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潮騒、泥濘に埋めた記憶。青空。

世界を美しいと思うこと、ファインダーを覗くこと。
それはきっと生きるということ。

暑さと忙しさの中で生活が腐り落ちていくのを、防腐剤という名のカフェインを注射してなんとか保っているような日々。連休中に進めるつもりだったタスクはちっとも進まなくて、静かな絶望の渦の中で自我が土色に濁っていくのを感じていた。
机で眠ったまま目が覚めると朝5時で、海に行こう、と思った。

空は雲ひとつない快晴で、穏やかな海は青を反射して眩かった。海水浴客から少し離れた岩場で、開けた場所に愛機を構え、シャッターを切る。

そこでは、世界と私の間に何の障壁もない。ファインダーを覗いてピントを合わせれば、ぼやけていた自分自身までくっきりと輪郭を持つようだ。
暑さとは裏腹に澄み行く思考。滑らないように注意しながら浅い泥濘に立つ。滴り落ちる汗を拭うのを億劫に感じる。
私が切り取った空と海は、いつまでもどこまでも続いていく。

これが生きるということだ。

そういえば昨年も同時期に海に来たな、と思ったら、ほぼ一年前に同じ海岸に来ていた。
七月は私の恋の命日なのだ。
死に乾いた貝殻、仮説。存在したはずの記憶、熟れ腐った魂、角を失ったガラス片。幾重にも重ねた過去を脱ぎ捨てながら、今日も生命を紡いでいる。
いつかそのどれかが、抜け落ちた鱗のように輝けばいい。

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