藍影

暗闇が私を見つけた

藍影

暗闇が私を見つけた

マガジン

  • 夢現

    生活の隙間に溢れ落ちた言葉を掃き集める。埃の中に時々、ガラスの欠片や虫の死骸、無くしたピアスが光る。それらをそのままゴミ箱に流し込んだり、時々つまみ上げて眺めたりする。

最近の記事

溶けたコラソン

私の恋の十字架 (忘れることがないもの) 永遠なんてものはなくて 同じ方向を見続けることはできても 互いに向き合い続けることはできないね 恋慕と友情は別のものなのか 恋には終わりがある 火をつけた蝋燭のように そのうち自然と消えて 焦げた芯だけが残る エゴイズムの有無 美的感覚の差異 例えば蝋燭と石鹸 装飾品としては代替可能で 素材を色彩や混ぜ物で飾り立てることができるとしても 実用的には性質の異なるもの 君のことを確かに愛しているのに なぜだろう 時々チリチリと焼け

    • 潮騒、泥濘に埋めた記憶。青空。

      世界を美しいと思うこと、ファインダーを覗くこと。 それはきっと生きるということ。 暑さと忙しさの中で生活が腐り落ちていくのを、防腐剤という名のカフェインを注射してなんとか保っているような日々。連休中に進めるつもりだったタスクはちっとも進まなくて、静かな絶望の渦の中で自我が土色に濁っていくのを感じていた。 机で眠ったまま目が覚めると朝5時で、海に行こう、と思った。 空は雲ひとつない快晴で、穏やかな海は青を反射して眩かった。海水浴客から少し離れた岩場で、開けた場所に愛機を構え

      • 淀んだ果実の香、幻肢痛のような春

        シーリングライトで照らされた部屋の酸素が薄い気がする。生暖かい暖房の風が顔を優しく撫でる。 忘れたい、忘れて楽になりたい。 ただの現実逃避だろうか。でも、逃げ切ってしまえばそれだって解決策じゃないか。 休日、一人で自宅にいるだけで、思った以上に日々を誤魔化して、なあなあにして、仕事という鎮痛薬に依存して生きていた自分に気づく。 呼吸をするだけ、生きているだけで心は疲れて、萎んで、くしゃくしゃになる。熟れ過ぎた柿みたいに、黴の生えた蜜柑みたいに、成れ果てた感情が機能不全に陥る

        • 諦念、恐怖、血溜まりに映る虹

          どうしたって息をしないといけない。 この程度の絶望じゃ私を殺せないのを知っている。 うすのろの頭が稼働を拒む日がある。 今日は寒いから。至極真っ当な理由だ、望まれてもいない労働を求める日常よりは遥かに理に適っている。 愚鈍な大型動物のような足取りで、美しささえも拒絶した。 噛み合わない歯車が騒音を立てて世界を阻み続ける。私はどうすることもできずにぼんやりとPCのモニターを眺めている。 誰もが私の存在を責め立て、冷笑している。ありもしない他人の悪意がみえる。 背中が冷や汗で

        溶けたコラソン

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        • 夢現
          17本

        記事

          恋とか愛とか血肉とか

          恋愛って愛し合う2人を完成形とするらしい。 お互いにお互いを「特別」と考えていないと不完全らしい。 めちゃくちゃ他人の意見に左右されるじゃんね。相手依存すぎんか、その愛。 特別じゃなくなったら「正解」じゃなくなるのが「正解」で、そこには一つの座席しか許されていなくて。 そうやって縛られて、縛って、苦しんで、傷つけて、それが善しとされて。 そんな言い訳をしないと答えを見つけられなくて。 世界一好きな相手くらい自分の意見で決めないか。 そんなところまで他人の顔色伺わなきゃい

          恋とか愛とか血肉とか

          糖蜜に漬けたオパール、クリーム塗れの星空

          強く握り過ぎて壊してしまうから、誰かを好きでいるのに向いていないと気づいた。 プレゼントを贈るのは好きだ、いつだって溢れ出しそうな好意を肯定される気がするから。 十二月に入って、サンタクロースの足音のようなBGMとともに、街は煌びやかに飾りつけられていく。華やかな風景を眺めながら、立て込んだ仕事に追われる日々に、疲労と充実感を噛み締めている。 「当たり前」を当たり前と言いたくなくて、幸せならそれでいい。人生は意外と長いけれど、関心のないことに浪費するのは勿体ないから。 最

          糖蜜に漬けたオパール、クリーム塗れの星空

          しなやかな生活、眩い水晶の光

          柔らかな日差しの昼下がり、芝生の上で伸びをしながら目を細めた。 「これから先、どんなことがあっても」 最近は日常がこなせずに困ることもほとんど無くなった。生きることが飲み込めずに悶え苦しんだ日々は、決して遠くはないけれど、少しずつ過去の出来事になりつつある。 かつてこの世の真理のように信じていたことは、ただの曖昧な利害感情に過ぎなかったようにも思うけれど、信じていたことには確かな意味があった。 幼さゆえの過ちは、無条件に肯定されるものではないけれど、記憶から消し去るべきでも

          しなやかな生活、眩い水晶の光

          微睡の水平線、記憶の傷痕

          雨粒の降りしきる浜辺は、いつになく閑散としていた。遠くの岩場で釣りを続ける人々だけが、一列に蠢いて見えた。 履いてきたサンダルを脱ぎ捨てて、湿った砂場に足を下ろす。昼の間に海水浴客に踏まれ尽くしたであろう砂は、死んだ生き物のようにひんやりと冷たい。小石や貝殻の破片が皮膚の表面を僅かに刺した 告げられた言葉は、当然のようにうまく飲み込めなかった。確かに最善の選択だ、と納得しようとする自分の言葉や思考が、他人事のようで信じられなかった。 感情で物事を決めれば後悔するとわかってい

