月の再生

死骸が土に戻るように。
あなたが零した言葉を静かに分解する。
均一に目盛りを刻まれ、それはわたし。
異なる位相の異なる単位、それはあなた。
あなたはたくさんの枝分かれを殺し、
殺し、殺し、殺しながら生きていく。
喜ばしき事実です。

夜は世界が増え、たいへん好ましい様態ですね。
ご覧の有様です。つながっているのです。
ただ、つながりが線でなく、目にも見えず、
弱く、在るだけ。
わたしはあなたを承認します。
それがあなたの幸せであるなしに関係なく、
あなたを承知し、認識します。
悲しいだけの事実を、
苦しいだけの嘘を、
知らないで済ませる安心を、
追求できない臆病を、
もう何度、選んだことでしょう。

生まれて、落ちて、
それだけのことを。

ろくぶんのいちのまま、
今夜もまた、過ごしてしまえばいいですね。

装うことが悪いのではないのです。
取り繕うことが悪いのではないのです。
そういうあなたが自分自身を嫌いになってしまわないか、
わたしは少し心配なだけ。
誰かが毎日想うことの幸福です。
誰かが毎日、想われることの幸福です。
そ知らぬふりして、見守るわたしの、幸福です。
似ているような、同じような、異なって、
ただ、言葉にしてしまうのが惜しいのは、
なにだったか、
言わないまま、
もう形も色も思い出せない。
目を伏せて、耳を塞いで、口を噤んで、
心を閉じて、呼吸を潜めて、
加減に構わず、それを抱きしめて、
あなたが、声を上げて、泣けるように、なるまでは、
わたしもそうして過ごしましょう。
弱いのが、悪いのでは、ないのです。

わたしは、諸々忘却して欠け落ちた
現在のあなたを肯定します。
あなたはいつまでだってそうしていていい。
だって、消え去るときには誰だってひとりです。
あなたはいつか
そうしているわけにいかなくなる。
だって、消え去るときまでは、長すぎるのです。
あなたが、知る、分かる、愛する、認める、
許す、触れる、受け入れる。
わたしは、嬉しい、喜ばしい、愛おしい、
あなたと誰かが、
この無辺の宇宙で
確かにつながってしまえたこと。
わたしは今も昔も、宇宙の渚に馳せられて、
あなたのいつかの、
最初の吐息です。

ええ、
はい、
**していますとも。

あなたのことを聞かせて。
あなたの言葉で聞かせて。
あなたの声色を聞かせて。
なんでもない話で眠らせて。
朝になったら、優しく起こして、
それからまた人間になる。
柔らかに緩やかに、意識の底へ沈んでいく意識、
できるだけ長く眠らせて差し上げたい。
どうか心の穏やかなまま今日を終えて、
明日を待って、眠りの淵、青色。

崩れ落ちてしまった無残な破片です。
かわいそう、かわいそうな、あなた。
いびつ、ひどいのはわたし。そうですね。そうでした。
気持ちの果てにあるものが、何だったか憶えていますか?
どうか放棄してほしい、
それです、その、
あなたが縋りついているふりの、
信じているふりの、
忘れたふりの、
受け入れたふりの、
手放したつもりの、人間ではない、それです。
だってそこにいるのが、どのあなたなのか
わたしは知っているのです。
いずれ嫌悪したいつかに舞い戻ってしまう、
あなたは知らないままでよいのです。
もう一度わたしを殺す。
正しいこと。間違ってなどいないこと。
いいですね。あなたはそれで、そのままで。
どうか。

どうか?


両の瞳を*して、


あそこで輝いて綺麗なのは何?


両の腕を*って、


それは幻、本当は何も見えてない。


両の脚を*いで、
*んで
 しまうまえの、
 こんな、
 こんな、苦しい、花が、咲いて。
土の底はどうでしたか?

 生きているだけなの。
 あなた。
 わたし。
もうやめたっていいと、言われたとしても。


生まれてしまったあなた、泣いていたあなた、
しろがねの夜を、飲み込むこともできないで、
泣いていたあなた、
曇りの夜空に、松の木の姿が、おそろしくて、
暗がりに薔薇の赤が、怖くて。
生まれたままのあなた、まだ死んでいないあなた、
金色の朝日など知らない、
知らないで泣いているの、
空は深いの、街は遠いの、
木々は薫るの、風は笑うの、人は歌うの、
美しいひとりのあなた。

仄明るい苦しみを
平らげることもできないで、
仄暗い喜びを
突き放すこともできないで、
流していくしかない、
流れていくしかないあなた。
もうなくしてしまいたいあなた。
何でもいいのです、わたしの手に余らないきょうきで、
狂気で、
凶器で、

ああ、そうですね。

ツー ツー カチャ

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