというと、大好きな畑いじりもロクにできないくらい、てんてこ舞いです。

 どうにかこうにか準備がととのい、お祭りの日がやってきました。

 広場にはがっしりとしたやぐらが組まれ、そこから近くの街灯や屋根に向かってイル

もっとみる
ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第四話 たましいたちがいるところ

ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第四話 たましいたちがいるところ

4・たましいたちがいるところ

 さて、ドンちゃんとはじめとした一行は、ちかちかまたたく星空の下を進んで、《思い出の入り江》までやってきました。白い岩崖にできた、ぽかりと広い隙間に、青い青い海が寄せて返して波になっています。銀色の月明りが波を照らして、白い泡がきらりきらりと光ります。

 べたつくような、生ぬるい潮風にキヌタが鼻をひくひくさせました。塩辛くて、少し生臭いような、海のにおいです。

もっとみる
ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第三話 引きこもりの人魚姫

ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第三話 引きこもりの人魚姫

3・引きこもりの人魚姫

「さて、町に住むとなると、住民登録をしてもらわなければいけませんね」

 まだまだにぎやかなメインストリートを進みながら、ロシーさんが言いました。キョロキョロとあたりを見回すキヌタが迷子にならないように、その手をつないだワラシが首をひねります。

「じゅうみんとうろく?」

「そう。ワラシさんだって、町に初めてやってきたとき、書類を書いたでしょう。そうして初めてこの町の住

もっとみる
ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第二話 同じ墓穴のむじな

ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~第二話 同じ墓穴のむじな

 2・同じ墓穴のむじな

 ひっく、ひっくとしゃくりあげながら、ワラシが語ったのは次のような話でした。

 ワラシは外の世界にひょっこり出て行って、人間の子どもたちと遊ぶのが大好きです。その子たちが知り合いじゃなくても大丈夫。ワラシはいつの間にか遊びに加わって、いつの間にか帰っているのです。だから子どもたちが遊び終わって、ふと人数を数えると、全員いるはずなのに、遊びの最中より誰かがひとり減っている

もっとみる
ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~1話 墓場の下で朝食を

ブラック・ドッグ・タウンへようこそ!~1話 墓場の下で朝食を

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 皆さんは、ブラック・ドッグを知っていますか?

 イギリスの伝承で、「古い道や十字路に現れる黒い犬を見たら、不吉なことが起こる」というお話。

 不吉。そう、たしかに不吉。

 でもブラック・ドッグの中には、ちょっとはいいやつだっているんですよ。

 特に墓場にいるやつなんかは、迷子を案内するくらい、いいやつです。

 名前を呼べば、ブラック・ドッグは世界中の墓場に現れ

もっとみる
黒猫のはなし

黒猫のはなし

 えっへっへ、あっしのような者でもおはなしさせてもらえるなんて、本当に王様はお困り……いえいえ、お心が広いお方ですねえ。ほら、よく言うでしょう。「黒猫は死を招く」って。えっへ、冗談がすぎますかい?

 それにしても『面白いおはなしを集めるべし』なんてお触れ、後にも先にもないでしょうよ。まあ、あっしはあっしのおはなしが気にいっていただけたらそれでいいんですがね。

 ああ、はい。あっしのおはなしです

もっとみる
星をのんだと彼は言った

星をのんだと彼は言った

 星をのんだと彼は言った。それはもうすぐ町中がイルミネーションで彩られる頃、冷たい風が吹く晩のことだった。

「正式採用、おめでとう!」

 アルコールで頬を赤くした彼が笑った。その台詞は、今夜で何度目になるのだろう。私は照れ臭いやら、呆れるやらで、やっぱり火照っている自分の頬に手を当てた。

「研修が長かったもんね。これからはもっと忙しくなるから、しょっちゅうデートはできないわよ」

 私がそう

もっとみる