リスクの種類と大きさの見極め方について ~3話~
もう既に1話や2話を読まれた方は、3話からお読みください🍀
~1話~
「ごめんなさい。」
「今日待ち合わせに遅れたのは、電車に乗り遅れたからってさっきは言ったけど。本当は、本当は、違うの。」
「会社に行ってたの。どうしてもやりたい仕事があって・・・・。」
「ごめんなさい。」
「何でそんな言い方をするだよ。いまいち キミの言っている意味がわからないなぁ~。」
「何で謝るんだよ?」
「俺も男だけどさ、キミの仕事に嫉妬する程、めめしくないぜ。」
今日のデートの終盤に差し掛かったふたり。
ユウは不思議な顔をして、エミの顔を覗き込んだ。
二人が付き合始めてから、3年程経っている。一緒に食事をしたり、映画を見たり、長い休みを取れる時は旅行に行ったり。世間一般的なカップル。
大きな喧嘩をすることもなく、波風の優しい穏やかな海の様。
歩く時は、左がエミで右がユウ。
手をつなぐお互いの手は、いつも同じ方の手というわけだ。
今夜も、お互いに伝える手の温もりは、いつもと変わらない。
「どうする?明日は?何しようか?どこか行きたいところある?」
「ユウの洋服でも見ない?似合う洋服を私が選んであげるから💛」
「ありがとう。」
「じゃあ、旨そうなスパゲッティとピザの店を見つけたから、その後、そこで飯を食おうよ。お互いに旨いもの食べて、月曜日からの仕事頑張ろう💛」
「うん。わかった。」
お互い手を振り、お休みの軽いキス。
明日の待ち合わせまで、暫くお別れ。
お互いの家へと帰っていった。
それが、いつもの別れ際のルーティーンだった。
そして、お互い寝る前にラインで「お・や・す・み」。
~2話~
ユウとエミとでは
どちらの方が待ち合わせ場所に先に到着するケースが多いの??
知り合った頃は半々ぐらいだった。
2年目になると、
ユウが先に待ち合わせ場所に到着してエミを待っている・・・
その確率の方が微妙に高くなった様な。
しかし、今日は違っていた。
ユウが待ち合わせ場所に来てみると既にエミが立っていた。
「おはよう💛」
「おう♬。待った?ごめんね。」
「いいえ。」
「だって昨日 私 大遅刻したからさ。」
「今日は意識してスタートを早くしたの。」
そう言うと、エミは かなり強く
ユウのひじを引っ張りたくなった。
そして ふたりは、手つなぎルーティーンに入り、メンズ・レディス共に人気の有名ブランド店へと 足を運んだ。
駅前の待ち合わせ場所から4,5分歩くと目的の店に着く。
ふたりは ビル2階にあるその店に入る為に、
細い階段を手をつないだまま登っていく。
店内に入ってみると、
まだ昼前ということもあり、お客様は疎ら。
店員の方が目立っているフロアー。
「今日は、メンズから見ようよ♬ ねっ。」
そう言うと、エミがユウを先導していく。
ユウはその力に心も体も預けることにした。
あんなに昨日待たされたけど、怒らなくて良かった・・
ユウは心の中でそう思った。
白い麻のシャツをユウが持つかごにエミが入れた時、
突然、エミがユウを引っ張る力が、急激に弱まった。
更に、その力が弱まっただけではなく、無くなってしまったのである。
手を離したふたりの間は、最初は痩せた女性ならひとり入れるぐらいの距離ができていたが、徐々に徐々に広がっていく。
チラリ?!とユウがエミの方に視線を移すと、痩せた女性なら3人は入れる距離にいつの間にか遠ざかっていた。
お互い別々のシャツを手にしては眺めている後ろ姿を、前後でちらちら確認している店員達。
「ごめんなさい。私もう一緒に居られない!」
そう言うと、エミは、店の外を目指し駆け出し始める。
一体何が起きたのか? ユウは全く状況が理解できない。
ユウは手にしていたシャツも、かごに入れたシャツも放り出す。
2Fから1Fへ下る細い階段めがけて、
女と男が別々に ツッコミ猛ダッシュ。
「おい!どうしたんだよ!」
「ちょっと待てよ!エミ!」
ユウの叫び声に店員達の視線が一か所に集まった。
これが、これから訪れる「リスクの種類と大きさ」への
長く深い旅のはじまり
その 瞬間だった・・・
人間は強い生物なのか それとも弱い生物なのか
耐えうるリスクの種類と大きさで、その人の強さを計ることができるのか
その答えはひとりでだすのか それとも・・・
~3話~
