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STUDIO4℃のアニメを知ってますか?

今回は、STUDIO4℃について書いてみたい。
STUDIO4℃、誰しも一度は聞いたことのある名前だろう。
だけど、具体的にどんな作品を手掛けてるかとなると、案外分からないものである。
じゃ、「音響生命体ノイズマン」って知ってる?
そんなアニメ知らんわ、という人は結構多いだろう。
でも私、この作品って日本アニメ史におけるエポックメイキング的なものじゃなかったかな、とさえ思ってるんだ。
制作は1997年、今から27年前である。
この作品の時間は僅かに十数分と短いものだし、百聞は一見にしかず、まずは本編そのものを見てもらおうか。

う~む、こういうのを1997年時点で作ったこと自体、私は素晴らしいと思う。
監督は森本晃司
また、森本氏とともに作画監督、キャラデザ、設定を手掛けたのが湯浅政明で、いわれてみれば絵の感じがまさしく湯浅さん風だろ?
音楽は菅野よう子
プロデューサーはSTUDIO4℃社長の田中栄子
短編なのに、なかなか豪華である。
これを見て真っ先に思い浮かんだのは、湯浅さんが監督した「映像研には手を出すな!」である。
あれは設定マニアの浅草氏がヒロインなんだが、「ノイズマン」を見てるとまさしく浅草氏=湯浅さん、という感じがするんだよね。

「映像研には手を出すな!」
左から、金森氏、浅草氏、水崎氏

「映像研」メンバー3人はなかなかよくできていて、設定がうまい浅草氏、画力がある水崎氏、プロデュースがうまい金森氏と、各々の得意分野が実にうまいこと噛み合っている。
私は「ノイズマン」にもそれがいえると思っていて
・浅草氏=湯浅政明
・水崎氏=森本晃司
・金森氏=田中栄子

という3人のスキルがぴたっとハマり、こういう傑作が生まれたと思う。
今でこそアニメ界の寵児である湯浅さんだが、この当時はまだほとんど無名だよ。
というか、こういう才能をチョイスして「ノイズマン」に引っ張ってきた、田中女史が結局のところ一番凄いのかもしれないけど。
彼女って、もとはジブリの古参である。
アニメーターではなく、ラインプロデューサーだったみたい。
その彼女が森本氏に声をかけて立ち上げたのがSTUDIO4℃なんだけど、彼女はこれの設立の際、
「王道はジブリがやる。
私たちは側道を埋める」

という名言を残している。
そう、まさに側道。
そのコンセプトを如実に示したのが、STUDIO4℃にとっての初の単独制作になる劇場用アニメ「ノイズマン」だったわけよ。
我々が後に知ることとなるSTUDIO4℃のカラーは、会社黎明期のこの一作にほとんど詰まってるといっていい。
色々な意味で、「ノイズマン」はとても重要な作品である。

「アニマトリックス」

で、「ノイズマン」の数年後、STUDIO4℃の名を世界的なものにしたのが「アニマトリックス」だよね。
これは9編の短編で構成されたオムニバス形式なんだけど、その9編のうち5編がSTUDIO4℃制作である。
田中女史は盟友の森本氏以外にも、渡辺信一郎前田真宏、大平晋也橋本晋治恩田尚之といったメンツを「アニマトリックス」スタッフとして抜擢している。
これらのメンバーは、この仕事をキッカケに世界的知名度を上げたらしく、特に渡辺さんあたり今じゃ米国で完全にVIP扱いだし、前田さんや大平さんも映画「キルビル」のアニメパート任されたりもしている。

