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名刺代わりの小説(等)10選

#名刺代わりの小説10選

このタグがTwitterで流れていたので、考えてみた。

そもそも、名刺とは何だろうか。

一番大切な役割は、名前を伝えるためのものだろう。会社名や肩書きのない名刺は存在するが、名前の記されていない名刺は想定しにくい。

しかし、自分の著作はまだないので、その役割を果たせそうな本はない。

次に大切な役割は、今の自分の所属や肩書きを伝えるものだ。

しかし、今の自分はほとんど無職だし、所属も肩書きもずいぶんとあいまいだ。

一方で、自分の過去の経歴を載せている場合もある。現在の立場を伝えづらいフリーランスなんかだと、経歴が人間像を伝えるのに役立ったたりする。

この形式がしっくりくるので、自分に影響を与えてきた本について取り上げる形にした。

まぁ、今の自分を表すような著作が思い当たらないということもある。

※後から気づいた。小説以外も入っている。まあいいか。

エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』

小学生の時にたまたま手に取った作品。後に、世界初の推理小説と呼ばれることを知る。ミステリーの目覚めを思い出させる一冊。

コナン・ドイル『緋色の研究』

小学生~中学生の頃は自称シャーロキアンだった。シャーロック・ホームズの作品に親しみ、その文学としての魅力に惹かれた。誕生日に偕成社の全集を願ったほどだ(結局、学校になかった一冊のみ購入)。シャーロキアンでもある小林司・東山あかねの訳が気に入っている。

モーリス・ルブラン『怪盗紳士ルパン』

シャーロック・ホームズに比べると原作があまり読まれないイメージがあるが、ルパンシリーズもミステリーの傑作である。こちらも偕成社の全集を読み漁った。まさに「紳士」とはなんたるものかを教えてくれる作品なので、教育上大変よろしい作品だと思う。

朝比奈隆『楽は堂に満ちて』

高校生の時に指揮者の朝比奈隆の演奏に圧倒された。古典派の楽曲から入り、ブルックナーで唸った。そして、その著作の文学性と教養に一気に魅了された。著作を買い漁り、他の著者による人物評も読んだ。でもやっぱり、本人の著作の魅力にはかなわなかった。

萩原朔太郎『月に吠える』

大学入試で出会った「竹」という詩。萩原朔太郎の言葉の響きに引き込まれた。『月に吠える』は人生で初めて購入した詩集だったかもしれない。どの詩も当時の自分の陰鬱とした心情にマッチして、とても癒された。

折口信夫『言語情調論』

大学の卒業論文で朗読の研究をしていた。「読む」ことと「語る」ことについて論じる抽象的な研究で、国語学ゼミではお門違いだったような気がするのだが、当時の指導教官は丁寧に向き合ってくれた。そんな中で勧められたのがこの本。若き折口信夫の卒業論文である。研究としてはその足下にも及ばないけれど、非常に励まされた。先行研究に乗っかって地に足着いた研究をしておけば良いものを、抽象的な自分の関心を論文にしようとする無謀さに今では恥ずかしくなるが、折口もまあまあ無茶しているし、ありじゃないかと思ったものだ。後に国語の教師になる自分としても、その境遇に重なることがあり、思いをはせる人物の一人である。

柴田南雄『音楽史と音楽論』

音楽、それも民俗音楽に関心のあった自分にとって、作曲家柴田南雄の著作や作品に触れることは、おおいに刺激になった。この本は放送大学の講義をもとにしているので、平易でわかりやすい。また、日本音楽と西洋音楽の歴史を対照的に記しながら、日本における音楽の流れを語る姿勢は興味深かった。何より、古代の音楽についての記述が魅力的で、知ることのかなわない古代日本の音楽文化に迫る様子には興奮した。

吉田修一『パーク・ライフ』

吉田修一の作品の中で初めて読んだ作品。芥川賞受賞ということはあったのかもしれないけれど、あまり賞は気にしない性なので、何より薄くて読みやすそうだったから買ってみたんだったと思う。読後感はさわやかで、気持ちの良いものだった。以降、吉田修一の深淵なる世界にどっぷりハマっていくことになる。

吉本ばなな『王国』

吉本ばななの作品は、最初は短編集から読み始めたのだったかと思うけれど、特に印象的だったのがこの作品。主な登場人物三人の関係性が魅力的で、恋とか、家族とかとの向き合い方を広げてくれた作品。吉本ばななさんの作品は、人間関係のステレオタイプな受け止め方から解放してくれる魅力を持っている。ずいぶんと救われたし、これからも救われると思う。人間はいったん視野を広げても、目の前の人間関係の前に視野がどんどん狭まってきてしまう。そんな時は、吉本ばななさんの作品に立ち戻ると、またゆったりと生きられるようになるのだ。

與那覇潤『知性は死なない――平成の鬱をこえて』

NHKの人気番組「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」が好きだった。その多様な立場の人の言語感覚が心地よかった。この番組で世に知られるようになった論客も多いが、僕が最も興味を惹かれたのが、與那覇さんだった。歴史という現代を論じるには一見役に立たないような視点から、とても新しいアプローチを現代の課題に与えてくれる。その與那覇さんが病気になった後に書いた著作で、鬱という病気を医学的であると同時に、内省的に分析している。そして、知性とは、大学とは、ということについての危機感を持った論説は、納得のいくものだった。学校や鬱といった共感を持てる立場の自分としては、自分のこととして読めたし、現状を客観的に見直すのにとても役立った。與那覇さんはあまり表に出なくなってしまったけれども、今の世界をどのようなまなざしで見つめておられるのか。ぜひ一度お会いしてみたい方の一人である。



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