トゥリ

詩情の見えざる手に書かされています。 現代詩/散文詩/小説

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    ハコモノグループ文芸部門のマガジンが登場。うれしいね。みんな

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清潔なのに退廃していて穏やかで、頭のおかしくなるような静寂の気配を孕んだ小さな部屋

しきりに罪の感性を穿たれている エンジェルス・トランペット、最初はどこで聞いた? 夜の部屋はゴミ箱じみていやにあっけない 言えないさよなら あった決別 高級ではない茶葉の香り いちばんいけない安心 明滅 もうどこにも行きたくない、 同じくらい、どこかものすごく遠いところに行ってしまいたい。 バスで聞く異国語の会話 廊下に響いたのは陶器のあるいは硝子の割れて形が失われる一回きりの音 上弦の金 水のように眠った 輪郭のない太陽 どうしても、どうしても愛だけは、どうしてだろう。 朝

    • 須臾

      あかるい回転、どこへも逃れて行くものか もう枯れない花 憂鬱な戯れ 次の逸脱 移り気、虹色の霧をその身になぐさめる 怯える蜘蛛のプリズム、幻聴のサイレン いさむ風、命の苦痛にうねる その形を 生まれながらの枷を見よ。 暗い深みの、上澄みの、  欠け爆ぜた月の、  ばらばらの、   はだに刺さって抜けない光、 あつく流れて咳き込む、かきむしってまた消える 億年の氷に酔えよ緑の脳 底、集る、うなだれる、きらめく、魂の最初の声 あおざめて下垂るオーロラ 朽ち葉のおもてに、雲

      • ハコモノ放送部 アドベントカレンダー企画 12/21 「歌より気楽になりたいが」

        生きていることそのものの、悍ましさとか、いびつさ、気持ちの悪さとか、居心地の悪さ、いたたまれなさ、罪の感触が消えなくて苦しむ日がある。 生きていけることそのものの、もはやどうにもなるまいなという諦観が、宇宙空間でつんと押されてそのままどこまでも行ってしまう一個のごみのように、この身に起こる。 自殺しちゃった友達を思い出す。死んじゃった程度で友達をやめはしない。思い出すあの子はいつも楽しいことの話をしている。みんなの思い出す私もいつも楽しいことの話を、楽しそうな声のする人間だっ

        • ハコモノ放送部 アドベントカレンダー企画 12/14 「手放すことが許すこと」

          ひとつずつ自分の過去を手放す。あなた方の過去も手放す。 悔しかった未達の項目も、とうとう得られなかった成果も、忘れるにまかせて置いていく。 忘れることは優しい。諦めないよりも、なお柔らかい。柔和は便利である。この先なににでも変形できる。それは残酷なほどたやすい。 1020 高熱を出している。 どうにか起き上がり、予定通りの時刻に職場へ着くものの、やはりまっすぐと立って居ることすらもままならない。業務は無理、と判じられ、しぶしぶながら家へと帰される。 スマホの中にはAIがお

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          ハコモノ放送部 アドベントカレンダー企画 12/6 「二度寝をすると夢を見る」

          浅い眠りのときがいちばん夢を見る。 休日の、起きたくない朝の、素直じゃない眠りの中で無意識がもたらす夢がいちばん脳を穿つ。 忘れたくて忘れていなかったもの、片付け損ねた記憶、なるべくさわりたくないようなものが、いつも全部そこにある。 0125 複雑な立体構造の、大まかに言ってデパートの中にいる。 たくさんのエスカレーターが、フロアと天井に区切られた空間のなかばで、近くに・遠くに・いくつも交差している。 それらはどれも停止している。人間を感知して稼動する仕組みなのだろうと思

          ハコモノ放送部 アドベントカレンダー企画 12/6 「二度寝をすると夢を見る」

          期日

          甘い衛生の匂いがする どんなにか耐えかねて壊れるときの煌めきを よくよく想像するといい レモンの青い棘に刺されて この身はつめたく透きとおる はらわたにピアノの音符が型を抜く 白鳥は首を伸ばす、ガラスの階段になる 森の上まで延びゆくために あの子の椅子であるために ようこそ此処は寒いところ 沈黙によく似たみどりの水面 死にゆく星が見る夢 巨大なまなこ、眩いばかりの呪いが満ちる 生まれたての災禍があなたの真似をする ねえ地球照、アンタレスは本当に赤いのに 望まれた空

          もう日付変わったの、と言うくらいなら

          人生を、やり過ごしていると思ったことはないけれど、横たわっている間にそれが勝手に済んでいく瞬間はある。 眠りを人生の早送りと言ったのは友達だった。 起きているとき、私は今日の食事を考えて、帰り道の買い物の算段をして、済ませるべき家事と遊びの組み立てを行う。それは必要で、こなすこと自体が目的の物事であり、結果に何が生まれるでもなく暮らしはそうやって済んでいく。 眠れば、思考は中断されて、それら種々の懸念事項に関する脳の処理はスキップされる。その一瞬だけ、私は自分を手放して、手

