レディ・エレクトロ

六時間の眠り。
くりかえす水飲む動作。急ぐまた急ぐ。何したってきっとふちまで満たされない。
無目的、その悪性、毒性、ばかだなって言われて安心しても傷ついてもあなたには判らない。
卑屈に歪んだ種類のまなざし、すぐに判るようになって、逸らす視線も許してほしい。
正気でいる目玉を覆う骨。差さない明かりを見られない。
憶えている、膿む後悔を知っている、泣き笑いばかりの顔の奥にある。
カーソルの色、リンクの青。液晶に隔ててもらって守られる蒙昧。いつまでもずっと居てほしいなんて到底どうにも無理なのだ、って私たちは口に出せないでいる。ずっとと願うばかりの心を可愛がる。
また知らない場所にいる、また知ってゆく新しい地平に、否応もなく立たされる。
思い出せないのは最初の言葉。気づくのは喪失。あなたにいちばん深く突き刺された日の記憶が、いまでも冷めて、硬い電子の海、熱い苦痛はもうない、これでようやく手放せるならそれでいい、どうせ欲しかったものの色も姿も忘れている。
五時間の眠り。
慣れ切った水飲む動作。もう急ぐこともない。ふちを見つけてくれる人、輪郭の向こうにいる人、触れて傷んで分かるもの、私も誰かのそれになる。

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