「マインドゲーム」

そして「アニマトリックス」の翌年に、STUDIO4℃は湯浅政明にとって初の劇場用長編作品「マインドゲーム」を制作。
これが驚いたことに、文化庁メディア芸術祭でまさかの大賞を獲っちゃうのよ。
競合してたのがジブリ作品「ハウルの動く城」だったんだが、なぜかそれに勝っちゃったわけね。
あれ?
田中女史は、確か以前に
「王道はジブリがやる。
私たちは側道を埋める」
とか言ってたよな?
そうか、側道が王道に勝っちゃったのか・・(笑)。
さすがに田中女史も、鈴木敏夫の前で冷や汗ものだったに違いない。
この作品は湯浅さんの名声を決定付けたものだが、一方でこれ、渡辺さんが音楽プロデューサー、森本さんがREMIXディレクターとして参加していたりもする。
なんていうかさ、まさに「映像研」の集大成って感じだね~。

「鉄コン筋クリート」

「マインドゲーム」から2年後、次にSTUDIO4℃が手掛けたのは「鉄コン筋クリート」。
これは覚えてる人も多いだろう。
なんせ、日本アカデミー賞アニメ部門最優秀作品賞受賞だし。
その他にも様々な映画祭で賞を総ナメにしてたっけ。
しかし、私が何より驚いたのは、これの監督を米国人のマイケルアリアスにやらせたことだよ。
どういう経緯でこうなったのか知らんが(アリアスは『アニマトリックス』の製作をしてたらしく、その時からのコネだろう)、STUDIO4℃というのは妙にワールドワイドなところがある。
思えばこの作品の世界観、微妙に「ノイズマン」と似てるんだよね。
STUDIO4℃としては、むしろお得意のフィールドだったのかもしれん。

<harmony/>

さらにSTUDIO4℃は、マイケルアリアスにSF映画「harmony/」の監督を託した。
しかも今度は、アニメ界のレジェンド・なかむらたかしとの共同監督という離れ業である。
多分なかむら氏と田中女史は、「迷宮物語」の時のコネだろう。
そしてその4年後、STUDIO4℃は「海獣の子供」を制作。

「海獣の子供」

これも評価の高い作品だったね。
文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞。
ここでの一番の大きな収穫は、「ドラえもん」で名を馳せた、渡辺歩監督を引き入れたことだろう。
STUDIO4℃は、この2年後に「漁港の肉子ちゃん」を渡辺監督に託し、ここでもまた日本アカデミー賞アニメ部門優秀作品賞、メディア芸術祭優秀作品賞など、数々の栄誉を得ることに。
この作品は、明石家さんま企画プロデュースという吉本興業色の強い作品だったんだが、思えばかつての「マインドゲーム」もまた主演・今田耕司を筆頭に吉本オールキャストだったわけで、こういうのもまたコネというものだろうか。
何にせよ、こうして立て続けにして各映画賞を総ナメにし、今となっては
STUDIO4℃=クオリティ高いアニメを作るところ
というイメージがすっかり定着したと思う。

「Future Kid Takara」

で、そんなSTUDIO4℃が来年、初のオリジナルアニメとなる長編映画を公開するらしい。
タイトルは「Future Kid Takara」(←ダサくね?)らしく、近未来を舞台にしたディストピア系SFなんだってさ。
じゃ監督は誰かというと、佐野雄太という人らしい。
聞いたことない人だなと思ったら、文化庁の若手アニメーター育成事業の「あにめたまご2017」(←昔は『アニメミライ』だったよね?)でSTUDIO4℃からショートアニメを出品した人みたい。
まだ若手なのかな?
とりあえず、彼が出品したというショートアニメ「RedAsh GEARWORLD」を見てみよう↓↓

なるほど、3DCGの人なんだね。
これ、大河内一楼が脚本を書いたものらしい。
これだけでは佐野さんの力量がどれほどのものかは分からんけど、おそらく田中女史の抜擢だけに、きっと才能のある人なんだろう。
かつて森本晃司、湯浅政明、渡辺信一郎といった優れた才能を見抜いてきた彼女ゆえ、その慧眼は信用できるのでは?
「王道はジブリがやる。
私たちは側道を埋める」

といってたのも昔の話さ。
いよいよSTUDIO4℃もオリジナルアニメでSFをつくるという、まさにジブリ的な王道に足を踏み入れるわけよ。
今から、楽しみにしようじゃないか。


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