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アニメーターの腕は水の表現で決まる!「きみと、波にのれたら」

今の日本には天才アニメーターと称される人がたくさんいるんだけど、近年特によく名前を挙げられるのが湯浅政明である。
彼が有名になったのは「マインドゲーム」で文化庁メディア芸術祭大賞を獲ってからかもしれんが、実はその3年前、「ねこぢる草」という作品で既に注目されてたんだよね。
これは短編OVAで、メディア芸術祭で優秀賞受賞、ならびにモントリオールファンタジア映画祭で最優秀短編賞および批評家賞を受賞。
実際、この「ねこぢる草」は見たことある?
90年代、月刊ガロに連載されてたシュール系漫画のアニメ化で、確か原作者は人気絶頂の時に自殺で亡くなられたはず。
その原作の内容は、自殺という最期も理解できなくはない「神懸った天才」の領域で、いかにもガロという感じがした。
これのアニメ化を手掛けたのが「機動戦艦ナデシコ」等で知られる佐藤竜雄監督なんだけど、この作品で脚本、絵コンテ、演出、作画監督を務めたのが湯浅さんであり、ここから「湯浅政明という凄いアニメーターがいる!」と一気に轟いたわけさ。
一体、彼の何が凄かったのか?
それは、「水の表現」だといわれている。
百聞は一見にしかず、まずは実際に「ねこぢる草」を見てもらおう。

冒頭の水の表現、見ていただけただろうか。
昔からアニメーターにとって、水の表現は腕の見せ所だといわれている。
なぜなら水は透明なものであり、これがなかなか描くのが難しいのよ。
最も簡単なのは「水を水色で表現すること」なんだが、これをやっちゃうと確実に三流の烙印を押されてしまう。
ちなみに湯浅さんの場合は、透明な揺らぎで表現してたね。
これは実に巧い。
これ以降も、湯浅さんは作品でたびたび水の表現をしていくことになるのよ。
前述の「マインドゲーム」もそうだし、最も顕著なのは「夜明け告げるルーのうた」。

で、この「ルーのうた」の2年後、次に湯浅さんが手掛けたのは「きみと、波にのれたら」という純愛ラブストーリーである。
そう、ここでもまた、彼は水を描くことになるのよ。

「きみと、波にのれたら」

これは湯浅さんには珍しい純粋なデートムービーなんだけど、ここでもまた秀逸な水の表現を見せてくれている。

「ねこぢる草」の時より、さらに進化しとる!
なんていうかな、湯浅さんの本当の意味での凄さって、その進化形態なんだよね。
よく天才アニメーターといわれる人、たとえば黄瀬和哉とかでもいいんだけど、黄瀬さんなどは純粋にデッサン技術が飛び抜けてる人だと思う。
だけど湯浅さんも絵が巧いにせよ、そっち系ではなくて、どっちかというと創作の切り口を開拓していく方向性で飛び抜けてるんだ。
たとえば、この作品のようにAdubeFlashによるアニメ制作とか。
こういうのは、コスト面やスケジュール面を考慮しての試みだという。
だから彼は「天才」といっても、ねこぢる先生のように芸術的な意味での真の天才タイプじゃなく、どっちかというとロジカルに頭のいい頭脳派タイプなんだよ。

湯浅作品でいつも驚かされるのは、その映像のアイデアである。
彼は今敏幾原邦彦磯光雄みたいな物語系の作家でなく、明らかに映像系の作家である。
こういう人は、良い原作、もしくは良い脚本家とのコラボが必須かと。
四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」では上田誠(ヨーロッパ企画主宰)とのコラボだったが、「夜明け告げるルーのうた」や「きみと、波にのれたら」ではベテラン脚本家・吉田玲子とのコラボだね。
あと、湯浅作品では主要キャストを声優が本職ではない人を起用することが多いのも特徴である。

<湯浅政明の全劇場用作品>
・マインドゲーム⇒主演・今田耕司
・夜は短し恋せよ乙女⇒主演・星野源
・夜明け告げるルーのうた⇒主演・下田翔大
・きみと、波にのれたら⇒主演・川栄李奈
・犬王⇒主演・アヴちゃん(女王蜂)


ここまで徹底してるのは、かなり意図的なことかと。
もちろん声の演技では本職の声優さんが一番巧いのは確かなんだが、しかし声優さんは「萌え」とか「ツンデレ」とかアニメ的な文法で芝居しちゃう癖がある。
おそらく湯浅さんは、そういう文法に染まらない形で映画を作りたいんだろう。
彼の作品のカメラワークを駆使したあの独特なスタイルからして、その作家性は案外実写映画の方に根差してるんじゃないか?

