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りゅうの空わたり


① とおい、とおい 山のむこうのおはなしです。

山のふもとの村で ふゆごもりの おまつりが はじまりました。

ゆきがたくさんふる この村は ふゆになると、 みんな はるまで いえにこもるのです。

ふゆごもりの おまつりのよるは ちょうちんに あたたかな光が ぽっぽっと ともって、 ごちそうも たくさんあります。

村人も にこにこしながら あいさつを かわします。

「うさぎは もう なきましたか」

「まだですよ まだですよ」

② ふゆごもりの おまつりは きたの山に くもがかかった日の よるに ひらかれます。

なぜかというと きたの山に くもがかかると、 山にすんでいる りゅうが 空をわたるという むかしばなしが あるのです。

りゅうの空わたりは ゆきぐもをよぶので、 ゆきがふるまえに ふゆごもりの おまつりを するのです。

もっとも、 村人のだれもが もう何年も りゅうの空わたりを 見ていませんでした。

③  おまつりの ごちそうが ならんだころ、 村のはずれの やぐらの上で うさぎのかかりの 少年が ぼんやりと 空を見上げていました。

うさぎのかかりの しごとは 月がしずむまで りゅうが とんでいないか 空を見はることでした。 りゅうの空わたりを さいしょに見たのは うさぎだった、と いいつたえられているのです。

「どうせ りゅうなんて こないよ」

うさぎのかかりの 少年は 大きなあくびをしました。

そのとき……。

④  きたの山の くもの中で 何かが キラッと 光ったきがして うさぎのかかりの 少年は 目をこらしました。

それは からだを くねらせながら ゆっくりと こちらへ むかってきます。

「りゅうだ!」

うさぎのかかりの 少年は、 月がしずむか、 りゅうを見つけたら ならしなさい、と いわれていた ドラを じゃあんじゃあん、と ならしました。

ドラの音をきいた 村人は いっせいに 空を見上げました。

⑤  ふゆごもりの おまつりをする村に つめたいかぜが びょうびょう ふきました。 そのかぜと いっしょに りゅうが 村の上を とおっていきました。

 ほしのかけらのような ぎんいろのうろこに、 もえさかる火のような あかいたてがみの うつくしい りゅうでした。

 村人は みんなだまって りゅうを見つめました。

 りゅうは くるりと 空に わをえがいて、 みなみの山のむこうへ とんでいきました。

⑥ 「いやはや。 ことしは うさぎがりゅうを 見つけましたな」

「十一年ぶりですかな。 いい ふゆごもりの おまつりだ」

 村人は みんないいきぶんで ごちそうを たべました。 うさぎのかかりの 少年は ドラをせおって とくいそうです。

 ぜんぶきれいに たべおわって、 月もすっかりしずんでしまうと、 みんな ちょうちんを ひとつずつもって いえにかえりました。

「よい はるを」

「よい はるを」

 すっかり くらくなった 空から、 白いゆきが ひらりと おちました。

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