三石陽平

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  • ベースボールカードコレクション

    コレクションのベースボールカードでチームオーダーを作成。2022年シーズン終盤時の記事です。

記事一覧

「クルイサキ」#17

さくら 10  さくらは声がした方へ振り返るのにたっぷりと時間を掛けた。どんな表情をすればいいのかわからなかった。ぼさぼさな髪を少し恥ずかしく思うくらいの乙女心…

三石陽平
6時間前
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「クルイサキ」#16

二章 休眠打破 さくら 9 「同じ空は一度もない」  十年前の高校の卒業式の日、空に与えられた特権を誇るかのように、言葉に力を込めて彼は断言していた。  それなの…

三石陽平
2日前

「クルイサキ」#15

死神 7  二人は抱き合い、唇を触れ合わせた。  その場から逃げ出したい衝動を必死で堪え、抱擁する二人の姿を目に焼きつけた。意思を鈍らせないようにと、殺意を印象…

三石陽平
5日前
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「クルイサキ」#14

さくら 7  空は青く澄んでいるというのに、さくらの心はどんよりとした雲が停滞していた。いまにも降り出しそうな雨を避けようと家路へ急ぐ心境に似ていて、織田との別…

三石陽平
7日前
2

「クルイサキ」#13

死神(タロウ)6  さくらと織田が楽しそうに雪上を駆けまわるのを眺めていても、タロウは思い描いていた達成感は抱けず、反対に苦い感情が心に残った。青空の色を作ろう…

三石陽平
8日前

「クルイサキ」#12

さくら 6  冬休みが終わり、今年始めての登校の日だった。始業式が終わって長めの掃除を強要されたあと、織田が雑巾を片手に向かって来た。 「あけましておめでとう」…

三石陽平
10日前

「クルイサキ」#11

死神(タロウ)5  さすがにさくらは抱き締めたり、頬擦りはしてくれなかったが、身を固めたままのタロウを慎重に抱き上げ、自転車の籠に収めた。  タロウは身を硬直さ…

三石陽平
11日前
4

「クルイサキ」#10

さくら 5    数日間降りつづいた雨は、アスファルトをひっそりと濡らしただけで、教訓を諭すこともなく、憂鬱さを増幅させて空からいなくなった。  引力に引っ張られ…

三石陽平
2週間前
1

「クルイサキ」#8

さくら 4    高校生活最後の文化祭があと一週間に迫っていた。  さくらのクラスではふるさと歴史博と銘打ってこの地方の歴史の調査を行い、展示する催しが企画されて…

三石陽平
3週間前

「クルイサキ」#9

死神(タロウ)4  さくらを標的に、この世界に降りた日から三ヶ月が過ぎようとしていた。ここ数日のあいだ、静かに降りつづいていた秋霖が昨夜止んで、陽が沈む時間が短…

三石陽平
3週間前
1

「クルイサキ」#7

死神(タロウ) 3    不穏な気配を察したのか、彼女は振り返り、足元に視線を落とした。彼女と目が合う。どうやら近づきすぎてしまったらしい。逃げようとするが、足が…

三石陽平
3週間前
1

「クルイサキ」#6

さくら 3    放課後、さくらは織田と共に教室に残って、彼の描く空の絵と、絵を描く彼の姿を眺めるようになった。最初の一週間は廊下側の机に陣取り、本を読みながら、…

三石陽平
3週間前
1

『2024 BBMベースボールカード1stバージョン』1BOX開封しました!

 プロ野球が開幕して一ヶ月ほどが経ちました。現在セリーグは貯金しているチームが阪神タイガースのみと、これから混セになっていくのか、それとも独走状態に入っていくの…

三石陽平
3週間前

「クルイサキ」#5

死神 2  今回のターゲットは特殊な能力を授かっていた。その能力は人間世界においては砂上の楼閣である。まったく、神様はヘマをやらかしちまったわけだ。  地上に放…

三石陽平
3週間前

「クルイサキ」#4

さくら 2  ホームルームが終わり、イスと床が擦れる雑音が一斉に響いた。それを合図に解放感が一気に放たれた教室はもう彼らを引き止める理由を失くして、寂しげな表情…

三石陽平
3週間前
4

「クルイサキ」#3

死神 1  毛を逆立てて、背中をしならせる。威嚇の格好だ。首輪をつけた白色の毛並みの良い猫が、一目散に逃げていく。決して興味本位で近づいてはいけない。纏わりくと…

