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ぼくのポエム

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自分で書いた詩をまとめました。 過去作も含みます。 最後の方にその詩を書いた経緯なども載っています
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記事一覧

【詩】 水曜日

徹夜明けの水曜日
僕は聞いたことのない音楽の解説動画を観ている

楽器がどうとか
コードがどうとか
転調がなんだとか

文字で
言葉で
合成音声で
語っている

僕はその曲を聴いたことがないし
これから聴く予定もないけれど
いつか偶然出会ったときに
合点がいくのだろうか

どうなるかは分からないし
僕は音楽について明るくないけれど
いつか誰かが僕の詩を
メロディにしてくれたら素敵だなと
そう思った

【詩】 今、良い詩を書いている

今、良い詩を書いている
良い詩を書いているのに、嫌な通知が飛んできた。

思考を横取りされて
不完全のまま沈み込む

今はとっておきの詩よりも
謝罪の文面を考える必要がある

『も』と打ったら
『申し訳ございません』が最初に出てくる
『蒙昧』は出てこない

僕の言葉はどちらだろう
僕の心はどちらだろう

『申し訳ない』と思う気持ちは本当だが
定型文じみた謝罪は「口先だけのでまかせ」らしい
ならばい

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【詩】 仕分ける

昼過ぎに電車に乗って
スーツを着ていない社会人と非社会人を勝手に仕分ける

鞄を右肩に食い込ませ
左半身を庇っているあの男性は前者

沢山の色を取り寄せて
複雑に編み込まれた服を着たあの女性は後者

前かがみで
ゆったり頁をめくっている初老は前者で
必死に液晶画面をなぞっている少年は後者

車内の振動に抗わずに壁に身体をぶつけ
自分を罰する術を探している彼は前者

彼の直ぐ側に腰掛けて
顰め面で彼

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【詩】 Keepメモ

死に急ぐように
喫煙所へ向かう

僕の仕事デスク
同僚との会話
2万円ほど入った財布
自宅の鍵
読みかけの文庫本
買ったばかりの天然水600ml
スマホの充電器
終わらない仕事

それらは10階にあるけれど
喫煙所は9階が上等
タバコとライターだけ
僕に従う

1日には
人知れず落ち込む瞬間が必要で
そのためには
決まった場所が1つあればいい
僕の足元は気まぐれに
まだ開けたことのないドアを探して

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【詩】 鈴虫と金木犀

眠れぬ夜は
今日
ではなく昨日の僕を
布団の中で追いかける

過去は
僕ではない人の言葉で語られる
屈折した光の向こう
拾い損ねたものを探す

景色は浅いまま
自室と社会を行き来する
答え合わせをするように
白と黒を繋ぐ

新鮮な空気の端と端に絡まった口唇に
なにか暴力的なものを感じて
頭を掻きむしった。
窓を抜けると鈴虫が
影を何重にも重ねたような暗がりを引き連れて
夜を下ってゆくところであった