気分が落ち込んでいる時でも、無理やり前向きになれるお気に入りの場所。そこは、音楽の流れ星が止めどなく落ちてくる場所。最高の夜空の下で、キラキラ楽しめる、とてつもなく天井の高い店。社会人2年目に入ったぐらいの頃から、週末の夜はだいたいこの店に、ユウは、顔を出すようになっていた。
上司から突然言い渡された仕事に残業という代償を払い、忙殺されたこの一週間の最後夜に選んだのは、やっぱり、この店だった。
大学の幼馴染でこの店で働いているサクチンが、今夜も声をかけてきた。
「 よぅ! ユウチャン! なに? その恰好は? どうしたの? 」
「あっ、これ?!。」
「サクチンに言ってなかったっけ。今さぁ、俺、営業なんだよね。」
ユウのネクタイとスーツ姿に素直に反応するサクチン。
「営業マンの割には元気ないじゃん。最近暗いよ~。」
「どうしたの?どうしたの?ユウチャン👍」
いつも通りの愛嬌で溢れるサクチン。
大学生の頃よりも、明るくなったなぁ~。
将来は自分の店を持ちたいという夢に向かって、着々と経験もお金も人脈も積み上げているサクチンを見て、今日はいつも以上に羨ましく思えた。
「今日は、可愛い子、来てない?」苦し紛れの質問を投げ返してみた。
「こんなエアーの中で、真剣に付き合う彼女は探さなよい方がいいぜ。」
「いいから、今宵を楽しめよ。」
「そうそう! いつものメンバーが、もう奥に来てるよ。ホラッ!」
そう言って、サクチンが指さす先には、既に今日のメンバーが肩を寄せ合い、会話をしている。今夜は、この店で知り合った親友イケの紹介による、女の子3人と飲み会。ユウの登場で、今夜のメンバーが揃ったわけだ。
お互いの顔だけではなく、心の揺れ動きを共有するには、丸いテーブルは最適なツールだ。更に、高い天井から僕達6人を眺めたら、もっとそれぞれの今の気持ちは分かり易いだろう。ユウはそう思った。
2杯目のビールに口を付けた時、ユウは、見た目ではわかりづらいけれど、明らかに異質な独りの女の子に、気持ちが向いていた。
ショートヘア。他の女の子2人に比べて少ない口数。
今まで仲良くなった女の子とは、全く別の世界で生きている女の子・・・・それが、ユウのエミに対する第一印象だった。
神田駅前の喫茶店でバイト。それは、大学に行くにも、家に帰るにも、友達と遊ぶにも、全てにおいてベストな場所だったので、エミはこのバイトを続けることができている。自分でもこの選択は正しかったと自己評価。
この喫茶店の客層は、時間帯によって異なる傾向値を示す。全時間を通して、会社員が多いのは確かだけれど、あたりが暗くなってくると闇金融の怖い人達が入りびたり始める。けれども、バイト員や店長に絡んでくる嫌な客は全時間帯を通してゼロだった。
昼には、ランチを食べるOLさんの比率が一挙に高くなる。この喫茶店のナポリタンはグルメサイトでも高評価で、神田界隈ではそれなりに有名だった。
「ねぇ、エミちゃん。今週の金曜日の夜は空いてない?」
「なんでですか?」
「男の子と飲み会なんだけど、ひとり足りなくてさ。」
「エミちゃん、お願い💛」
「みんなちゃんとした企業の会社員だからさ。」
「最近、お誘い多くないですか?」
「大学生は暇だって決めつけてるでしょう!」
「お願~い💛今度は大丈夫だから。」
「前回の様なことにはならないから。イヤだった先帰っていいからさ。」
「わ・か・り・ま・し・た。」
自分達より年上の人達に会う方が年下よりも楽しい。自分もいつか社会人になる訳だし、夢を忘れた訳じゃない。
まして、家にはあまり居たくない。最悪でも時間つぶしにはなるだろう。その程度の気持ちで、教えてもらった店に向かうエミだった。
社会人っぽくツンツンしているけど、どこかとても優しそうな人。それが、エミのユウに対する第一印象だった。
「ユウさんの▲▲▲の終わりって何時(いつ)なの?」
「はぁ~っ?!」
「よく聞こえなかったよ。いま、なんていったの??」
「うう~ん。何でもない。」
「ねぇ、明日、遊園地行きたいの。一緒に行かない?!」
さっきの質問が正確に聞き取れなかったのは本当なのか?
それとも、周りの騒がしさのせいにして、聞こえないふりをしたのか?
もしも、あの時、質問がちゃんと聞こえていたのなら、、、
もしも、質問に、ちゃんと答えてくれていたのなら、、、、
最後まで読んで頂き、有難うございました。
3話はここまでです。
宜しければ、またお目にかかりましょう。
世の中の人の役に立ちたい。人生を勇気付けてあげたい。会社の成長を応援したい。その為の「癒し活動費」に充当させて頂ければと思っております。厚く御礼申し上げます。