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淀んだ果実の香、幻肢痛のような春
シーリングライトで照らされた部屋の酸素が薄い気がする。生暖かい暖房の風が顔を優しく撫でる。
忘れたい、忘れて楽になりたい。
ただの現実逃避だろうか。でも、逃げ切ってしまえばそれだって解決策じゃないか。
休日、一人で自宅にいるだけで、思った以上に日々を誤魔化して、なあなあにして、仕事という鎮痛薬に依存して生きていた自分に気づく。
呼吸をするだけ、生きているだけで心は疲れて、萎んで、くしゃくしゃにな
微睡の水平線、記憶の傷痕
雨粒の降りしきる浜辺は、いつになく閑散としていた。遠くの岩場で釣りを続ける人々だけが、一列に蠢いて見えた。
履いてきたサンダルを脱ぎ捨てて、湿った砂場に足を下ろす。昼の間に海水浴客に踏まれ尽くしたであろう砂は、死んだ生き物のようにひんやりと冷たい。小石や貝殻の破片が皮膚の表面を僅かに刺した
告げられた言葉は、当然のようにうまく飲み込めなかった。確かに最善の選択だ、と納得しようとする自分の言葉や思
真綿を詰めた空隙、目を背け続けた欠落
当たり前のように談笑して、「普通」を装って、人並みになれたと思ったか?
今の生活は満ち足りたか?これから何不自由なく生きていけるか?
暗闇から目を背けて、いつか背負う孤独の重さも見ないふりをして、空っぽの自分に真綿を詰めて。
そうやって作った笑顔は本物か?
何もいらない。あなたさえも、この空隙を満たすには足りない。
ただ一点を見据えて生きていけばいい。
私は私を満たすためだけに生きる。
そうし
ある冬の日、幸せになれなかった物語
冷えたアスファルトの通学路。落ちた椿を拾いながら、花崗岩の塀に注ぐ柔らかな日差しに目を細める。
こんな日が毎日続けばいいと思った。
お下がりの毛玉だらけのコートも、重たいランドセルも気にならなかった。
あの時、あの日差しはきっと幸福の形をしていた。それは私の掌の中にあった。
三が日、洗濯物が干せなくなって絶望した。
長期の休みはいつも調子を崩す。軟弱なルーチンは粉々になって、ただ生きているだけの
偽物の瞬き、炎、暗闇の温もり
踏みしめていた色とりどりの枯葉が赤黒く朽ちていく。
きりきりと肌に刺さるような空気と、同情のような優しさの陽の光。
閑散とした季節の中で、幻惑みたいな雪が降る。
一番人が多く死ぬ季節。
何も変わらないね、なんて自嘲気味に呟く。
たくさんのものを、人を、環境を変えて、必要なものを揃えて、もう二度とあの場所に戻ることがないようにと思っていた。
そうやって自分も変えられたとどこか錯覚していた。
でもそ
くだらない一日と夜、バターの香り
疲弊した夜は満足感があるというより、なんだか絶望的だ。この世界の知らないどこかに隕石が落ちていくような感覚があって、宛てもなく手を伸ばすように何かに縋ってしまう。ベッドに潜るのが唯一の正解だと、押しのけられた理性が唱えている。
ぼんやりと、人が話しているのを流している。内容は頭に入ってこないけれど、ゆったりと喋る様子には安心感を覚える。カーテンに閉ざされた窓の向こうで、今日も星が街灯りにかき消され