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清潔なのに退廃していて穏やかで、頭のおかしくなるような静寂の気配を孕んだ小さな部屋

しきりに罪の感性を穿たれている
エンジェルス・トランペット、最初はどこで聞いた?
夜の部屋はゴミ箱じみていやにあっけない
言えないさよなら
あった決別
高級ではない茶葉の香り
いちばんいけない安心
明滅
もうどこにも行きたくない、
同じくらい、どこかものすごく遠いところに行ってしまいたい。
バスで聞く異国語の会話
廊下に響いたのは陶器のあるいは硝子の割れて形が失われる一回きりの音
上弦の金
水のように眠った
輪郭のない太陽
どうしても、どうしても愛だけは、どうしてだろう。
朝夕。よせてかえす。躁鬱。立ち眩む顔。
終わりが用意されている安堵も、
いますぐ終わってしまいたい弱さも、
ここには許されている。
手遅れでも引きとめて
曇った窓ガラスの曖昧な中を街灯の灯だけが後ろへ泳いでいく
流れていく
尾鰭もオールもないままで、二人は、一体、なにの為めに。

宇宙をいくら飲んでも人間にはなれない
あかるい灰色
どこにもないということだけが分かって
目の前の手指
骨の上の丸い光、無機物、知の凝固、
じっとりとそこにある。
たしかなのかい?
まばたく蝶蝶
あえかな戸惑い
たゆめる熱の痕跡
一人で歩く誰かの吐息も冬には見えてしまう、
冬が見てしまう、
冬があなたに見せてしまう。
ほどける草花
意味の地平にはもう誰もいない
まなざす遠望
借りた魚
夢想するなら優しいように、あなたにまた光が注ぐように。
ぴんくの生爪
乾ききらない髪の冷たさ甘さ柔らかさ
となりにいた躰
起きたら全部忘れているよう
きっとまだ帰りたい、帰られない、潮風も、乾いた波止場のコンクリートに影を落としても、眠る毛布を思い出しても、綺麗な季節が殺しにくる。やがてやすらかな無になって、なにもかも済んだ水面まで遠のいても、終わらないだけの、それが二人をまだ、存えさせる。

花は呼ばれ
散るならば空は燻り
観覧車の外で聴いた音楽
抱きしめていたいあなたに、あなたに似た月も、
正しさだけが輝くならもういらない。
雪が落ち
機械が震えている
私たちも震えている
ないものを作ろうね
見えないものを許そうね
それで私たちいつか、存在の向こう側で遊ぶ。

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