とにかく、湯浅さんはきっちりと新しいものに向き合っているところがいい。
日本では、いまだ宮崎駿を神とする手描き信奉のカルチャーがあるんだが、正直いってそんなことも言ってられない時代だよ。
板野サーカス」みたいに手描き技巧の頂点を極めた板野一郎ですら、今じゃ3DCGを駆使する時代なんだからね?
黄瀬さんだって磯さんだって、きっちり3DCGアニメ作ってるじゃん。
で、どこより手描きのイメージの強いジブリが3年前、初めてフルCGアニメを作ったんだけど、それが「アーヤと魔女」ってやつさ。
企画・宮崎駿、監督・宮崎吾郎。

正直いうと、ちょっとガッカリしたんだよね。
あぁジブリ、明らかに周りに比べて乗り遅れてね?と。
これはまるで、ハリウッドが四半世紀前に作った「トイストーリー」みたいなテイストじゃん?
今後、神様・宮崎駿が亡くなったら、ジブリは普通に下降線を辿るのでは?と予感してしまった。
いや、別にデジタルなものがベストとはいわんし、そしてアナログなものを捨てるべきだとも思わん。
むしろ日本アニメの生き残る道は、その融合でしょ?
100%デジタルはむしろ海外の方が巧いし、日本は「セルルック」でそれをこなしていくのが今後の王道だよね。
まぁ、小池健みたいに「100%手描き」で超絶なのを作った例もあるが、でも、あの「REDLINE」は作るのに7年、作画枚数は10万枚という未曽有の手間がかかったんでしょ?

「REDLINE」監督・小池健

「REDLINE」が日本アニメの最高峰のひとつなのは認めるけど、でもこれは普通に考えて、アニメーター殺しである。
その点、湯浅さんが凄いなと思うのは、アニメーターの労働環境の改善まで踏まえてAdubeFlashの導入をしてること。
Flashアニメといえば、どうしても「鷹の爪」みたいなのイメージしてしまうけど・・。

おそらく日本で最も有名なFlashアニメ「鷹の爪」

で、「きみと、波にのれたら」の物語部分については、これ意外なほど純然たるデートムービーだった。
多分湯浅さんって、敢えて作風を絞らないようにしてるんだと思う。
正直デートムービーなんてどっちかというと苦手分野だろうに、敢えて苦手だからこそやった、という印象すらある。
事実、今までの劇場用長編5作品全て、マーケティングとしてターゲット層がバラバラなんだよね。
これ、意図的なものだと思うわ。
彼ほどの人なら宮崎駿や新海誠みたく自身の湯浅ブランドを作って、「湯浅作品といえばコレ」という作家性をもって固定ファンをがっちり固めることだって可能なはずなんだ。
そうした方が、きっと興行的に楽なはず。
でも「きみと、波にのれたら」を見る限り、彼自身が敢えてそれを拒んでるようにも感じたんだよなぁ。
今の段階ではまだ身を固めたくない、みたいな。
こういう変に安住を求めないスタンスは、せっかく自分で作ったサイエンスSARUからさっさを身を引いたことも同じだと思う。
実は、めっちゃストイックな人なんだろうか?
うん、きっとそうに違いない。
逆にいえば、この人はまだまだ今後も進化していくということだ。
今の日本アニメ界において、最も今後の動向が楽しみなアニメーターであることは間違いないぞ。

じゃ最後に、湯浅さんの方向性を示すものになるかは知らんが、彼が監督をした短編アニメ「KICK-HEART」を見てもらおう。

どう?
超アホっぽいアニメではあったが、一応これ、
・モントリオールファンタジア国際映画祭最優秀短編アニメーション賞受賞
・文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品
・アヌシー国際アニメ映画祭短編コンペティション部門ノミネート
・監修は押井守で、湯浅監督とは初のコラボ
・日本のアニメとしては初の本格的クラウドファンディング活用作品
などなど、それなりにフレコミの多い作品なのよ。
内容は、湯浅さんに影響力を与えたアニメ「タイガーマスク」のオマージュらしい。
なるほどねぇ・・。
なんか、彼のことがよくわからなくなってきたわ(笑)。

序盤30分、ひたすら2人のイチャイチャを見なくちゃならんので、そこが一番辛かった・・


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