三石陽平
3週間前
1
「クルイサキ」#17

「クルイサキ」#17

さくら 10

 さくらは声がした方へ振り返るのにたっぷりと時間を掛けた。どんな表情をすればいいのかわからなかった。ぼさぼさな髪を少し恥ずかしく思うくらいの乙女心もあった。
 意を決して振り向くと、怪訝な表情を浮かべた見知らぬ男が立っていた。さくらは拍子抜けし、緊張が一気にゆるんだ。有り得ない期待を一瞬でもしてしまった自分を恥じた。
 さくらは見知らぬ男を無視し、背を向けて何事もなかったようにゆっ

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「クルイサキ」#16

「クルイサキ」#16

二章 休眠打破

さくら 9

「同じ空は一度もない」
 十年前の高校の卒業式の日、空に与えられた特権を誇るかのように、言葉に力を込めて彼は断言していた。
 それなのに今日の空があの日と同じように晴れ渡っていて、まるで十年前の空を用意したかのようであったから、困惑を覚えずにはいられない。
 光が自由奔放に空を泳ぎ回り、空の青さを鮮明にしている。巨大な空が春の訪れを知らせようとするかのように、体をふ

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「クルイサキ」#15

「クルイサキ」#15

死神 7

 二人は抱き合い、唇を触れ合わせた。
 その場から逃げ出したい衝動を必死で堪え、抱擁する二人の姿を目に焼きつけた。意思を鈍らせないようにと、殺意を印象づける。
 さきほど、他の人間に憑依をした。その人間は鋭利な刃物を持っており、標的を殺害するのに適していた。心がかなりぐらついていて、憑依するのに造作なかった。捨てたみすぼらしい恰好をした人間を見下ろしたとき、自分の役目が強固していく感覚

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「クルイサキ」#14

「クルイサキ」#14

さくら 7

 空は青く澄んでいるというのに、さくらの心はどんよりとした雲が停滞していた。いまにも降り出しそうな雨を避けようと家路へ急ぐ心境に似ていて、織田との別れをないことにするために、彼との約束を破ろうかと真剣に悩んでいた。
 彼はさくらと会っておそらく最後の別れをするつもりなのだろう。織田に別れを告げられた瞬間に、さくらはもう彼と会う資格を失ってしまう。
 それならば彼とは会いたくない。決定

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「クルイサキ」#13

「クルイサキ」#13

死神(タロウ)6

 さくらと織田が楽しそうに雪上を駆けまわるのを眺めていても、タロウは思い描いていた達成感は抱けず、反対に苦い感情が心に残った。青空の色を作ろうとパレットに青色と白色の絵の具を落としたのに、なぜか灰色になったかのように、気味の悪さだけが全身に流れていた。
 真っ白な雪だったのに、二人の足跡が汚している。泥が混じってみるみると醜くなる。
 ただ、さくらの笑顔が見たかった。そう思って

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「クルイサキ」#12

「クルイサキ」#12

さくら 6

 冬休みが終わり、今年始めての登校の日だった。始業式が終わって長めの掃除を強要されたあと、織田が雑巾を片手に向かって来た。
「あけましておめでとう」彼はぎこちなく頭を下げた。
 彼がパリへの留学を告げた日以来、どこか彼に気後れを感じ、なかなか自分から彼に近づくことができなかった。
 年始の挨拶だけは、ちゃんとしよう。なにごとも最初が肝心だ。さくらは今年の運勢を占う一戦でも挑むように彼

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「クルイサキ」#11

「クルイサキ」#11

死神(タロウ)5

 さすがにさくらは抱き締めたり、頬擦りはしてくれなかったが、身を固めたままのタロウを慎重に抱き上げ、自転車の籠に収めた。
 タロウは身を硬直させたままで、さくらの方を向くことができなかった。前方を見つめたまま、彼女の顔を見る勇気が出ない。なぜ素直に彼女に向き合えないのだろう。借り物の肉体でうまく行動に移せなくなってしまったのだろうか。だが、いままでも借り物の肉体でも自在に操って

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「クルイサキ」#10

「クルイサキ」#10

さくら 5
 
 数日間降りつづいた雨は、アスファルトをひっそりと濡らしただけで、教訓を諭すこともなく、憂鬱さを増幅させて空からいなくなった。
 引力に引っ張られた長い雨の粒は、糸の切れたヨーヨーのように次々と地面に打ちつけられて、まだ取り残されている。行き場を失った雨は、身を寄せ合い所々に水溜りを形成していて、その姿は道行く人に平謝りをしているかのように見えないこともない。それでも、道を歩く人々

