眠れない夜が好きだった
眠れない夜、眠る前のあの余白の時間が好きだった。
まだ幼かった時、真っ暗な部屋の中で僕は宇宙にいた。
人に話してもあまり共感されなかったけれど、眠れない時はたいてい、宇宙や死、「眠る」という行為について考えを巡らせていた。
真っ暗な部屋がそうさせていたのか、眠る前独特の心理がそうさせていたのか、はたまたただの好奇心か、どうだったのかは分からない。
「宇宙ってどこまで続いているんだろう?」
「死ぬってどういうことなんだろう?」
「眠る瞬間ってどんな感じなんだろう?」
宇宙の広さを想像すればするほど、地球に存在する自分がちっぽけに思えて不思議な感覚になったし、死について想像すればするほど、その未知さに恐怖と興味がアンバランスに混ざった気持ちを抱いた。
そして、眠る瞬間を意識すればするほど、眠れなくなった。
子どもなりの哲学を繰り広げていた眠れなかった夜、時には恐怖を感じることもあったけれど、あの夜が好きだった。
そんな僕は今、眠らない夜を過ごしている。
眠る前の余白の時間を、他人の人生やエンタメで必死に埋めている。
気付かぬうちに眠りに落ち、朝目が覚めると、自分のために最適化された映像が虚しく流れ続けていて、バッテリーのアイコンがすっかり赤くなっている。
そんな、かろうじて電池切れにならない日々を過ごしている。
今日の心残りとか、明日への不安、人生そのものに対する物足りなさを感じたくなくて、極力夜は眠らないようにする。
昔は、小さいながらも頭の中に宇宙を思い浮かべられたのに、大人になった今は、明日のことすら考える勇気がない。
眠れない夜も、眠らない夜も、どんな夜でも、眠ってしまえば朝が来るのが何だか呆気ない。
宇宙に身を任せようが、現実逃避をしようが、眠ってしまえば朝は来るし目の前に広がる景色はいつも変わらない。
だから、これからも眠らない夜を過ごすつもりだ。
こうして頭の中と手を行き来している、文章を書いている時があの時の眠れない夜と重なる。
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