          もう日付変わったの、と言うくらいなら

          孤帆

          銀色い眩しい窓にもたれて あなたの願いを訊ねたら ひたいを二つに割ってまで 最初の場所に戻りたい いのちを三つに裂いてまで 別の未来を辿りたい 雪も積もらないのは仕方なく 緑の桜が恨めしく どうしてあなたは生きていたので あの日の香りも忘れてしまう 布とはがねの飾りを外して いつか打たれた釘を抜き 消えうすれゆく灰色の煙の奥で笑っていよう 柔い敷布はないけれど 温い容赦はないけれど 目も覚めるほどの朱色の あわい重なりの真ん中で 最後の実りが

          ライトグレイ

          ゆるされていた、瑕疵のない丸い膚 存在の手前にあったもの 楽器になれない花には耳を傾けて 優秀な技術 上等な買い物 あたらしい時間に合わせて作られる 羅列を済ませる ページを捲る ちりのような雪、濡れる街路に映る ずっと、とは 言えなかった、言わなかった 言えば壊れるのが何なのか あなたもわたしも、想像できなかったから 電車の深い窓 無意識が翻訳したアルファベット 鋼鉄の橋 いまは長い道の半ば 耳の奥で新品のイヤホンが震える ピアノが歌う、ギターが揺れる ジャンルな

          ライトグレイ

          華やぎ

          真っ赤なかわいいグレープフルーツ 薄皮剥いたら 果肉の粒に たくさん蜜と水が満ち 真っ赤なかわいい、重たい果実 肉に似て それはいちばん美しく 嘘より甘い 夢より苦い おぞましいほどファンシーな 無垢の黄色に隠された 天使の脳の姿です

          白昼

           晩夏の帰省を終えて、戻りの電車に乗っていた。  車両は六両ほどで、乗客はそれほど多くなく、空席がいくつかあるくらいだった。田舎から田舎へと向かう路線の例に漏れず、外は絶え間ない田園の長閑さと、山間の緑を抜けるばかりだった。  その路線は大凡全て各駅停車で、一度乗り換えを挟んだ乗車時間は合計して五時間程度だった。しかし駅数がべらぼうに多いというわけでもないので、特急だったとしても三時間半はかかっただろう。新幹線はそもそも通っていない。そんなかんじの距離と場所だった。  その日

          月の再生

          死骸が土に戻るように。 あなたが零した言葉を静かに分解する。 均一に目盛りを刻まれ、それはわたし。 異なる位相の異なる単位、それはあなた。 あなたはたくさんの枝分かれを殺し、 殺し、殺し、殺しながら生きていく。 喜ばしき事実です。 夜は世界が増え、たいへん好ましい様態ですね。 ご覧の有様です。つながっているのです。 ただ、つながりが線でなく、目にも見えず、 弱く、在るだけ。 わたしはあなたを承認します。 それがあなたの幸せであるなしに関係なく、 あなたを承知し、認識します。

          月の再生

          もゆれば花の熱

          女たちの、 愉悦、嫉妬、嗜虐、憂鬱、焦燥、慟哭、憎悪 女たちよ 諦められずにいる人よ 助かる気のない奴は助けられない お願いだから、お願いだから、  もう誰にも傷つけられないで   私のかわりに無事でいて うるわしき狂乱の 咲いてひらひら、何ひとつとして嘘じゃない 夜闇は銀おびて水色 あなたを浮かべる、私を浮かべる 水のおもてに寝そべる肌を 裂いて開いて夢になる 肋骨を拓いたら  いちばん奥に罪を見て   整えられた、真白い並びのその底に 大概あなたもお気軽で  柔

          もゆれば花の熱

          九月の家

           死んだのだ、今朝。何がって、小学生の頃からずっと家にいた金魚の、三度目の子供たち、その最後の一匹が、玄関の水槽で。  母が見つけて庭に埋葬したと言った。  ずっと左目を病んでいた、幼い個体だった。 「……寝てんの」  背中のほうで男の低い声がする。  壁際のベッドに横たわる私は、頬と腕に擦れるシーツの感触を、じっとしたまま、皮膚と脳で感覚している。シーツは冷たい。耳の下の枕は少しあたたかい。開け放した窓の風を浴びて体は少し冷たい。 「んーん」  無防備で無意味な問い掛けに、

          九月の家

          祝祭前夜

          赤いまだ開かないススキの穂 蝶の戯れて黄色く光る翅に重なる 夢のこびりついたまぶた 誰にも優しくない完璧な、完全な、 手痛い理不尽のことを思い出す。 掻き立てた爪、肌にはっきりと罅になって それは白く残るとげの形の痕跡 僕だってきみを許したいのに。 にぶい不安 未だあらざる不安 知り合う前に戻れない 定義のナイフ 見出したい意味、後付けの愛着 もう捨ててもいいもの。 はすの花に蜘蛛の巣架かる、夜がきらきら瞬く 真珠の生まれる深い場所 舟になる光

          祝祭前夜

          レディ・エレクトロ

          六時間の眠り。 くりかえす水飲む動作。急ぐまた急ぐ。何したってきっと縁まで満たされない。 無目的、その悪性、毒性、ばかだなって言われて安心しても傷ついてもあなたには判らない。 卑屈に歪んだ種類のまなざし、すぐに判るようになって、逸らす視線も許してほしい。 正気でいる目玉を覆う骨。差さない明かりを見られない。 憶えている、膿む後悔を知っている、泣き笑いばかりの顔の奥にある。 カーソルの色、リンクの青。液晶に隔ててもらって守られる蒙昧。いつまでもずっと居てほしいなんて到底どうにも

          レディ・エレクトロ