          微睡の水平線、記憶の傷痕

          青の湖畔で夜を讃える

          「これから先ありきたりな幸せで満たされて、この傷を忘れてしまうくらいなら」 十七歳の自分が綴った日記たちを、幾度と開きながら、未だに読み返せないでいる。 最近、久々に高校の同級生の家を訪れる機会があった。 六月とは俄に信じ難いような猛暑日だった。湧き出すような汗を拭きながら招かれた部屋は、家具から絨毯までが青色に浸され、ひんやりと心地がいいのはエアコンの冷気だけではなかった。 部屋に丁寧に飾られたコレクションを眺めながら随分と話し込んで、昔話なんかをあれこれと掘り返していた

          青の湖畔で夜を讃える

          真綿を詰めた空隙、目を背け続けた欠落

          当たり前のように談笑して、「普通」を装って、人並みになれたと思ったか? 今の生活は満ち足りたか?これから何不自由なく生きていけるか? 暗闇から目を背けて、いつか背負う孤独の重さも見ないふりをして、空っぽの自分に真綿を詰めて。 そうやって作った笑顔は本物か? 何もいらない。あなたさえも、この空隙を満たすには足りない。 ただ一点を見据えて生きていけばいい。 私は私を満たすためだけに生きる。 そうして私が一等星になる。誰よりも輝くシリウスになる。 暗闇の中で輝く星は、この世にた

          真綿を詰めた空隙、目を背け続けた欠落

          ある冬の日、幸せになれなかった物語

          冷えたアスファルトの通学路。落ちた椿を拾いながら、花崗岩の塀に注ぐ柔らかな日差しに目を細める。 こんな日が毎日続けばいいと思った。 お下がりの毛玉だらけのコートも、重たいランドセルも気にならなかった。 あの時、あの日差しはきっと幸福の形をしていた。それは私の掌の中にあった。 三が日、洗濯物が干せなくなって絶望した。 長期の休みはいつも調子を崩す。軟弱なルーチンは粉々になって、ただ生きているだけの罪悪感が疼いてくる。 淹れるつもりだった安いコーヒー豆の匂いがする。起き上がれな

          ある冬の日、幸せになれなかった物語

          偽物の瞬き、炎、暗闇の温もり

          踏みしめていた色とりどりの枯葉が赤黒く朽ちていく。 きりきりと肌に刺さるような空気と、同情のような優しさの陽の光。 閑散とした季節の中で、幻惑みたいな雪が降る。 一番人が多く死ぬ季節。 何も変わらないね、なんて自嘲気味に呟く。 たくさんのものを、人を、環境を変えて、必要なものを揃えて、もう二度とあの場所に戻ることがないようにと思っていた。 そうやって自分も変えられたとどこか錯覚していた。 でもそうじゃないよ。そうじゃないよね。 生きていくのに必要なのはいつだって、お金と、住

          偽物の瞬き、炎、暗闇の温もり

          泥に眠り秋空を仰ぐ

          日常のような泥に浸る。人肌に温くまとわり付くような感触は、永遠に横たわっていられる心地よさがある。周囲には枯れた植物があるが、元の形がなんだったのか、これから何になるものなのかはわからない。起きあがるのは億劫で、もう少しここで眠らせて欲しい、と呟く。 見上げると眩しい曇天が広がっている。明るさから昼だということは確認できるが、日光は分厚い雲の向こうに隠されている。拡散された光が漏れて、雲に陰影をつけている。 もう少しで顔を覆いそうになる泥に、ようやく起き上がる。一八〇度開けた

          泥に眠り秋空を仰ぐ

          くだらない一日と夜、バターの香り

          疲弊した夜は満足感があるというより、なんだか絶望的だ。この世界の知らないどこかに隕石が落ちていくような感覚があって、宛てもなく手を伸ばすように何かに縋ってしまう。ベッドに潜るのが唯一の正解だと、押しのけられた理性が唱えている。 ぼんやりと、人が話しているのを流している。内容は頭に入ってこないけれど、ゆったりと喋る様子には安心感を覚える。カーテンに閉ざされた窓の向こうで、今日も星が街灯りにかき消されている。人為的な光は雲を照らし、闇は中途半端な濁りのまま、誤魔化すように宙を漂っ

          くだらない一日と夜、バターの香り

          祝福の花束を燃やす

          今日もキラキラと眩い朝がきた。 その明るく鋭い光で、昨日の自分まで殺してはくれないだろうか。 誰もが自分を最優先に大事にしている、そんな当たり前が苦しくなる。 勝手に傷ついた人間が悪いのだろうか。そんな考えでさえ、誰にも知られることなく道端で朽ちていく。 この部屋は行く宛のない感情で溢れ返っている。たくさんの顔が床を埋め尽くして、小さな掃除機一台では到底片付けきれない。最近は絶望も希望もこれ以上はいらないと断り続けている。これ以上仕事を増やさないで欲しい。 どうやら私は与

          祝福の花束を燃やす

          浴槽と幸福と抱卵

          幸福はどこにあるのだろう。 最近、少し眠るのが上手くなった。平日は疲れていて夜に風呂を沸かすのが億劫だったのだけれど、体を温めると寝つきが改善するので、なるべく沸かすようにしている。 暗い部屋で目を瞑っていると不安になる。だから瞼の裏に映像を思い浮かべる。星空に羽ばたいて高くへと飛んでいく景色や、草の上に寝そべって木漏れ日を見上げ風に吹かれている情景。 ここ数日は大きな蜘蛛の下で眠るのが気に入っている。不思議と恐怖はなくて、彼女は卵のように大事に私を抱きかかえてくれる。湿っ

          浴槽と幸福と抱卵