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【詩】 自動思考

あの日あの時
こうしてたらって
タチの悪い呪いだよな

標識の文字が錆を着てるから
試すようにしか歩けない

こんな歩幅で飛べるわけない
水たまりを躊躇なく踏みぬくことができたあの頃の勢いは
僕のどのあたりに沈み込んでしまったのだろうか。

進めたはずの創作に
主題をつけることができないまま
消してしまう時がある

自己否定に名前をつけてしまうと
1日が急激に短くなって
人は老いてゆくと知ったから

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【詩】 人喰い駅

赤坂駅で
他人の不幸自慢を一通り聞いて
僕は電車に飛び乗った

静止から抜け出す車内で僕の意識は足元を貫通し
線路上にある己の肉片に手を伸ばした。

かつての肌色は
内側から押し寄せた赤と混じり合い
かつての体温は
摩擦熱と鉄の冷たさに上書きされ
かつての輪郭は
内部から荒々しく食い破られた。

継ぎ目と呼ぶにはいささか乱暴な断面から
微かに漏れ出すものは
身体の内側に溜め込んでいた生命活動の名残

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【詩】 難しい会話

「何ソレ。マジウケる!!」

アニメや漫画でしか聞いたことのない表現を忠実に再現する存在。
その軽い言葉に少し怯んだ僕は,彼女たちの言葉が何でできているのか知りたくなった。

僕の言葉は、小説と、詩と、少しの映画と、懐かしい音楽でできている。
彼女たちの言葉は、きっと、他の誰かの言葉でできている。
会話から会話を生み出すことが苦手な僕は、彼女たちが使う言葉を使いこなすことが出来ない。

彼女たちの

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【詩】 赤い髪の紳士

『ちょっといいかな?』
或る夕暮れ
頭髪の紅い紳士が
僕を呼び止めた

紅髪の紳士など居るハズがない。
けど僕には
紳士と呼ぶ以外に
その男の気品を巧く表すことができなかった。

『ちょっと街まで行きたいんだ』
紳士がそう言うので
僕は彼を街まで送り届けることにした。

この紳士の言う街とは、どのような場所を示しているのだろうか。
それは頭の悪い僕には難しすぎる問答で
だから僕たちは馬鹿みたいに道

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【詩】 機械仕掛けの観衆

小学生の頃
特別公演とかいって
壮年の女性歌手が僕の学校に訪れた。

その人のことを
僕は少しも知らなかったから
いろんな先生に尋ねてみたが
どうやら、どの先生も
その女性の正しい褒め方を知らなかったようで
朝礼で聞いた言葉を器用に組み替えては
「要するに『スゴい人』だよ。」と語った。
だから僕は
たった一言でまとまってしまうその説明を
丸ごと信じることにした。

その人は
『すごい人』だから

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【詩】 18時30分

活力に満ちた教授を尻目に
僕は時計を見ていた。

時計の意識はどこにあるのだろう。
長針か、短針か。
歯車か、文字盤か。
電池だろうか。
それとも、設計図だろうか。

その機構を理解することができない愚かな僕には
彼の活動を
急かすことも
疑うことも
許されていない。

何やら難しい話をしている教授は
希望に満ちた優しい言葉を
最後に添えた。
僕らくらいの若造には
丁度いい美談だった。

顔を動か

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【詩】 青い男

車内は怪物の腹の中みたいに沢山の人が詰め込まれていた。
そういう日に限って、電車は活発に振動する。

その振動に同調した僕の肘が
目の前の男の背中に当たった。
男はこの窮屈な車内で、わざわざ振り返って僕を睨みつけた。

その男ときたら、服もズボンも、バッグも靴も、全部青色だった。
マスクまで青かったな。
青く無い所といえば、髪の毛と肌くらい。
つまり、持って産まれた部分以外はゼンブ青で統一していた

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【詩】 朝焼け

僕を言い訳にして
朝が遅刻する

『あなたがいつまでも起きているから
私の準備は遅れたのよ。』

太陽は
この星を照らすために輝いているわけではないのに
時折そんな風に嫌味を言う。

目の前を我が物顔で横切る蟻を
思わず足で払ってしまいたくなるような衝動が
太陽にもあるのだろう。

朝日の
透き通るような鋭さ
この植木
この建築
この身体
この世界の影を
まとめて縫い合わせてしまう
強烈な光線

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【詩】 深夜奇行

街で暮らす

夢の演出家たちは

手軽に感動できる寝物語を探し求める。

せわしない親指の往復運動の末に見つけた

輝かしい文字列。

そこに吸い寄せられた群衆の一部になることで

どこか満たされた気になって

「私も幸せだ」と

自分に言い聞かせて眠りにつく。

今宵もいい夢を見られるように。

僕も躍起になって美談を探す。

しかし不思議と目は冴えて

仕方ないから

少し街を歩くことにした。

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