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「クルイサキ」#8

「クルイサキ」#8

さくら 4
 
 高校生活最後の文化祭があと一週間に迫っていた。
 さくらのクラスではふるさと歴史博と銘打ってこの地方の歴史の調査を行い、展示する催しが企画されていた。
 放課後の教室はその準備のために当てがわれ、織田との創作活動は休止せざるを得なくなった。都合、ここ数週間は織田が絵を描くのを見られなくなっていた。彼と会話もしていない。
 さくらは文化祭の催し物には深く関与していなかった。我がクラ

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「クルイサキ」#9

「クルイサキ」#9

死神(タロウ)4

 さくらを標的に、この世界に降りた日から三ヶ月が過ぎようとしていた。ここ数日のあいだ、静かに降りつづいていた秋霖が昨夜止んで、陽が沈む時間が短くなった。いま空は雨をしまいこみ、冬支度をするように雪を準備している途中なのかもしれないと、タロウは空を見ながら思う。
 この季節になるまで、死神の仕事をさぼっていたわけではない。さくらに顔を覚えられてしまったので、彼女からしばらくのあい

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「クルイサキ」#7

「クルイサキ」#7

死神(タロウ) 3
 
 不穏な気配を察したのか、彼女は振り返り、足元に視線を落とした。彼女と目が合う。どうやら近づきすぎてしまったらしい。逃げようとするが、足がすくんでしまった。体がうまい具合に動かず焦る。
 自転車で移動する彼女を、全速力で追っていた。彼女が赤信号で止まったので、一気に距離を縮めた。だいたいターゲットから四、五メートルが催眠を掛けるのに適当な距離である。もちろんもっと接近するの

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「クルイサキ」#6

「クルイサキ」#6

さくら 3
 
 放課後、さくらは織田と共に教室に残って、彼の描く空の絵と、絵を描く彼の姿を眺めるようになった。最初の一週間は廊下側の机に陣取り、本を読みながら、彼の作業を盗み見ていた。ページをめくる音や、居住まいをただす衣擦れの音にも神経を使い、彼の邪魔をしてはいけないという思いだけが、さくらの視線の先にあった。
 彼と過ごす時間は、止まることも、遅くなることもなく、規律正しく行列が進んでいく具

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『2024 BBMベースボールカード1stバージョン』1BOX開封しました!

『2024 BBMベースボールカード1stバージョン』1BOX開封しました!

 プロ野球が開幕して一ヶ月ほどが経ちました。現在セリーグは貯金しているチームが阪神タイガースのみと、これから混セになっていくのか、それとも独走状態に入っていくのか、交流戦までの戦いがまずは注目したいです。
 さて、本年も『BBMベースボールカード1stバーション』が発売となりました。早速購入いたしましたので、これから開封いたします。
 いざ、プレイボール!

 今回の印象はやはりドラ1のルーキーカ

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「クルイサキ」#5

「クルイサキ」#5

死神 2

 今回のターゲットは特殊な能力を授かっていた。その能力は人間世界においては砂上の楼閣である。まったく、神様はヘマをやらかしちまったわけだ。
 地上に放たれた禁断の箱が開かれる前に、それを回収しなくてはならない。なにやら今回の任務は特別任務と名づけられているそうなのだが、ターゲットを死に送るという役割はいつもと変わりはない。
 死神は普段は魂のままでいて、肉体を持っていない。下の世界に降

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「クルイサキ」#4

「クルイサキ」#4

さくら 2

 ホームルームが終わり、イスと床が擦れる雑音が一斉に響いた。それを合図に解放感が一気に放たれた教室はもう彼らを引き止める理由を失くして、寂しげな表情で生徒を見送っているようにも感じる。
 さくらはゆっくりと時間を使って教科書を鞄に入れたり、意味もなくノートをめくったりして、時間が過ぎるのを待った。数人の友人が一緒に帰ろうと誘ってくれたが、適当な理由を言って断った。
 さくらは織田の席

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「クルイサキ」#3

「クルイサキ」#3

死神 1

 毛を逆立てて、背中をしならせる。威嚇の格好だ。首輪をつけた白色の毛並みの良い猫が、一目散に逃げていく。決して興味本位で近づいてはいけない。纏わりくと死期を早めることになる。
 去っていった猫に忠告の視線で見送ると同時に街灯が点った。街角に設えてあるカーブミラーを見上げ、自分の姿を確認する。
 毛はすっかり汚れてしまって本来の色はわからなくなっている。右の耳は何者かに噛まれてしまったの

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